熱中症・熱あたり防止 暑さに身体を慣らす“暑熱順化”がキーポイント

夏日もいくつか出てきて、いよいよ本格的な熱中症シーズンに突入する。地球温暖化も進み、例年災害級の暑さが観測される地域もある日本において、夏を健康に過ごすための対策は必須となる。
気温も湿度も高い夏でも体力、集中力を落とさず快適に過ごせるかは、実は初夏に向けて暑さに身体を順応させる「暑熱順化」ができているかがキーポイントになる。盛夏を迎えて熱中症や熱あたりを起こさないための対策を、熱中症に詳しい医師の谷口英喜氏に聞いた。(大正製薬リリースより)

大正製薬が全国の20代以上の男女1000人に「暑熱順化を意識してやっていること」を調査したところ、262人が「暑熱順化は意識していない」と回答。 暑熱順化のために行っている事柄の中では、「水分をこまめにとる」(480人)が最多で、次いで「睡眠をしっかりとる」(336人)、「汗をかく程度の活動(軽い運動など)をする」(319人)、「入浴を欠かさない・こまめにする」(251人)と続いた。
暑熱対策として積極的にとる栄養素としては「たんぱく質」(190人)という人が最多で、「ビタミンC」(143人)、「クエン酸」(136人)、「ビタミンB1/B2/B6」(120人)、「タウリン」(66人)の順であった。そこで、盛夏を迎えて熱中症や熱あたりを起こさないための対策を、熱中症に詳しい医師の谷口英喜氏に聞いた。()
5月後半~梅雨明け前に取り組むのが理想的
暑熱順化とは、身体を徐々に暑さに慣らすことで、夏の高温環境に適応できるようにするための重要な生理的プロセスである。人間は汗をかいて気化させることで体温を冷やすが、そのためには自律神経がきちんとコントロールでき、汗をかくことに慣れていることが必要である。
暑熱順化を効果的に行うためには、少なくとも2週間程度の継続的な取り組みが必要とされている。最近では、暑さが原因で体へ熱が溜まったことによる体調不良を熱あたりと呼ぶこともあり、暑さ対策が改めて叫ばれている。
酷暑の中で急に暑さにさらされるのではなく、今の時期から意識してライフスタイルを整えておくことが、熱中症をはじめとする夏の不調の予防につながる。
自律神経を整え、体温調節をしやすくする栄養補給を
食事と栄養の面でも、暑さに対応できる体づくりが重要である。体温調節に重要な自律神経や肝臓、筋肉の機能をサポートして疲労回復を図るタウリン(イカ、タコ、アサリ、その他の魚介類に豊富)、エネルギー代謝や疲労軽減に欠かせないビタミンB群(豚肉や豆類など)、抗酸化作用のあるビタミンC(キウイなどのフルーツ)、さらには疲労物質の代謝を助けるクエン酸(梅干しや酢)などの栄養素をバランスよく摂取することが推奨される。
また、汗とともに失われやすいナトリウムやカリウム、マグネシウムといった電解質も、汗をかく上で不足しやすい成分である。お味噌汁や果物などで補うようにしよう。
加えて、熱中症シーズンに向けて、水分の貯蔵臓器である筋肉を増やし、膠質浸透圧(血管内の水分を維持し、体液のバランスを保つ上で重要な生理的圧力)の主構成要素であるアルブミンの原料となるたんぱく質(肉や魚、大豆などに豊富)もこまめに摂る習慣をつけておこう。筋肉は毎日少しずつ破壊されているので、毎日補う必要がある。軽度の運動を付け加えるとさらに効果的だ。
水分補給も非常に大切だ。日常的にこまめに水分を補う習慣をつけよう。1日あたり1.2〜1.5リットルを目安に、カフェインやアルコールは除いて水や麦茶などを取り入れ、1日8回程度(寝起き、朝食時、昼食時、おやつ時、夕食時、入浴前、入浴後、就寝前)に分けてこまめに飲むのが理想である。なお、冷たい飲食物の摂りすぎは胃腸の働きを低下させて暑熱順化を妨げる原因となるため注意しよう。
軽い運動を習慣に。ただし、日中歩くのは暑くなる前まで
ウォーキングやジョギング、サイクリングなどの軽い運動を、1日30分程度、週に5日ほど行うことも暑熱順化に役立つ。やや汗ばむ程度の負荷で、暑くなる前の時期であれば午前10時から午後3時の比較的気温が高い時間帯に実施することで、発汗機能や血液循環が促され、順化効果が高まる。
庭仕事や徒歩通勤など、日常生活の中で屋外での活動を増やすのでも良いだろう。栄養と運動で筋肉量と機能を保ち、自律神経を活発化させることで汗腺の働きが活性化され、効率的に熱を放出できる体になる。
入浴で汗腺機能を呼び覚ます
入浴もまた、暑熱順化にとって非常に有効だ。38〜40℃のぬるめのお湯に10〜20分間、半身浴を行うことで無理なく発汗が促され、汗腺の機能が整えられる。シャワーだけで済ませず、できるだけ毎日湯船につかるのが理想である。湯舟に浸かるのが難しい場合は、背中の肩甲骨まわりや腰の仙骨部など、血流が豊富で自律神経に関与する部位にシャワーを当てると、体を効果的に温めることができると言われている。
質のよい睡眠をたっぷり
就寝前1~2時間前にお風呂を済ませると、ちょうど就寝時に深部体温が下がり、睡眠の質が高まることが期待できる。十分な睡眠と生活環境の調整も自律神経を整える上で欠かない。睡眠不足や慢性的なストレスは自律神経のバランスを乱し、体温調節機能を低下させてしう。この時期からエアコンの使用も、過度に頼るのではなく、朝晩の涼しい時間に窓を開けるなどして自然の気温に身体を慣らす工夫を取り入れると良いだろう。
夏の暑さに耐えられる体づくりのためには、少なくとも2週間程度以上のプロセスが必要である栄養・運動・入浴・睡眠を意識して、自律神経を整えることを意識し、無理なく継続することが何より重要だ。今からできることを積み重ねて、夏本番に向けた備えを始めよう。
ただし、気温が上昇する真夏は、涼しい場所での休養、疲労回復、十分な水分の摂取、3食を欠かさないバランスの取れた食生活が重要となり、暑熱順化の段階とは異なる対処が必要となるので注意して頂きたい。