創薬力アップが国民の健康・安全確保だけでなく経済成長にも大きく貢献 加藤勝信厚生労働大臣 【完全版】

(このインタビューは、9月11日に収録したものです)

 加藤勝信厚生労働大臣は11日、医薬通信社の取材に応じ、「スタートアップや円滑な治験の支援、ゲノム情報などのデータベースの構築などの取り組みによって創薬力をアップさせていくことが、国民の健康・安全確保のみならず、経済成長にも大きく貢献する」との考えを強調した。
 また、昨年11月22日に緊急承認された国産の新型コロナ経口治療薬「ゾコーバ」(塩野義製薬)、本年8月2日に承認された新型コロナmRNAワクチン(第一三共)にも言及。ゾコーバについては、「妊娠されている方には使用できず、また、複数の医薬品が併用禁止となっているという課題はあるものの、ここにきて利用が広がっているように思う。軽症者用の新型コロナ治療薬としては世界初なので、国内のみならず海外展開も注目される」と述べた。
 新型コロナmRNAワクチンは、「様々なモダリティの国産新型コロナワクチンの開発を相当支援してきたがなかなか出ず、先般初めて承認された」と振り返り、「国も含めて、これまでワクチンに対する取り組みが十分ではなかったことを反省し、次なる感染症に備えたい」と訴求した。

日本の創薬 イノベーティブの流れに乗り遅れなく世界の先頭を

 加藤大臣は、わが国の創薬のあり方として、「医療そのものがイノベーティブな形で展開される中で、日本もその流れに遅れることなく、先頭を走るべくやっていかねばならない」との基本認識を示した。
 近年、創薬エコシステムは大きく変遷しつつある。かつては、大手製薬企業が、研究開発から製造、上市まで全ての過程に携わってきたが、現在は、ベンチャーがシーズを開発し、製薬企業がそれを発展させていく形態が主流を占めてきた。製造部門も、場合によっては切り離す「半導体に近い形式」に変化している。
 加藤大臣は、「こういった状況を見据えた上で、わが国の創薬イノベーションを支援していく必要がある」と言い切る。その上で、まず、「スタートアップのところが弱い」と指摘し、具体的な支援として「スタートアップにおける法規制やマーケティングなどの相談に答える専門家を擁した‟医療系ベンチャートータルサポート事業”(MEDISO)」、「医薬品の実用化・開発に補助金を交付する‟創薬ベンチャーエコシステム強化事業”(AMED)」を挙げる。
 スタートアップは、「政府の補助金とベンチャーキャピタルの資金が相まって実施されるのが望ましい。ベンチャーキャピタルも国内だけに拘らず、海外からも引っ張って来てほしい」と要望する。
 ただ、あまり海外に傾き過ぎれば、「製品化そのものが海外に行ってしまう可能性がある。基礎研究は日本発だが、違う国で製品化された例も珍しくない」と懸念する。「国内の基礎研究をベースとして研究開発し、実用化するという流れを作っていきたい。そのターゲットは、国内市場だけではなく、海外の市場も見据えて展開していく必要がある」と断言する。

臨床試験の支援や創薬のためのデータベース構築にも注力

 医薬品開発で不可欠となる臨床試験も、2015年から「臨床研究中核病院」の設置を推進して支援している。「14の中核病院を明確にすることで、そこに被験者や治験ノウハウが集結し、国際的治験にも繋がっていく」
 共通の国際治験の基盤作りの重要性も指摘し、「日本を含めたアジア一帯で治験を行えば、その地域で使えるデータになる」と説明する。さらに、「規制のあり方もハーモナイゼーションすることで、日本でクリアしたものを他国でも自動的に認められるようになるのが望ましい。たとえ自動的に認められなくても、似たような承認体制にすれば、ターゲットが拡がって来る。そういった努力も必要」と訴求する。
 創薬のためのデータベース構築も見逃せない。「どのようにしてデータを集め、分析してターゲティングしていくのかは創薬において非常に重要な部分を占めており、広い意味では医療の効率や質を向上させる医療DX(デジタルトランスフォーメーション)に繋がっていく」との考えを示す。
 その一例として、昨年9月に策定された「全ゲノム解析等実行計画2022」を挙げ、「データ基盤をしっかりと構築していくので、創薬ターゲティングの同定などに役立ててほしい」と訴えかける。
 加藤大臣は、厚労省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」の報告書にも言及。「ジェネリック医薬品を中心とした供給制限問題への対応、創薬における課題、ドラッグラグ、ドラッグロス解消のための課題を定義し、解決のための方向性が示された」と説明し、「具体的にどのような手を打っていくかが次の段階になる」と語った。

創薬力アップ・安定供給のための価格設定のあり方は課題に

 薬価については、「国民の皆さんが負担する保険料と税金で賄っているので、実勢に応じて見直していく必要はある。毎年改定には色々な議論があるものの、国民は『実勢価格が下がっているのであれば、それは負担に反映すべき』という視点でみている」と話す。
 ただし、「実勢価格を適切に把握する、あるいは創薬力のアップや安定供給を図っていくために、どのように価格を設定していくべきかについては課題があると認識している」
 では、国民負担とイノベーションの両輪を上手く回すにはどのような施策が取られてきたか。これまで新薬創出等加算など様々な試みが実施され、たびたび見直しも行われた。2023年度の薬価改定時も「ドラッグラグ、ドラッグロスを改善するために新薬創出等加算を増額する」というこれまでにない対応が取られた。
 有識者検討会でも、「国内で革新的な医薬品を創出していくという観点から、新薬創出等加算や市場拡大再算定の運用や制度のあり方が議論されており、さらに議論を深めて行く必要がある」

全世代対応型の持続可能な社会保障制度の構築を

 加藤大臣は国民皆保険制度にも言及し、「世界に冠たる制度で、維持すべく常に努力しなければならない」と力説する。高齢化や医療技術の高度化が進む中で、医療費は余儀なく増大していく。「その増大分全てを、国民は負担しきれるものではない」のが現状だ。
 そこで、「必要な医療ニーズには対応していく一方で、様々な見直しも不可欠」。医療DXの推進もその一例で、メリットとして「医療事務の効率化」、「重複投与の改善」などがある。こうした施策は、「全世代対応型の持続可能な社会保障制度の構築」に向け展開していく。
 「これまでの社会保障は、どちらかと言えば若い世代が高齢者を支えるという形であったが、今後は若者とか高齢者ではなく、それぞれの能力に応じた負担をベースにしていかねばならない」と力説。
 その上で、「日本は、誰もが、どこでも、お金に困ることなく、必要な時に質の高いプライマリー・ヘルスケアを受けられる‟UHC”の先進国と言われており、国民皆保険制度がそのベースになっている。‟全世代対応型の持続可能な社会保障制度”の構築を図っていきたい」と抱負を述べる。
 最後に加藤大臣は、国産の新型コロナ治療薬、ワクチン開発を例に挙げ、「創薬基盤の強化は、広い意味で国の安全保障、国民の健康・安全を確保の観点から不可欠である。しっかりと取り組んでいきたい」と意を強くする。

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