慶應大学発ベンチャー企業のHeartseedは10日、iPS 細胞を用いた心筋再生治療薬HS-001について、P1/2試験(LAPiS 試験)において1例目の移植に成功したと発表した。
HS-001 は、Heartseed の基盤技術に基づいて他家 iPS 細胞由来の純化精製心筋細胞を微小組織(心筋球)にした重症心不全に対して開発中の再生医療等製品で、複数の非臨床試験で安全性・有効性が示されている。
Heartseedは、慶應義塾大学医学部循環器内科福田研究室のシード技術の事業化による心筋再生医療の実現化を目指し、2015年に設立されたバイオベンチャーだ。同社では、HS-001の初めての患者への投与となる治験、LAPiS 試験を国内で進めており、今回、1例目の患者への移植が東京女子医科大学病院で2022年12月中旬に無事終了した。患者の経過は概ね順調に推移している。
独立安全性評価委員会は、この患者の4週間のデータを評価した結果、同治験の継続を承認しており、引き続き HS-001の臨床評価を進めていく。
LAPiS試験は、虚血性心疾患に伴う重症心不全患者を対象とする52週間のP1/2相多施設共同、非盲検、用量漸増試験である。冠動脈バイパス手術と合わせて、開胸下で専用の移植デバイスを用いて HS-001を心臓の心筋組織内に移植する。
予定症例数は10例で、前半の5例には5000 万個、後半の5例には1億5000万個の心筋細胞を移植する。同試験の主要評価項目は、移植後26週目の安全性で、副次的有効性評価項目として、左室駆出率および心筋壁運動評価などを段階的に評価していく(jRCT 登録番号:2033210163、Clinical Trials.gov 登録番号 NCT04945018)。
心不全は、心筋梗塞等の虚血性心疾患や拡張型心筋症などが原因で、心臓が全身に必要な血液と酸素を十分に送り出せなくなる慢性かつ進行性の疾患だ。
国内で120万人、世界で6500 万人以上が心不全とされ、患者数は「心不全パンデミック」と呼ばれるほどの増加を続けている。心不全を含む心臓病は国内ではがんに次ぐ死因の第2位、世界ではトップを占めている。
近年の治療の進歩にもかかわらず、重症心不全の治療は主に症状を緩和するもので、心臓移植以外に抜本的な治療手段がなく、革新的な心不全治療法の開発が求められている。
HS-001の開発・製造・販売に関しては、Heartseed はノボノルディスク社(本社:デンマーク)と全世界での独占的技術提携・ライセンス契約を締結している。
なお、同治験の実施には、日本医療研究開発機構(AMED)より、次の支援を受けている。
再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業(再生医療シーズ開発加速支援)「iPS 細胞由来再生心筋細胞移植療法の産業化を見据えた臨床試験(治験)移行のための品質・安全性の検討ならびに当局対応」(代表者:福田 恵一)(2018 年度-2020 年度)
◆1例目の移植を担当した新浪博士東京女子医科大学病院心臓血管外科教授のコメント
心筋球の移植は通常のバイパス手術後、1時間以内で特に問題なく終わった。施術や免疫抑制剤に伴う重篤な合併症や副作用もなく、術後の経過も良好である。重症心不全治療の進歩に向けた大きな一歩となったと思う。
◆福田恵一Heartseed代表取締役社長のコメント
私は、循環器内科医として長年にわたり、心臓の働きが悪くなり、日常生活もままならない心不全の患者さんを何とか治療したいと考え、心筋再生医療の実現に取り組んできた。
その目的を達成するためにHeartseedを設立し、患者さんの安全とベネフィットを最優先に、開発を続けてきた。
そしてこの度 HS001の1 例目の移植が無事に行われたことは、私が長年思い描いてきた、これまでにない心不全の新たな治療法の確立に向けての大きな第一歩であると確信している。これまでご尽力いただいた全ての方々に深く感謝申し上げたい。
◆ヤコブ ステン ピータセン ノボノルディスク社幹細胞治療研究開発ユニット コーポレート バイス プレジデントのコメント
細胞治療は、重篤な慢性疾患に罹患している患者さんに対して、真に疾患を改善する治療法として期待されている。
我々のパートナーである Heartseed社が、心不全に対するこの画期的な治療法の臨床試験を開始したことを大変嬉しく思う。Heartseed社の日本における先駆的な取り組みを基に、世界中の心不全を患う方々に革新的な治療法の提供を目指したい。