基調講演「かぜ、インフルエンザ、そしてコロナ」
社会福祉法人恩賜財団済生会支部大阪府済生会中津病院呼吸器内科部長 上田哲也先生
済生会中津病院の呼吸器内科は、新型コロナ発生当初から診療を行って、入院患者1000人以上を見ている病院で、個人的には訪問診療のチームのお手伝い等でコロナ診療のさまざまな面を見てきました。
人類は、感染症との戦いで、天然痘、ペスト、コレラ、結核など感染症と戦ってきました。近年ではスペイン風邪、2009年に新型インフルエンザのパンデミックがあり、2020年の1月に武漢での新型コロナウイルス関連の肺炎発生が報道されました。
ウイルスや細菌では、その病原体への感染と発症は違い、同じように病原体に曝露されてもうつる人と、うつらない人とがいます。うつっても発症しない場合もあります。感染は、体の中で細菌やウイルスが増えるということなのですが、必ずしも全員が発症するわけではなくて、それは個々の人間の状態の問題で変わってきます。
ウイルスの方の側では、麻疹は感染したらほぼ100%発症するもの、結核のように飛沫を吸ってうつっていくが、その飛沫が空気中を漂っていて少し時間が経ってからでもうつるものもあります。結核は、うつっても全員が発症するわけではなくて、2年以内に6~7%が発症し、大概の人は自分の免疫で発症せずにいます。
だが、免疫力が落ちた時に何十年も経ってから、あるいは他の病気になって免疫を抑える薬を使った時に発症するというようなこともあります。ほとんどの人(90%以上の人)は、感染しても生涯発症はしません。
ウイルスと細菌についてですが、ウイルスは新型コロナウイルス、インフルエンザといったもの、細菌は肺炎球菌、食中毒を起こすサルモネラ菌などです。一番の違いは、ウイルスは単独では増殖できなくて、ヒトの細胞に寄生して人の細胞を利用して増えていくことです。細菌は、自分自身でどんどん細胞分裂して増えていくことができるし、そこから毒を出す病原体です。
新型コロナウイルスの構造は、殻があって殻の表面にスパイクタンパクというものが付いています。そのスパイクタンパクがヒトの細胞のレセプターにくっついて入ってくると、殻が開いて殻の中のRNAが外に出て細胞の中に出てくる、その中でRNAが複製される、またはRNAから翻訳されて、タンパク質、部品ができくっついて新しいウイルスができます。
インフルエンザウイルスも、やっぱり表面にこういうノイラミニダーゼ、あるいはヘマグルニチンというタンパクがぽこぽこっと出てきて、中にRNAが入っているという構造です。ウイルスの変異というのは特にDNAよりもRNAタイプのほうがその複製の過程で全く同じものを作るはずが少し違うのができてしまう、それを修正するのがRNAのほうが若干いい加減で、すぐ違うタイプのウイルスが出現するのでパンデミックを起こしやすいというふうに言われています。
最近言われるのは、「コロナは風邪みたいなもんやから別にそんな怖がらんでええねん」。それはどうなのか。それには重症化、死亡のリスクがどうなっているのか、治療ができるのかというところが重要です。大阪府が出しているデータでは、60歳未満の人では第一波では5%、60歳以上に至っては16%とか非常に高い致死率でありました。特に、オミクロンになってから非常に死亡率は下がって弱くなっていて、季節性インフルエンザで60歳以上の方の死亡率が0.55だとすると、今の第8波はそれに近いぐらいの0.67ということになっていて、弱くなっているのは間違いないと思います。
今年は、新型コロナとインフルエンザの同時流行が起きるということを言われて、新型コロナウイルス感染症は第8波に入っていて急に増えています。大阪府民の約26%がかかっていて、9割以上はこの最近のオミクロンになってからの第6波以降の感染者です。
また、大阪で献血した人を11月の1週間調べたところ、全国26%に対して大阪では40%の人がすでにコロナの抗体を持っていたということです。このコロナの抗体はワクチンでできる抗体じゃなくて実際感染していた人に出る抗体です。
同時流行が起きるかもしれないということの対策は、大阪府のホームページに載っています。ホームページを見ることのできないお年寄りに、どこに電話したらいいのか等の情報も教えてあげてください。
薬剤師 宮奥善恵