幸福度は70代男性で高く30代男性では低い傾向に ドクタートラストがストレスチェック分析結果公表

 ドクタートラストは、同社ストレスチェック研究所で2021年度にストレスチェックの実施を受託した32万人分の集団分析データから算出した、年代別、性別、それぞれの「幸福度」結果を発表した。
 同データ分析では、最も幸福度が高いのは「70代男性」で、最も幸福度が低いのは「30代男性」となった。
 役職定年などにより重責から解放される50代に対して、30代はライフイベントが多く、プライベートでは結婚・出産・子育てなど、仕事ではキャリア構築が進む中で職務上の責任も増え、それに伴うストレス負荷掛が掛かっているものと考察された。幸福度は、性別よりも年代に影響される可能性が高かった。
 ストレスチェック制度は、従業員のメンタル不調の予防やその気付きの促進や、ストレスが高い人の状況把握やケアを通して職場環境改善に取り組むことを目的として制定され、2015年12月以降、従業員数50名以上の事業場で年1回の実施が義務づけられている。
 ドクタートラストでは、ストレスチェックサービスを利用した累計受検者122万人超のデータを活用し、さまざまな分析を行っている。今回は、このうち2021年度に受検した32万4642人のデータのうち、4尺度5設問に着目し、年代別、男女別の幸福度算出を試みた。調査概要及び、4尺度5設問内容は次の通り。

【調査概要】
・調査期間:2021年4月1日~2022年3月31日

・調査対象:ドクタートラスト・ストレスチェック実施サービス 2021年度契約企業・団体の一部
企業・団体数:940
有効受検者数:32万4642人

【「幸福度」算出の根拠としたストレスチェックの4尺度、5設問】

・ 尺度(1)働きがい:設問「働きがいのある仕事だ」

・ 尺度(2)仕事の満足度:設問「仕事に満足だ」

・ 尺度(3)家庭の満足度:設問「家庭生活に満足だ」

・ 尺度(4)ワーク・エンゲイジメント:設問「仕事をしていると活力がみなぎるように感じる」、「自分の仕事に誇りを感じる」

 このうち尺度(1)、尺度(4)が生活の土台となる「活力」や「やる気」に関わる項目であり、尺度(2)、尺度(3)が公私全般における満足度を尋ねる項目である。今回は、この土台部分および現状への満足度を総合して「幸福度」と位置付けている。これらの4尺度の平均点を合計し、年代別、性別の傾向を次のように導出した。

【結果概要】

1、年代別幸福度分析~最も幸福度の高い70代、最も幸福度の低い30代~

 前述通りに幸福度はストレスチェック設問のうち4つの尺度(働きがい、仕事の満足度、家庭の満足度、ワーク・エンゲイジメント)の平均点を合計した数値である。4~16点の幅で算出され、数値が小さいほど幸福度が高い(好ましい)傾向にある。

 表1は、「年代別」に導出した幸福度である。縦軸が幸福度の点数、横軸が年代を示している(数値の低いほうが、幸福度は高い)。
 表1から、10代の若年層と60、70代の高齢層は、20~50代の中間層にくらべ幸福度が高いことがわかっる。10代は生活上の自由度が高いこと、60、70代はストレス耐性が他の世代にくらべ強い、また役職定年などにより重責から解放されていることで、50代以降は幸福度が回復する傾向にあると推測される。
 20~50代の中間層では、特に30代の不良傾向が目立った。30代はライフイベントが多く、プライベートでは結婚・出産・子育てなど、仕事ではキャリア構築が進む中で職務上の責任も増え、それに伴ってストレス負荷がかかっているのではないかと考察される。

表1

2、男女別幸福度分析~トータルで幸福度の高い女性と、ワーク・エンゲイジメントの高い男性~

 表2は、幸福度に関わる4つの尺度について、「男女別」に平均点を示したグラフである。数値が小さいほど良好(幸福度が高い)傾向にある。「働きがい」「仕事の満足度」「家庭の満足度」では、若干ではあるものの女性が良好(好ましい)とわかった。
 一方、「ワーク・エンゲイジメント」は男性のほうが良好傾向にあった。ワーク・エンゲイジメントとは、仕事に対して熱意がある、仕事に没頭している、仕事から活力を得ていきいきとしている状態を指す。
 ワーク・エンゲイジメントが高まる理由として、仕事で成果が出たときや人の役に立っていると感じたときなどが挙げられる。
 ただし、どの項目においても性別で点差は大きく開かず、幸福度は性別よりも年代に影響されていると考えられる。

表2

3、年代別、性別にみた幸福度の違いと理由

 ここまで幸福度は性別よりも年代に影響されているのではないかと推測したが、年代と性別で分析を行うことで、より詳細な結果が表れた。

 表3は、「年代別かつ性別」で幸福度を示した。数値が小さいほど良好(幸福度が高い)傾向にある。最も幸福度が高かったのは「70代男性」であった。60代と70代の数値の差が開いた理由としては、2021年4月に高年齢者雇用安定法が改正され、70歳までの就業が努力義務になった。
 その中で、勤務形態が正社員から嘱託やパートアルバイト、契約社員に変わり、シフト制や週3日勤務といった働き方が可能に、空いた日には自分の時間を確保することができるようになったことがストレス負荷軽減に影響、ひいては幸福度の向上に寄与しているのではないかと考えられる。
 一方の60代は、「昨今のコロナ禍の影響で仕事の引退時期が本人の想定時期よりも早まった」、「介護や自身の健康問題に対する不安、退職による経済的な心配、やりがいの喪失などが点数を引き上げた(好ましくない)」のではないかと推測される。
 逆に、最も幸福度が低かったのは、「30代男性」、次いで「30代女性」であった。同結果は、次の理由が考えられる。

<男性に多い傾向>
・役職が上がり、下の世代と上の世代の板挟みになる場面が増える(人間関係の配慮や業務量が増える)

・結婚や出産、子育てによってより一層責任感が増す

・住宅や車等を購入し、経済的な負担が増える

<女性に多い傾向>

・結婚、出産によってライフスタイルが大きく変化する

・育児がうまくいかないことにより悩みを抱えやすくなる

・職場復帰後、なかなか周りの環境に馴染むことができない

・人との価値観や考え方の違いに違和感を抱くようになる

表3

4、ストレス度合いにも、幸福度と同様の傾向がみられる

 ドクタートラストで2021年度ストレスチェックを受けた32万人の結果から年代、男女別に高ストレス者率を算出したところ、最も高ストレス者率が高いのは30代男性の17.2%であり、幸福度と同様の傾向が見られた。そのため、幸福度と高ストレス者率は、関係性が強いと考えられる。

【総括】
 幸福度の感じ方は個々人ごとに違うため、さまざまな角度から分析しても絶対的な数値を算出することは容易ではない。だが、ストレスチェックの設問で、幸福度に関わる4つの尺度平均の合計点を用いることによって年代別、男女別の幸福度の違いが見えた。
 今後は、ワーク・エンゲイジメントから高めることで働きがいを感じ、職場のみならず私生活への満足度へつなげていくことが非常に重要である。
 また、個人の幸福感を高めることは、ひいては組織の幸福感向上にも貢献する。ワーク・エンゲイジメントを高める働き方改革の施策について、企業としても検討していく必要があるだろう。

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