外科医の手術経験数に男女格差! 大阪医科薬科大学等研究グループ

外科診療におけるジェンダーバイアスの克服目指して

 河野恵美子大阪医科薬科大学医学部一般・消化器外科学教室助教らのグループは、日本消化器外科学会によるNational Clinical Databaseを利活用した研究で、6術式における外科医1人あたりの執刀数を男女間で比較し、外科医の手術経験数の男女格差を見出した。
 同研究は、 外科診療におけるジェンダーバイアスの克服を目的としたもので、6術式は、胆嚢摘出術・虫垂切除術・幽門側胃切除術・結腸右半切除術・低位前方切除術・膵頭十二指腸切除術。
 その結果、いずれの術式も女性外科医は男性外科医より執刀数が少なく、特にこの差は難度の高い手術で顕著であった。さらに、この男女格差は、経験年数の増加とともに拡大する傾向にあった。
 手術経験を積むことが指導的立場に就くために不可欠であることから、外科診療における男女格差是正に向け、早急な対応が求められる。
 外科医チームメンバーの手術執刀担当の割り振りは、殆ど各施設の外科のトップで決められている。これまでの海外の研究により、外科医の手術トレーニングにおける男女格差の存在が判明している。
 だが、若い研修期間中に限定されている報告がほとんどであり、全ての経験年数別に比較されたものはなかった。
 大阪医科薬科大学の河野恵美子助教、東京大学の野村幸世准教授、及び岐阜大学の吉田和弘学長らの研究グループは、日本の外科手術の95%以上が登録されているNational Clinical Databaseのデータを用いて、6術式(胆嚢摘出術・虫垂切除術・幽門側胃切除術・結腸右半切除術・低位前方切除術・膵頭十二指腸切除術)における外科医1人あたりの執刀数を男女間で比較した。
 その結果、全ての術式で女性外科医は男性外科医より執刀数が少ないことが判明した。格差は手術難易度が高いほど顕著であり、経験年数の増大とともに拡大する傾向にあった(図1)。
 消化器外科に指導的立場の女性が極端に少ないのは、外科手術のトレーニングの機会が均等に与えられていないことが主たる原因であると考えられた。

図1


 厚生労働省3師調査によると、2006年の外科医師数は3万2448人であったが、2018年には1万3751人と激減し、外科医不足が深刻化している。
 一方、外科医に占める女性の割合は、4.2%から6.2%に増加しているが、2006年・2018年ともに年齢層別の女性外科医数は、30~34歳が最も多く、指導的立場にある女性は極端に少ないのが特徴だ。
 日本消化器外科学会認定施設の代表者は男性が966名に対し、女性はわずか7名(0.7%)に過ぎず、女性が組織をマネージメントする立場に就くことは容易ではない。
 河野氏らは、これらの問題の解決の糸口として、女性外科医の手術修練に着目した。日本では、女性外科医の手術トレーニングに関して詳細な検討はなされたことがなかった。
 諸外国では、研修期間中の男女間の手術トレーニングでの格差が明らかにされているが、全ての年代で検討されたものはない。手術経験は、上長の指導の元で初めて積むことができる上、キャリアに大きな影響を与えるため、全年代で手術経験の男女間の差を明らかにすることは、指導的立場に女性が立てない理由を考察する上で重要な意味を持つ。
 同研究では、日本の外科医が行った手術の95%以上が収録されている大規模なナショナルデータベースであるNational Clinical Databaseを用いて、女性外科医が執刀した手術の数や手術難易度を経験年数別に明らかにし、男性医師との対比によって女性医師固有の問題点を明らかにすることを試みられた。
 今回の研究で、手術執刀機会において男女格差が存在していることが明らかになった。今後は、同研究で得られた結果をもとに、世界共通の目標として掲げられている「持続可能な開発目標(SDGs)」の1つであるジェンダー平等と女性の能力強化が外科に浸透することが期待される。

◆研究者のコメント
 性別が手術執刀経験に大きく影響を与えているという結果となった。女性も一定以上の手術手技を獲得し、指導的立場で日本の外科診療を担っていくことが本来のあるべき姿である。
 本研究結果が外科におけるジェンダー平等と女性のエンパワーメントの実現につながることを期待している。

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