‟緊急承認制度”の趣旨に則った審議を 塩野義の経口新型コロナ治療薬「ゾコーバ」

 新型コロナウイルスの国内感染者は、22日現在で新たに19万5160人確認され、3日連続で1日当たりの最多を更新した。今後もさらなる増加が予想される。
 こうした中、厚生労働省の薬食審・薬事分科会及び医薬品第二部会の合同会議は、20日、塩野義製薬の新型コロナ治療薬「ゾコーバ錠」の‟緊急承認制度”による可否を審議し、「さらなる継続審議」と決定した。同合同会議は、6月20日開催の緊急承認制度での承認可否を継続審議とした医薬品第二部会に続く、2度目の会合として注目されていた。
 合同会議でPMDA(医薬品医療機器総合機構)は、ゾコーバの臨床試験のP2bパート(428例)解析について、「ウイルスの減少効果は確認されている」ものの、「主要評価項目である新型コロナの12症状の改善状況について基準を満たしていない」と報告。「緊急承認制度の科学的根拠に基づく有効性の推定には当たらない」との見解を示し、P3相試験データ提出後に改めて審議する「継続審議」を提案した。

 審査機関の委員からも、「現在の申請データでは有効性が推定できない」、「非臨床試験でみられた催奇形性リスクや、多くの薬物相互作用を考慮する必要がある」など否定的な意見が相次ぎ、現在実施中のP2/3試験(T1221試験)の第3パートで得られた結果提出を待って改めて審議することになった。可否の結論は、今秋以降に持ち越される見通しだ。
 果たして、「承認見送り」を決議した今回の審議会の議論内容は妥当であったのか。今春できた緊急承認制度では、臨床試験が全て終了していない中間段階のデータ提出による承認申請が可能だ。安全性は従来通りの「確認」が必要だが、有効性は「推定」できれば暫定的に承認できる。
 だが、その有効性については明確に示されておらず、今後の緊急承認のあり方を模索する上でも、改めて今回の審議内容を検証してみる必要がある。
 まず、ゾコーバの主要評価項目である「新型コロナの12症状の改善状況」に言及したい。ゾコーバのP2bパートが開始された本年1月1日は、ちょうど新型コロナウイルスがデルタ株からオミクロン株に置き換わった時期と重なる。オミクロン株では殆ど消化器症状が出ない。従って、もともとのベースラインが低いため、消化器症状に対する効果の判定は困難だ。
 合同会議に参考人として招致された臨床医も、「オミクロン株に出現しない症状が複数12症状の中に混在しているため、トータルスコアでは、プラセボ群との差が出なかった」、「オミクロン株に特徴的な呼吸器の鼻水または鼻づまり、喉の痛み、咳、息切れの4症状と発熱の5症状の解析では、有意差が認められる」と説明している。
 これに対して、審議会委員らは、「後だしジャンケン」、「有意差が出るまで、症状の評価項目をこねくり回している」として退けた。
 確かに、通常の医薬品承認審査であれば、臨床試験のエンドポイントである主要評価項目の変更は許されない。だが、目まぐるしく変異を繰り返し、出現する症状も異なる新型コロナ感染症では、その症状に合わせた追加解析もやむを得ないだろう。こうした点も考慮した「緊急承認制度」でなければ、新たに設けた意義はない。
 次に、多くの委員が指摘していた「ゾコーバの非臨床試験でみられた催奇形性リスク」だ。
 昨年12月に日本で特例承認された経口新型コロナ治療薬「ラゲブリオ」(メルク)は、これまで約24万人に、今年2月に特例承認された「バキロビッドパック」(ファイザー)は、約1万4000人に処方されている。
 ラゲブリオは「妊婦に禁忌」、バキロビッドパックは、「余程のことがない限り使わない」を喚起して、既に実臨床で使用されているのが現状だ。
 これに対して、ゾコーバだけ、非臨床試験における催奇形性を持ち出して、長時間議論を費やしたのは、「フェア」ではない。これら2剤と同様に扱えば良いだけである。
 ゾコーバの「薬物相互作用の考慮」についても、同剤の臨床試験の対象患者は、重症化リスクの有無を問わずに評価されているため、薬剤を服用していない患者に対しては、それほど使い難さはない。
 一方、バキロビッドパックは、血圧、糖尿病などの新型コロナ感染症の重症化リスク因子を有する患者が処方対象となるため、併用薬を服用しているケースが多く、薬物相互作用の観点で使い難い。従って、ゾコーバの薬物相互作用をバキロビッドパックと同様に論じられていたことも腑に落ちない。
 新型コロナ感染症などのパンデミックの際に、ワクチンや治療薬を通常より早く承認し実用化するための「緊急承認制度」は、文字通り緊急性が求められる。
 こうした‟緊急承認制度”の趣旨に則った審議を行い、今回の審議の問題点を是正するには、審議会にもっと実臨床の医師や、感染症に詳しい委員を加えることが不可欠である。
 体内のウイルス量を早く下げてやることで、その後に引き起こる症状の悪化防止が示唆される。人にうつすリスクのある期間も短縮されるだろう。
 通常の承認であれば臨床試験において臨床的アウトカムを出すのは必須である。だが、新型コロナ感染者が爆発的に増加する中で行動制限をかけない現状において、ウイルス量を減少させるゾコーバへの期待は大きい。社会的意義も踏まえた上でゾコーバの緊急承認が審議されることを切望したい。


   

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