新規骨粗鬆症治療薬候補をとしてCDK8阻害剤を発見 岐阜薬科大学らの研究グループ

 岐阜薬科大学薬理学研究室の山田孝紀研究員、同大学・岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科の檜井栄一教授らの研究グループは、リン酸化酵素の遺伝子グループの一つであるCDK8阻害剤が新しい骨粗鬆症治療薬となる可能性を見出した。
 間葉系幹細胞において、加齢とともにCDK8の発現が増加することを見出し、CDK8の働きを抑制すれば、破骨細胞の機能が低下し、骨量が増加することを確認したもの。京都薬品、東京医科歯科大学との共同研究で得られたこれらの研究成果は、骨粗鬆症をはじめとする様々な骨系統疾患の予防・治療法確立への貢献が期待される。
 骨は、生涯にわたって新陳代謝を繰り返すことで、常に新しく作り替えられています。この過程において、破骨細胞は古くなった骨を壊し、骨芽細胞は新しい骨を造る。
 だが、このバランスが崩れると、ロコモティブシンドロームの原因疾患の一つである骨粗鬆症が引き起こされる。
 特に、加齢や閉経は骨粗鬆症の発症リスクを高めることが知られている。従って、骨粗鬆症に対する画期的な予防・治療法の確立は、超高齢社会を迎えた本邦における喫緊の課題となっている。
 近年、間葉系幹細胞が破骨細胞の機能を制御することが分かってきた。だが、「間葉系幹細胞がどのようなメカニズムを介して、破骨細胞の骨吸収を制御しているのか?」については、よく分かっていなかった。
 同研究では、シングルセルRNA-seq解析を起点としたデータ駆動型サイエンスの実践により、「間葉系幹細胞のCDK8」の阻害により、破骨細胞による過剰な骨吸収が抑制できることを世界で初めて明らかにした。
 同研究成果は、間葉系幹細胞を標的とした全く新しい骨粗鬆症症治療戦略の確立への貢献が期待される。これらの研究成果は,米国学術雑誌『Stem Cell Reports』に掲載された。
 「加齢」は、骨粗しょう症の発症リスクを高める。研究グループはまず、「加齢により、間葉系幹細胞においてどのような因子の発現が変動するのか?」をシングルセルRNA-seq解析により検討した。その結果、間葉系幹細胞において加齢とともにCDK8の発現の増加が分確認された (図1)。

図1:シングルセルRNA-seqにより、骨組織における様々な細胞集団を分類した図。①が間葉系幹細胞 (左図)。
間葉系幹細胞では、加齢とともに、CDK8の発現レベルが増加する (右図)。
図2


 次に、「間葉系幹細胞のCDK8は骨の恒常性維持に関係しているのか?」を検討した。研究グループは、間葉系幹細胞特異的にCDK8を欠損させたマウス(間葉系幹細胞特異的CDK8欠損マウス)を作製し、その表現型の解析を行った。その結果、間葉系幹細胞特異的CDK8欠損マウスでは、骨量が増加していることが分かった (図2)。
 さらに、詳細な解析を行ったところ、間葉系幹細胞特異的CDK8欠損マウスでは破骨細胞の数や機能の低下が明らかになった (図3)。すなわち、間葉系幹細胞のCDK8は、破骨細胞による骨吸収を調節して、骨の恒常性維持に重要な役割を果たしているものと考えられた。

図3

 次に、「どうして間葉系幹細胞のCDK8の働きを抑えると、破骨細胞の機能が低下するのか?」という疑問の解決に着手した。CDK8欠損間葉系幹細胞について、詳細な解析を行ったところ、STAT1というタンパク質の機能の低下が明らかになった。STAT1は、RANKLという遺伝子の発現促進により、破骨細胞の機能を調節していることが知られている。
 従って、間葉系幹細胞のCDK8は、STAT1-RANKLシグナル経路を調節することで、破骨細胞の機能を制御しているものと考えられた。
 最後に、研究グループは、同研究で得られた知見の社会実装を見据え、「CDK8の働きを抑える薬を使って、骨粗鬆症を治療できるか?」という課題に挑戦した。以前、研究グループは、CDK8阻害剤KY-065を開発しており、この薬剤が脳腫瘍の治療薬となることを報告している (Fukasawa et al., Oncogene 2021)。
 骨粗鬆症モデルマウスにKY-065を投与したところ、骨粗鬆症による破骨細胞の過剰な活性化と骨量の減少が大幅に抑制されることが明らかとなり、CDK8阻害剤が新規骨粗鬆症治療薬となる可能性が示唆された(図4)。

図4:椎骨の画像。KY-065の
投与により、骨粗しょう症による骨量の低下が抑制される。


 同研究では、最初に、シングルセルRNA-seqを用いた網羅的かつ客観的なスクリーニングにより、間葉系幹細胞のCDK8が骨粗鬆症に対する新規創薬標的候補となることを見い出した。
 その後、遺伝子改変マウスや培養細胞の効果的な活用により、創薬標的の蓋然性(確からしさ)を確認した。
 次に研究グループが独自に開発したCDK8阻害剤KY-065の骨粗鬆症治療薬としての有効性を実証した。
 以上のように、研究グループは、①:データ駆動型サイエンスの実践、②:遺伝子改変マウス・細胞を用いたin vivo/in vitro実験、③:阻害剤を用いた薬理学的検証を行うことで、間葉系幹細胞を標的とした新規骨粗しょう症治療戦略の基盤確立に成功した (図5)。

図5:同研究成果のまとめ。 CDK8はSTAT1-RANKLシグナル経路を調節することで骨量を制御する。CDK8阻害剤KY-065は、新規骨粗しょう症治療薬の候補である。


 同研究は、間葉系幹細胞のCDK8が有望な骨粗鬆症創薬ターゲットになることを細胞・生体レベルで明らかにした世界初の報告となる。同研究成果は、骨粗鬆症に限らず、破骨細胞活性化異常や、骨組織の恒常性維持の破綻によって引き起こされる様々な運動器疾患や骨系統疾患に対する革新的治療法を提供し、アンメット・メディカル・ニーズの解消への貢献が期待さる。

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