森下竜一大阪大学大学院医学系研究科寄附講座教授は23日、大阪・道修町の神農祭市民公開講座( YouTube配信予定 )で「大阪の産学連携と2025大阪関西万博の展望」をテーマに講演し、新型コロナワクチン接種と日本経済について言及。「経済を円滑に回すには来年3月までに3回目のワクチン接種が必要で、その場合感染者は増えるが、重症者を抑制して、コロナ対策と経済活性化策が両立する」との見通しを示した。
また、現在、2回目のワクチン接種率約80%について、「残りの20%に対してワクチン接種を望むのはかなり難しい」とした上で、「国産の安全・安心ワクチンが上市されれば、接種率90%くらいまで上がる可能性がある」と予測。さらに、「G7の中でワクチンが自前で賄えないのは日本だけである。発展途上国へのワクチンを日本が取り込んでいる現状についての議論が国際的に出てくる」可能性を指摘し、「国産ワクチンの承認については、政治の決断も必要な時期に入ってくる」と訴求した。
ファイザーやモデルナの新型コロナRNAワクチンは、感染症の発症を96.7%抑制している。半年経過しても83.7%抑えているものの、重症者が増加すれば経済は回せない。こうした中、森下氏は、「重症者を抑制するには、3回目のワクチン接種を2回目接種から半年後あるいは8か月後に打つのが望ましい」との考えを示す。森下氏によると、1・2回目の新型コロナワクチン接種で約1兆円の費用(国は未発表)が掛かっている。3回目のワクチン接種は、接種率が60%程度と考えられ5000~6000億円必要となる。
1回目の持続化給付金総額10兆円に比べると、ワクチン接種の方が費用対効果が優れているのは明白だ。10兆円の持続化給付金を計上しても、家の中に閉じ籠っている期間が続いてGDPが低下し、人々の心も折れて来る。これに対して、3回目のワクチン接種で5000億円掛けたとしてもワクチンを接種して普通の生活ができるようなれば、国民もハッピーになり、経済も回り、税金も増える。
ちなみに、3回目のワクチン接種率を60%と想定したのは、RNAワクチンの副反応が出現しやすい若者が回避する可能性が考えられるためだ。ファイザーとモデルナの新型コロナRNAワクチンの副反応を比較すると、38度以上の発熱は、前者で21%、後者で61.9%と、理由は定かではないがモデルナに多い。また、若年層に見られる心筋炎の発症は、今のところ一過性のものだが、2度目の接種者に多く、今後接種を重ねると一過性かどうかも検証していく必要がある。
日本政府は、3回目のワクチン購入をするため、ファイザー、モデルナ、ノババックスと契約している。ノババックスの遺伝子組み換えタンパクワクチンは、まだ未承認であるが、ファイザーとモデルナのワクチンで、3回目の接種はなんとか乗り切れそうだ。現在、ワクチンに掛かる費用全てが海外に出ているが、国産ワクチンによって国内で還元されれば経済活性効果もより大きなものになる。
ネット上のRNAワクチン接種による‟不妊”や‟流産”は全くのデマ
一方、新型コロナワクチン接種を望まない20%の人の打ちたくない理由は、「副反応が心配」、「重篤な健康被害が心配」が多く、特に女性が多数を占める。このほか、「アレルギーなど体質上」や、「感染しても自分は重症化しない」などの理由が挙げられている。
ネット上では、「不妊になる」、「妊婦に接種すると流産する」などの情報が流されているが、これはまったくのデマである。加えて、ネットやメディアの「RNAワクチンは、1年で開発された」というのも誤った情報である。RNAワクチンは、実際には10数年かけて研究が進められてきたものであり、「不妊」や「流産」が無いのは、科学的に証明されている。欧米では、妊婦にも普通にRNAワクチンが接種されている。
だが、こうした誤解を解くのは容易ではなく、今後、新型コロナワクチン接種を希望しない20%の人にどう対応していくかは難しい。安心・安全の国産ワクチンが上市されれば、コロナワクチンの接種率も90%に達する可能性はある。
ところで、今後のコロナワクチン接種と日本経済には、次の3つのシナリオがある。シナリオ1は、「人流が緊急事態宣言後増えているため、12月後半に入ってワクチン2回目接種後に時間の経過した人、特に高齢者でコロナ感染者が増え、医療体制が逼迫し、再度緊急時対価蔓延防止策が出される」
シナリオ2は、「12月に感染者が増えるが、ワクチンの効果もあり重傷者は少なく、年内は現状のままだが、来年2月に再開されたGo toキャンペーンなどの経済活性化策により、ワクチンの効果が薄れる来年3月に重傷者が増え、3月の新入式シーズンに再度緊急事態宣言か蔓延防止策が出される」
シナリオ3は、「来年2月にGo toキャンペーンなどの経済活性化策を行う中、ワクチン効果が薄れる来年3月までに接種が間に合って、感染者数は増えるものの重傷者は増えず、コロナ対策と経済活性化策が両立する」というものだ。
その可能性は、シナリオ1は10%、2は30%、3は60%と予測される。ちなみに、現在、欧州で新型コロナ感染患者が増加して日本では増えていないのは、欧州では効果の強くないワクチンが混じっているからで、日本で接種されたRNAワクチンは効果が高いためだ。
今回の緊急避難的なRNAワクチンの購入はタイムリーであったが、その一方で、発展途上国に供給すべきワクチンを取り込むことに対して国際議論が起こる可能性や、多くの国民がいざという時に国内でワクチンを作れる体制を望んでいるという現況がある。 G7に加盟する日本国としては、海外からのワクチン供給状態を永遠に続けるべきではないことをしっかりと考える必要がある。
気になる国産ワクチンは、来年3月までの3回目の接種には間に合いそうにないものの、4回目の接種までには何とか間に合わせたい。開発中の国産ワクチンには、塩野義製薬の遺伝子組み換えタンパクワクチンやアンジェスのDNAワクチンなどがあり、様々な種類のワクチン上市が望まれる。
森下氏らが開発を進めるDNAワクチンは、細胞免疫は90%を示すものの、中和抗体は、ファイザー、モデルナに比べるとまだ低いため、現在、高用量製剤のP1/2試験を実施している。
DNAワクチンにとっての朗報は、インドでザイメドがDNAワクチンを実用化したことだ。同社のDNAワクチンは、2㎎、4週間、3回投与により、デルタ株に対して67%の抑制効果を示している。
デルタ株に対するこの有効率は、ファイザーやモデルナのRNAワクチンと同様の効果を示しており、森下氏らのDNAワクチンもこのくらい投与量を増やせば同様の効果が得られるものと期待される。
国産ワクチンの上市は、厚労省のしっかりとした方向性が出れば、4回目の接種には十分に間に合うと考えられるが、WHOの議論を眺めているだけではなかなか進まない。政治の決断も必要な時期に入っていると考えられる。