デンタルIQを誤った認識で理解している人が約7割も  日本歯科医師会調査結果

 日本歯科医師会は4日、11月8日の「い(1)い(1)歯(8)の日」に合わせて全国の20代〜60代男女1万人を対象に実施した「デンタルIQに関する意識と実態調査」結果を発表した。 同調査は、日本歯科医医師会が展開する「いい歯は毎日を元気にプロジェクト」の一環として実施されたもので、国民の歯と口の健康への興味関心を高めることを目的としたもの。
 歯と口の健康が全身の健康と密接に関わり、健康寿命の延伸につながることは、人生100年時代の到来を迎えた現代では、ますます重要視される。こうした中、調査結果では、デンタルIQを誤った認識で理解している人が約7割も存在することが判明した。
 デンタルIQとは、その人の“歯と口の健康への関心・意識の度合い”を示す言葉だ。デンタルIQは、歯科治療に関する専門的な知識の高さと捉えられがちだが、これは誤りで、本来は「歯と口の健康について、どのくらい大切に考えられているか」を意味する。
 同調査では、生活者の中でのデンタルIQの認知度・関心度を明らかにし、それを確認するデンタルIQチェックを実施し、歯と口の健康に関する生活者の実態を浮き彫りにした。今回の調査概要および調査結果は次の通り。

【調査概要】
◆実施時期:2021年10月1日~ 6日
◆調査手法:インターネット調査
◆調査対象:調査①=全国の20代〜60代男女1万人(人口構成比)、調査②=デンタルIQ(高・中・低)別に20代〜40代の男女900人(デンタルIQ別に性・年代別で各50人振り分け)

【調査結果】
調査①:全国1万人調査 日本人とデンタルIQ

■「デンタルIQ」、言葉の認知も正しい理解も2割台にとどまっている

 全国の20代〜60代男女1万人を対象に、「デンタルIQ」という言葉の認知について聞きいた。ソニ結果、「デンタルIQという言葉の名前も意味も知っている」と答えたのは4.0%と少なく、「言葉の意味は知らないが、デンタルIQという言葉は聞いたことがある」(16.8%)と答えた人を加えても、デンタルIQの認知度は20.8%にとどまった[図1]。

 次に「デンタルIQの言葉の名前も意味も知っている」と答えた人にデンタルIQの定義について聞くと、「歯や口の健康に関する知識の高さを示すもの」(35.8%)と答えた人が最も多かったが、この回答は間違っている。
 デンタルIQの定義は、「自分の歯と口の健康への関心や意識の度合いを示すもの」である。「名前も意味も知っている」と答えている人の中でも、正しく理解できている人は29.3%という結果になった[図2]。

■国民の9割の人が「デンタルIQは重要」と認識

 「デンタルIQは、自分の歯と口の健康への関心や意識の度合いを示すもの」と定義を提示した上で、「歯と口の健康への関心や意識を高めるデンタルIQは重要だと思うか」と聞くと、9割が「重要だと思う」(そう思う54.1%+ややそう思う35.8%)と答えた[図3]。

 そこで、デンタルIQを探るべく歯や口の健康に関する15項目の質問に対し、○か✕かで答えてもらった。その結果、正解率が高かったのは、「正しく噛むことは脳の活性化につながる」(答え○:95.1%)、「唾液の役割の一つには免疫機能がある」(答え○:93.3%)、「むし歯は痛みなく進行するものがある」(答え○:92.7%)などで9割以上の人が正しく理解している[図4]。

口臭の一番の要因は舌にたまった汚れの「舌苔」

 一方、正解率が低かったのが、「口臭を引き起こす原因として大きな割合を占めるのは、歯周病である」(答え✕:12.0%)、「気づかないうちに進行する歯周病は、国民の約5割がかかっている」(答え✕:14.0%)で正しく理解している人は1割台しかいなかった。
 ちなみに、口臭を引き起こす一番の要因は舌にたまった汚れ「舌苔(ぜったい)」で、原因の6割といわれている。また、日本の歯周病罹患者は「30代以上の3人に2人」「40代以上の8割」と報告されている。

■全国1万人の「デンタルIQ」正解数は15問中10.2問

男性20代・30代が低めで、女性50代・60代が高めに

 図4のデンタルIQチェックの15項目の正誤を集計すると、全問不正解の人は0人、全問正解の人は3人となり、全国1万人のデンタルIQの正解数は平均10.2個となった。
 集計結果を基に、1万人のデンタルIQを高・中・低に3分類すると、正解数が12個以上のデンタルIQが高めな人は全体の21.1%(2,108人)、中ぐらいの人(正解数10〜11個)は49.7%(4,966人)、低めの人(正解数9個以下)は29.3%(2,926人)となった[図5]。

 この結果を性・年代別に見ると、男性20代(低め:45.2%)・30代(低め:40.9%)はデンタルIQが低めの割合が多く、女性50代(高め:26.3%)・60代(高め:27.7%)は高めの割合が多くなっている[図6]。

■デンタルIQが高めの人は、「歯の定期健診」を受ける人が4割も

 歯や口の健康に関して行っていることをデンタルIQ別に見ると、デンタルIQが高めの人は、低めの人に比べて全ての項目で実践率が高くなっている。デンタルIQが高めの人の4割は「年に一回は定期健診を受けている」(40.3%)と答え、デンタルIQが低めの人(24.8%)に比べて定期健診を受ける割合が15ポイント以上高くなっている。
 さらに、「歯と口の定期的なチェックをかかりつけの歯科医院で受けている」(40.2%)と答えた人も、デンタルIQが高めの人では4割いた。デンタルIQが高めの人は、歯科医院でのプロフェッショナルケアだけでなく、「食事はくちびるを閉じて噛む」「鼻呼吸を意識して実践」「デンタルフロスや歯間ブラシを日常的に使う」など、日常生活におけるセルフケアの実践度も総じて高くなっている。[図7]。

調査②:20代〜40代の歯とお口の健康とデンタルIQ調査

■デンタルIQが高めの人ほど、歯やお口の健康を保つためのセルフケアを実践し、知識も豊富
 さらに、デンタルIQ別に性・年代別で振り分け、20代〜40代の男女900人を対象に調査を行った。
 まず、「歯と口の健康を保つためにセルフケアとして行っているか」の問いには、「歯ぐきと歯と歯の間までしっかり磨く」(43.9%)、「よく噛んで食べる」(35.6%)、「フッ素入り歯磨き剤を使用する」(32.9%)などの実践率が高くなっている。デンタルIQ別に見ると、デンタルIQが高めの人ほど実践率も高い傾向が見られた[図8]。

舌磨き等が新型コロナの重症化リスク軽減

 「歯と口の健康を保つために知っていること」を聞くと、「よく噛むことは、認知症の予防につながる」(57.9%)、「よく噛んで唾液を出すことで、胃腸での食べ物の消化吸収を促進する」(55.2%)、「歯並びや噛み合わせが悪いと、むし歯や歯周病、顎関節症、肩こりや頭痛など様々な原因につながる」(48.3%)は半数の人が認知している。
 デンタルIQ別で見ると、やはりデンタルIQが高めの人ほど知識が豊富で、セルフケアと同様の傾向が見られました。なお、「舌磨き等が新型コロナなどウイルス感染症の重症化リスクを軽減できる可能性がある」の認知率は全体で17.8%、デンタルIQが高い人でも22.3%にとどまった。[図9]。

■歯やお口に違和感があるとき、デンタルIQが高めの30代・40代女性の半数以上は「すぐ歯医者さんに行く」

 歯が痛くなったり、口に違和感があったときにどのような行動をとるかを聞いた。その結果、52.3%は「しばらく様子をみて、我慢できなくなったら歯科医院に行く」、42.9%は「すぐ歯科医院に行く」と答え、歯科医院には行かずに「放っておく」と答えた人が4.8%いた。
 これを性年代別✕デンタルIQ別に見ると、デンタルIQが高めの30代女性と40代女性は、「すぐ歯科医院に行く」(30代56.0%、40代62.0%)と答えた割合が半数を超え多くなっている[図10]。

■デンタルIQを高めることが大切な三大理由

「おいしいものを食べたい」「全身の健康を守りたい」「自分の歯を長持ちさせたい」

 デンタルIQを高めることは[図3]で9割以上の人が重要と答えていたが、ここでは大切だと思う理由を聞いた。「いつまでもおいしいものを食べたいから」(58.9%)が最も高く、次いで「全身の健康を守りたいから」(56.2%)、「義歯などを使わずに、自分の歯を長持ちさせたいから」(50.1%)が続き、三大理由となっている。
 デンタルIQ別に見ると、デンタルIQが高めの人ほど大切と思う割合が総じて多くなっている[図11]。

■歯とお口の健康を「大切にできていない」と感じる一番の理由は  

「歯科健診や歯科医師による定期チェックを受けていないから」
 自分の歯とお口の健康を大切にできているかと聞くと、68.4%が「大切にできている」(できている14.4%+少しはできている54.0%)と答え、31.6%は「大切にできていない」(あまりできていない26.7%+できていない4.9%)と答えた。
 デンタルIQ別に見ると、デンタルIQが高めの人は「大切にできている」が75.0%とやや多くなっている[図12-1]。

 大切にできていないと答えた284人にその理由を聞くと、「歯科健診や歯科医師による定期チェックを受けていないから」(45.1%)がトップに挙がった[図12-2]。

■歯と口の健康を保つバロメーターとなる歯科医院での定期的なチェック

「3カ月に1回以上」の頻度で受診しているのは5人に1人
 歯科医師による定期チェックが、歯とお口の健康を保つ一つの基準として認識されていることがわかった。
 そこで、歯の定期チェックの頻度を聞いた。5人に1人は「3カ月に1回以上」(22.9%)受けており、「半年に1回程度」(16.6%)受けている人を合わせると4割(39.4%)が、「年に1回程度」(10.6%)を含めると半数(50.0%)が定期的に歯科医院でチェックを受けている。
 定期的に受診するのは男性(48.0%)より女性(52.0%)に多く、20代 45.0%、30代 50.7% 40代 54.3%と年代が上がるにつれ増えている。また、デンタルIQ別に見ると、デンタルIQが高め人の方が定期健診を受ける割合が多くなっている[図13-1]。

 また、定期的にチェックを受けていると答えた450人に、受けてよかった事柄を聞くと、「歯科医師のチェックを受けることで安心できる」(54.4%)、「早めにむし歯を発見できる」(52.7%)、「歯をいつもきれいに保てているような気がする」(43.3%)、「お口の異変にすぐ気づくことができる」(41.3%)などが挙げられた[図13-2]。

■人生100年時代に大切なのは、「頭・脳」に次いで「歯・口」

 日本は人生100年時代を迎えようとしている。これからの長寿社会において、心臓以外で健康を保つことが重要と思う体の部位を挙げてもらった。すると、「頭・脳」(89.8%)に次いで「歯・口」(67.2%)の重要性が高いということがわかった[図14]。

 人生100年時代の到来とともに健康寿命への注目が高まる現代。健康寿命を伸ばし、元気で自立した生活を送るためには、全身の健康に大きく関わる歯やお口の健康管理がますます重要になると認識されているようだ。

【日本歯科医師会からの総括】

■調査について
 日本歯科医師会では、この度、国民に歯と口の健康への興味関心を高めるを目的に、「デンタルIQに関する意識と実態調査」を実施した。同会では10年以上にわたり、「歯科医療に関する生活者調査」を実施しているが、「デンタルIQ」というキーワードを用いて調査を行ったのは、初の試みとなる。
 今回の調査結果では、国民の9割が「デンタルIQ」の重要性を認めるという結果や、健康寿命延伸のために重要と考える体の部位を尋ねたところ、「歯と口の健康」が2位にランクインするなど、国民の中でも、その重要性の認知・理解の確実な高まりが明らかになった。
 また、デンタルIQ別に各設問の回答傾向を分析すると、デンタルIQの高さが、実際の行動にも関連するとことにわかった。デンタルIQが高い人、すなわち「歯と口の健康は大切なものであるという意識が高い」とされる人は、定期健診の受診率がデンタルIQが低い人の倍近くになり、各セルフケアの実践度(実際の行動に移す度合い)も総じて高くなっている。
 これらの結果を踏まえ、日本歯科医師会では、国民に歯と口の健康への意識や関心を高めてもらうきっかけづくりを行うため、引き続き、情報発信や各種啓発活動を行っていく。
 歯と口の健康が全身の健康と密接に関わり、健康寿命の延伸につながることは、人生100年時代の到来を迎えた現代では、ますます重要視される。
 年齢を重ねても、しっかり自分の口でおいしくものを食べる、家族や友人と会話を楽しむ、笑い合う。そういった生活の基本的な機能がしっかりと維持されるように、日本歯科医師会は歯とお口の健康管理を通じて、国民の全身の健康への第一歩を後押しできるよう、引き続き努めていく。

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