「老化細胞除去による次世代医療」や「テロメアとコロナの関連性」を報告 2021年度第1回日本抗加齢医学会メディアセミナー

 日本抗加齢医学会は20日、2021年度第1回Webメディアセミナーを開催し、中西真氏(東京大学医科学研究所癌防御シグナル分野教授)が「老化細胞除去薬の衝撃」、堀江重郎氏(日本抗加齢医学会理事長、順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学教授)が「ポストコロナにおけるmRNA医薬品の抗加齢医学への応用」をテーマに講演した。
 中西氏は、GLS1阻害薬による老化細胞の除去により、加齢個体全体を対象とした次世代医療を実施することで、がん、腎疾患、代謝疾患、免疫疾患、心血管疾患、筋骨格疾患など慢性炎症を起因とする疾患を抑制できる可能性を示唆した。
 堀江氏は、世界の新型コロナmRNAワクチンの開発状況を報告した上で、「mRNA医薬品が今後開発されていくのがコロナによるテクノロジーの進化である」と強調。さらに、テロメアの長さとコロナに対する抵抗の関連性などを示し、テロメアを伸ばす方法を紹介した。
 中西氏、堀江氏の講演内容は、次の通り。

中西氏


◆中西氏
 「人はなぜ老いるのか」これは、最も古い科学的疑問である。古くから時の権力者は、全て不老不死の命を目指した研究を進めていた。だが、現代科学においても“老化”と言う誰もが経験する生理現象について明快な回答が得られていない。
 老化を制御する仕組みには、「最大長寿を決める仕組み」と「健康度を低下させる仕組み」の2つがある。
 他方、一般的な内科疾患として、脳神経系(認知症、脳血管障害)、循環器系(動脈硬化、高血圧)、呼吸器系(慢性気管支炎、COPD)、代謝系(糖尿病、高脂血症)、感覚器系(白内障、難聴)、骨・運動系(骨粗鬆症、筋力低下)が挙げられる。これらの疾患は、炎症を誘発する細胞が、加齢に伴って蓄積し、臓器機能の低下を誘導して発症するものだ。
 慢性炎症は、老化や多様な加齢性疾患の基礎となる。炎症誘発性細胞には、免疫細胞(T細胞、白血球など正常免疫に必要)と、非免疫細胞(加齢に伴い増加し、個体に不要)がある。
 慢性炎症を引き起こす非免疫細胞には、老化細胞やリソソーム不全細胞などがある。老化脂肪は、正常細胞の倍のDNAを有しており、その分列回数が、宿主の寿命を決めると言われている。
 老化細胞が蓄積すれば、過剰な炎症反応により、「臓器組織の機能低下」、「老化促進」、「老年病発症」を惹起する。加齢に伴い個体内に蓄積する老化細胞は、腎、肺、肝、心、脳など、体内のあらゆるところに存在しており、例えば、腎臓の老化細胞は加齢に伴う機能低下の原因となっている。
 また、わが国に100~200万人を数える脂肪性肝炎の患者は、肝硬変、肝がんへと進行する。だが、老化細胞を除去してやれば、肝炎や、過食によって惹起する肝炎の病態が改善する。
 老化細胞は、酸性化した細胞をGLS1(グルタミナーゼ1)酵素を利用してアンモニアを産生させ中和する作用を有しているため、GLS1を阻害すればアンモニア生成ができなくなり、細胞内が酸性となって老化細胞は死滅する。
 このように、GLS1阻害薬には、「加齢性腎・肺・肝機能の低下改善」、「高脂肪食摂取による糖尿病・動脈硬化改善」や、健康寿命の延伸が期待できる。

堀江氏

 ◆堀江氏
コロナ禍がいつまで続くのか、ワクチン接種はいつになるのか心配している人は多い。現在、ワクチンは、ファイザーの「コミナティ」が、日本の医療従事者、高齢者の一部に接種されてされている。米国モデルナが開発したmRNAワクチンの「mRNA-1273」もいずれ日本に来るだろう。
 ちなみに、現在、開発中のmRNAワクチンには、独キュアバックの「CVnCoV」(P2/3)、米アークトゥルスの「ARCT-021」(P1/2)、米トランスレート・バイオ/サノフィパスツールの「MRT5500」(P1準備中)、第一三共「DS-5670」(P1準備中)がある。
 mRNAは、非常に分解されやすい不安定な分子である。昔、我々が実験でmRNAを取り扱う時は、厳密に手袋をしたり、実験台の上をエタノールで拭いたり、今のコロナワクチンのように細心の注意を払った。
 mRNAワクチンは、外側のLNPを構成する脂質ナノ粒子の中にmRNAを入れて安定させるのがミソで、LNPにどのような物質を入れるかが各製薬企業の最大のポイントになっている。
 ファイザーの新型コロナワクチンは、LNPの構成成分として様々な脂質が入っているが、その中のポリエチレングリコールがアナフィラキシーの原因になっていると指摘されている。
 一方、欧州での接種で血栓が発症したことが話題になっているアストラゼネカの新型コロナワクチンは、外側の殻が、チンパンジーの風邪ウイルスの一種であるアデノウイルスを増殖しない形にして設計されている。アデノウイルスは、遺伝子治療に使われてきたベクターだ。
 アデノウイルスは、動物実験では血栓を作りやすいことが判明しているが、アストラゼネカ製のワクチン接種による血栓の形成は、アデノウイルスによるものか、宿主との反応によるものかが明らかになって来るだろう。J&Jやヤンセンが作っている新型コロナワクチンも、アストラゼネカ製と似た構造をしている。
 最近、特に、mRNA医薬品が話題になっている。mRNAは、遺伝子であるDNAにコードされて生成される中間体で、リポソームの翻訳を受けてタンパク質を産生する。mRNA医薬品は、体内で作られるmRNAをヒトの細胞の中に取り込んで、治療に必要なタンパク質を産生するというものだ。
 新型コロナワクチンであれば、新型コロナウイルスの外側の殻の部分のタンパク質のmRNAをLNPの脂質の中に包み込んで、ヒトの細胞の中に入りやすくする。LNPにより細胞の中に輸送されたmRNAは、リポソームによって翻訳されてタンパク質が合成され、中和抗体となる。
 このように、mRNAをヒト細胞の中に運ぶことができれば、ヒト細胞内でターゲットとする疾患の治療・予防に必要なタンパク質の産生が可能となる。mRNAは、マイナスに電化しているので、プラスに電化しているものをmRNAの回りに包んでやれば、比較的安定した形でmRNAを細胞にデリバリーできるようになる。
 例えば、片岡一則教授(東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学)らは、高分子ミセルの中にmRNAを入れて、脳の中に持続的なタンパクを産生させる研究を推進している。この研究は、アルツハイマー病や、パーキンソン病などの様々な難治性の中枢疾患の治療への応用が期待されている。
 また、椎間板を産生するmRNAを高分子ミセルに入れて椎間板を損傷した動物モデルに注入すると、椎間板が再生されたことも報告されている。現在の新型コロナワクチン開発における様々なテクノロジーのブレークスルーは、こうしたmRNA医薬品の研究発展にも寄与している。
 一方、コロナ禍においては、遠隔医療やテレワークの普及が取り上げられている。だが、テレワークについては、あしたのチーム(東京都中央区)が、働く男女300人を対象に「一般的にテレワークが定着すると思うか」とのアンケートを行ったところ、40.7%が「定着しない」と回答した。
 その理由としては、「テレワークと長時間労働は、ワークライフバランスに良くない影響を与える」、「ワークライフバランスが崩れると燃え尽き症候群になり易く、仕事への満足感、人生への満足感が減る」などが挙げられる。
 また、昨年7月から自殺者は増えている。ピークとなった昨年10月の月間自殺者数は、2200人を超え、前年同期の1550人を大きく上回っている。自殺者の増加原因には、経済的な問題とメンタル的ストレス(うつ病)が考えられる。
 メンタル的ストレスは、“社会的な絆”が欠けてくると受けやすい。社会的な絆が欠けてくれば、心のホルモンであるオキシトシン(安心感)、セロトニン(優越感、不安緩和)が低下する。

テロメア伸長が新型コロナへの抵抗性とワクチンによる抗体産生を促進

 社会的交流は、オキシトシンを高めるだけでなく、テロメアも長くする。テロメアが長ければ、新型コロナに対する抵抗性も強く、ワクチンを接種した時も抗体ができやすくなる。
 反対に、テロメアが短くなれば細胞が老化細胞になる。テロメアの長さは見た目にも関係し、うつ病、動脈硬化、心臓病などの頻度と関連している。
 テロメアを長くする因子には、テストステロン、運動、瞑想がある。反対に短くする因子は、喫煙、悲観、心理的なストレスが挙げられる。1日2000IUのビタミンDがテロメア伸長に働き、ビタミンD濃度が低い国はコロナ患者が多いことも判っている。
 鮭一切れの食餌で、1500IUのビタミンD3が補充できる。コロナに打つ勝つためにも、抗酸化食品、テストステロン、オキシトシン、ビタミンD、ω-3脂肪酸を摂取して、是非テロメアを伸ばしてほしい。


        

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