CTEPHの発症から診断・治療プロセスおよび患者負担に関する研究結果発表 信州大学とバイエル薬品

信州大学とバイエル薬品は21日、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の発症から診断・治療までのプロセス(Patient Journey)と疾患の負担に関する研究結果を発表した。
 同研究により、「症状の初発からCTEPH確定診断に要した時間は中央値32カ月と長期に及んだ」、「早期診断へのハードル:患者自身が初期症状を加齢や体力不足によるものと誤認、診察医が鑑別診断として疾患を想起しにくいなど確定診断の遅れが理由として挙がる」、「医療従事者におけるCTEPHの認知向上と患者間の社会的ネットワークを構築することにより、患者ケアの向上する可能性を示唆」などの事項が浮き彫りになった。
 同結果は、本年1月19日にInternational Society for Pharmacoeconomics and Outcomes Researchの科学雑誌Value in Health Regional Issues Vol. 24 (May 2021) にオンライン掲載されている。さらに、医学等関連文献の索引システムScienceDirect( https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2212109920306555 )にも公開されている。
 CTEPH患者の多くは、労作性の息切れを主訴とするが、他の疾患と判別可能な特徴的な症状や身体所見が乏しく、疾患の認知が低いため、確定診断までに時間を要することが問題となっている。
 近年、治療の進歩によりCTEPHの予後は改善したものの、時間の経過とともに進行する疾患であり、一般的には完治が難しいため、患者がさまざまな負担を有している可能性がある。
 そこで同研究は、CTEPH患者の発症から確定診断までのプロセスと疾患に関する負担の明確化を目的に実施された。同研究では、量的・質的研究法の両方を含む混合研究法を用い、発症から確定診断までのプロセスと疾患の負担について、状況や過程、要因を量的・質的に分析した。
 量的分析によると、症状の初発からCTEPH確定診断までにおよそ32カ月(中央値、四分位範囲: 14?81カ月)、また、最初に医療機関を受診してからCTEPHの確定診断に至るまで20カ月(中央値、四分位範囲:6?57カ月)を要していた。
 特に、最初の医療機関受診からCTEPH確定診断に要した時間は、初診時のWHO肺高血圧機能分類が軽症(症状による身体活動の制限が少ない)の患者ほど診断までの期間が長い傾向が見られた。(中央値 II度: 31カ月、III度:23カ月、IV度: 11カ月)
 患者インタビューの質的分析によると、発症から確定診断までに時間を要した理由に関する患者側の要因として、CTEPHは中高年での発症が多いため、労作時の息切れなどの初発症状について、加齢や運動不足に伴う基礎体力の低下と誤認する傾向があった。
 また、医療者側の要因としてCTEPHの確定診断が遅れる理由には、疾患の認知が不十分で、鑑別診断としてCTEPHの想起が困難であることが挙げられた。症状の発症からCTEPH確定診断に要する時間は長期に及び、発症から診断・治療までのプロセスにおいて、CTEPHの確定診断の機会を逃している可能性が示唆される結果となった。
 また CTEPH患者の負担に関する質的分析では、在宅酸素療法に伴う日常生活の制限、完治困難な疾患に対するあきらめ、周囲の人々による疾患の理解不足、同じ疾患を持つ患者との社会的ネットワークの不足など、身体的・精神的・社会的など様々な負担が明らかになった。
 これらの結果により、医療従事者におけるCTEPHの認知向上と患者間の社会的ネットワークの構築は、患者のケアの向上に貢献する可能性があることがわかった。
 同研究責任著者の桑原宏一郎信州大学医学部 循環器内科教授および、同研究を主導した相徳泰子バイエル薬品マーケットアクセス本部長のコメントは次の通り。

 ◆桑原氏:本研究により、CTEPH患者がその症状出現から確定診断に至るまでに多くの時間を要していることが改めて示され、またその理由には患者側と医療者側両方の要因が存在することも明らかになった。加えて本研究によりCTEPH患者が抱えるさまざまな負担が明確にされた。
 CTEPHに対する治療法は以前に比べて進歩しており、より早く診断するために幅広く本疾患を啓発していく活動の重要性を強く認識した。本研究結果が、よりよいCTEPH患者に対する診療・ケアの充実につながれば嬉しく思う。

 ◆相徳氏:CTEPH患者が抱える医療環境に直結する課題に加え、病気への気づきから診断が確定するまでの過程で、患者さんの不安や動揺など数量的な研究では得にくい知見が明らかになった。本研究結果を多くのステークホルダーに共有することで、CTEPH患者が安心して病気と向き合えるようなコミュニティづくりに貢献していく。

タイトルとURLをコピーしました