標的腫瘍内酸性度利用で選択的に薬剤放出可能な高分子ナノミセル開発  iCONM

 ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)は12日、東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻との共同研究により、標的腫瘍組織内の酸性度を利用し、腫瘍でのみ選択的に抗がん剤を放出できる高分子ナノミセルの開発に成功したと発表した。同ナノミセルは、脳腫瘍の一種であるグリオブラストーマ(膠芽腫:GBM)では、水素イオン濃度(pH)が他の組織に比べて低い(酸性が強い)ことに着目して開発された。研究成果は、学術誌 Biomaterialsで発表された。
 今回開発された高分子ナノミセルは、実践的なナノDDS技術を用いて、強力な有糸分裂阻害剤であるデスアセチルビンブラスチンヒドラジド(DAVBNH)をグリオブラストーマ(GBM:膠芽腫)に効果的に送達するというもの。


 嫌気性下で急速に成長するGBMは、解糖系の亢進によりアシドーシスを起こしており、開発したナノミセルは、そのpH変化を正確に感知し、内含された抗がん剤を放出する。
 ビンブラスチンに代表される日日草アルカロイドは、細胞の有糸分裂を強力に阻害することが古くから知られている抗がん剤であるものの、正常細胞に対する毒性も強く、治療に対する忍容性が低いが、ミセル化により選択毒性が大きく改善された。
 GBMを頭蓋内に移植したマウスを用いた実験では、DAVBNH を内含したナノミセル投与群は、遊離 DAVBNH 投与群に対して、100%生存率で2倍、50%生存率で 2.6 倍の改善を示した。
 今回の研究結果は、膠芽腫以外にも病勢進行の速い癌に臨床応用できる可能性を示唆するものである。研究論文は正式にアクセプトされており、10/23付でオンライン公開(https://doi.org/10.1016/j.biomaterials.2020.120463)されている。

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