塩野義製薬は3日、新型コロナウイルス感染症治療薬、ワクチンの開発動向、抗体検出キット提供について発表した。治療薬は、毒性用量と薬効用量が極めて近いデムデシビルに比べて毒性用量と薬効用量のセパレーションが大きい化合物を同定しており、年内に臨床試験開始を予定している。
一方、ワクチンは、来月の後半から抗原の精製に入って、出来上がり次第動物実験を行い、年内の早い時期に臨床試験を開始する。このまま製造設備投資が順調にいけば、来年1月以降1000万人分の供給が可能になる。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の蔓延による社会の混乱は、諸外国の一部で経済活動が再開され、我が国も緊急事態宣言が解除されるなど、回復に向けた兆しが確認されつつある。その一方で、新たな集団感染の発生や第2波への警戒など、依然、世界的な脅威として人々の生活に不安をもたらしている。
感染拡大の防止が叫ばれる中、とりわけ医薬品産業においては、治療薬、ワクチンの開発など迅速な対応が求められている。
こうした中、塩野義製薬では、医薬品の安定供給に努めるとともに、感染症を重点疾患領域に掲げる製薬企業として、公的機関やアカデミア、パートナー企業と連携し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療薬やワクチンの開発などに鋭意取り組んでいる。各取り組みの進捗状況は次の通り。
1.治療薬の創製に向けた取り組み
北海道大学人獣共通感染症リサーチセンターとの共同研究において見出された新型コロナウイルス株に対する有望な化合物群について、安全性等の探索的な評価を順次実施し、現在、開発判断に用いる高次探索試験の準備ならびに、その後の非臨床試験、臨床試験を見据えた製法検討等を最速で進めている。
また、創薬の確度を高める取り組みとして、前述化合物群の構造最適化検討に取り組むとともに、SyntheticGestalt(SG社)および北海道大学との三者共同研究を立ち上げ、SG社が保有するAI創薬技術により選出されたCOVID-19治療薬候補化合物の探索研究を実施中。同社は、引き続き2020年度内の臨床試験開始を目指して、これら一連の研究を最優先で進めていく。
2.ワクチン開発に向けた取り組み
同社が開発中のワクチンは、グループ会社のUMNファーマが有するBEVSを活用した遺伝子組換えタンパクワクチンで、BEVSは、昆虫細胞などを用いたタンパク発現技術を意味する。
開発の加速に向けて、日本医療研究開発機構(AMED)が公募した、令和2 年度「創薬支援事業・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン開発」に、同社が国立感染症研究所および九州大学との共同研究として応募し、企業主導型の研究開発課題として採択された。
その結果、2020年5月下旬から2021年3月までの研究計画に対し、研究費として約13億円(直接経費、予定)の助成を受ける。
現在、BEVSによるタンパク抗原の発現を確認し、非臨床試験の開始に向けて抗原の精製、分析法の設定等に取り組んでいる。年内の臨床試験開始を目標に、引き続き、厚生労働省や独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)、共同研究先である国立感染症研究所等、関係各所との協議・相談を行うとともに、早期提供が可能となるよう国内での生産体制の構築を進めていく。
3.抗体検出キット提供に向けた取り組み
マイクロブラッドサイエンスより導入した新型コロナウイルスIgG/IgM抗体検出キットについては、研究用試薬として6月3日より発売している。
塩野義製薬は、取り組むべき重要課題(マテリアリティ)として「感染症の脅威からの解放」を特定し、治療薬の研究・開発だけにとどまらず、啓発・予防・診断ならびに重症化抑制といった感染症のトータルケアに対する取り組みを進めている。同社はパンデミックの早期終息による社会の安心・安全の回復に貢献するために、産官学での連携を密にして各取り組みを加速するとともに、今後も状況に変化があり次第一般に広報し、企業としての社会的責任を果していく。