世界で初めて最も分析困難な放射性核種の一つであるパラジウム-107の簡便な分析に成功  日本原子力研究開発機構ら

医学などの学術分野や産業分野での広い応用も期待

 日本原子力研究開発機構原子力基礎工学研究センターの藤暢輔グループリーダーと早稲田大学教育・総合科学学術院の海老原充教授の研究グループは、複雑な構成を持つ試料に含まれる最も分析が困難な放射性核種の一つであるパラジウム-107(107Pd)を化学的操作せずに分析することに世界で初めて成功した。今回成功した107Pdの分析は、即発ガンマ線分析(PGA)と中性子共鳴捕獲分析(NRCA)を組み合わせた分析法である飛行時間型即発ガンマ線分析法(TOF-PGA)によるもの。
 放射性核種の存在量を最も容易に把握するには、測定対象から放出されるガンマ線を測定すれば良い。だが、使用済核燃料や福島第一原子力発電所に存在する燃料デブリに含まれている107Pdやテクネチウム-99(99Tc)など一部の放射性核種は、殆どもしくは全くガンマ線を放出しないため、「難測定核種」と呼ばれている。
 それらの難測定核種を化学的な操作をして分析する場合、手間と時間がかかり、放射性廃棄物の発生や作業時の被ばくの恐れなどの問題がある。特に、107Pdは650万年という長い半減期を持つため環境に放出されれば長期間にわたる影響が懸念されるうえ、化学的な分析も困難であるため、最も分析が困難な放射性核種の一つとされており、その簡便な分析法の開発が待ち望まれていた。
 研究グループはこれまでに、大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設(MLF)に設置した中性子核反応測定装置(ANNRI)において、中性子を用いた分析法であるPGAとNRCAを組み合わせたTOF-PGAを開発してきた(2014年発表)。
 同手法は、化学的操作が不要であるうえ、2つの手法を組み合わせた相乗効果によって分析能力が大幅に向上しているため、検出器信号の数え落としを補正することで非常に複雑な組成を持つ試料でも正確に分析できる技術として確立された。
 今回は、難測定核種107Pdや99Tcを含む模擬試料を作成し、J-PARCのANNRIにおいてTOF-PGAを用いて分析を行った。使用済核燃料の再処理過程で得られるテクネチウム-白金族グループのような複雑な組成を持つ試料の測定では、PGAとNRCAはともに混在する元素が出す膨大なガンマ線によって、107Pdや99Tcからのガンマ線を覆い隠してしまうため正しい値が得られなかった。
 一方、TOF-PGAは混在する元素の影響をほとんど受けずに、107Pdや99Tcを正確に分析できた。TOF-PGAは、高い分析性能を持ち、前処理が不要で溶解が困難な試料にも対応できるため、複雑な組成を持つ放射性廃棄物の分析などでの利用のほか、工学、理学、農学、医学などの学術から産業までの幅広い分野において、例えば貴重な考古学試料、隕石や小惑星試料、最先端材料の分析への応用も期待される。
 同研究成果は、米国の科学雑誌「Analytical Chemistry」に本年7月9日(現地時間)に掲載された。同研究は、JSPS科研費JP17H01076の成果を含んでいる。

タイトルとURLをコピーしました