世界初の低温で化学反応が速く進む手法を発見     早稲田大学

図:100度から200度の低温域では、低温にするほど反応速度が速くなる(アレニウスの法則に従わない)ことを発見

 早稲田大学は16日、同大学大学院先進理工学研究科博士2年の村上洸太氏および理工学術院の関根泰教授らの研究グループが、外部から固体触媒に電位を与えることで、低温で化学反応が速く進む手法を世界で初めて発見したと発表した。
 これまで化学反応は高温ほど速く進むというアレニウスの法則が一般的であったが、同発見はその法則を打ち破る新しい概念となった。再生可能エネルギー由来の電力を利用し、低温で欲しいときに欲しいだけ化学反応が進められ、さらに温度が低い方が反応速度は上がるという現象の発見は、これまでにない新しい特徴を有する。欲しいときに欲しいだけ、室温などの低い温度で物質変換が可能になるという、化学反応の世界にパラダイムシフトをもたらす研究として注目される。
 村上氏らの研究グループは、外部から固体触媒に電位を印加すると、この法則に反して低温ほど反応が速く進む現象を発見し、その原因を探ってきた。
 化学品や水素運搬体として期待されるアンモニアを窒素と水素から作る反応は、ハーバーボッシュ反応として知られ、大規模に工業化されているが、400度程度の高温と250気圧程度の高圧が必要であった。
 同研究グループは、半導体性を有する固体触媒に、外部から電位を与えれば、この反応が200度以下の低温でも速やかに進むことを見いだしました。さらに、200度以下の領域では、温度を下げた方が反応速度が速くなる現象を発見した。
 一般的に、反応速度が低温で優勢になるのは、アレニウスの法則に従い吸着現象のみであった。だが、反応速度と吸着の相関を検討したところ、触媒表面でイオンが動く際に、吸着が多くなる低温で反応速度が速くなるというメカニズムが明らかになった。これは化学反応速度がアレニウスの法則に従うという過去の常識を打ち破る、新しい概念である。
 村上氏らは、温度を自在に制御できる反応装置に、独自の固体触媒を設置して、外部から電場を与えて反応速度を評価し、非アレニウス法則(アレニウスの法則に従わない)型の反応となる事例を示した。続いて、赤外スペクトルにおいて、透過法と反射法を駆使して、固体触媒表面への吸着量を電場の有無、温度の違いで丁寧に評価し、科学的なモデルを構築した。
 最後に、モデルによる計算結果と実験結果を照らし合わせたところ、見事に整合することが実証され、非アレニウス法則型の反応がどうして、どのように起こるのかを、吸着と速度の関係から明らかにした。
 このようなメカニズムで反応が進む例はまだ限られているため、今後は、再生可能エネルギーを活かして、エネルギーや物質を創り出す多様な反応を、低温で選択的に進められるような材料を探索し、展開を進めていく。
 なお、同研究成果は、13日、イギリス王立化学会のジャーナル「Chemical Communications」のオンライン版に掲載された。

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