Column(4)  調剤報酬改定(2020年)に見る改革の芽吹き門林宗男 (前兵庫医療大学薬学部教授・元兵庫医科大学病院薬剤部長)

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 調剤報酬改定の答申が出された(令和2年2月7日 中医協)。同時に療養担当規則及び関連基準等の改正(主に用語の修正と処方箋等の様式変更等:令和2年4月1日施行)についても明らかになった。今回の調剤報酬改定では、調剤基本料の見直しに併せて「かかりつけ薬剤師指導料」や「薬剤服用歴管理指導料」等の評価があったが、目を引かれるのは久しぶりの新設項目である。特に、抗悪性腫瘍剤の調剤にかかる特定薬剤管理指導加算(2)、吸入指導加算、糖尿病患者への調剤後薬剤管理指導加算及び経管投薬支援料などの新設は、明らかに方向性を示しおり、点数以上に意味深い。 

 今回の調剤報酬改定に際しては、薬局機能や薬剤師の役割について相当の議論があったと思われ、調剤報酬改定にかかる答申書附帯意見がそのことを示している。(参考 答申書附帯意見:調剤基本料、調剤料及び薬学管理料の評価の見直しによる影響や、かかりつけ薬剤師・薬局の取組状況を調査・検証し、薬局の地域におけるかかりつけ機能に応じた適切な評価、対物業務から対人業務への構造的な転換を推進するための調剤報酬の在り方について引き続き検討すること)。今後、超高齢社会への対応を見据えて保険医療制度改革の具現化を目指す、2022年~2024年度診療報酬・調剤報酬改定への先手のようだ。なかでも、調剤報酬の新設項目は、これまで報道されてきた「薬剤師業務のモノからヒトへの構造転換」への意向が示された形である。

 診療報酬改定によって、医療職の業務をある方向性へ誘導するやり方は、これまでにも実績がある。かつて(1988年~1992年ごろ)、病院薬剤師に課せられた病棟業務(当時は、調剤技術基本料100点業務と称された)の創設期がその例であろう。調剤技術基本料100点という診療報酬点数は、到底人件費に見合う額でないが、国立病院薬剤部がいち早く薬剤師の病棟業務として取り組んだ。当時は、米国でファーマシューティカルケア(pharmaceutical care)が提唱され、患者のQuality of Life向上に薬剤師業務の展開が有用との評価もあり、わが国でも薬剤師の行動理念として受け入れられた背景があった。今日の病院薬剤師による病棟業務の発展を見ると、病院管理者の理解や医療関係者の協力並びに病院薬剤師の努力の賜物と思われる。この事実は「病院薬剤師業務のモノからヒトへの構造転換」といっても過言ではないと考える。

 一方、薬局・薬剤師の視点で振り返れば、1988年から国立病院での半ば強制的とも思われるような指導のもとに医薬分業が進められ、わが国の医薬分業が急速に進行した歴史がある。わが国の医薬分業が、国策による経営的医薬分業といわれる所以であろう。医薬分業は、経営的医薬分業と機能的医薬分業に分けられるとされるが、機能的医薬分業であっても、経営を無視して薬局の構造・設備を充実し、地域の患者に高度な薬剤師機能を高密度に提供することは不可能と言わざるを得ない。調剤報酬改定に関しても、その辺りのことはよく理解した上での狙いで、今回の算定項目の見直しと評価及び新設が行われたと思われる。もっとも、今回の調剤報酬点数では原価割れ業務と思われるかもしれないが、実績が次の調剤報酬改定の礎石になり、薬剤師業務改革への端緒となり「薬剤師業務のモノからヒトへの構造転換」の進展につながるのであろう。

 さて、保険薬局・薬剤師は、今回の調剤報酬改定に対してどのように取り組まれるのであろうか。薬局薬剤師に与えられたテーマは明確で、「薬剤師業務のモノからヒトへの構造転換」である。とはいえ、薬局の基本的機能として、医療用医薬品を含む健康保持関連物品の供給がある。また、保険薬局では、処方箋に基づき、安全性を担保した医療用医薬品の適切な管理・提供と適正使用のための情報提供を経済的に実行することが求められてきた。其の上でヒトへのより充実した薬剤師職能の発揮が望まれるのである。このことは改正薬機法の「薬局の定義」(第2条12)にも読み取れる「参考:この法律で薬局とは、薬剤師が販売又は授与の目的で調剤の業務並びに薬剤及び医薬品の適正な使用に必要な情報の提供及び薬学的知見に基づく指導の業務を行う場所(その開設者が併せ行う医薬品の販売業に必要な場所を含む。)をいう」。

 改正薬機法と調剤報酬改定の主旨を合わせて考えれば、薬局・薬剤師の業務として、医薬品の物流(physical distribution)から兵站学(logistics)と追跡可能性(traceability)の実務への応用に加えて、患者の薬物治療に関する指導管理を地域医療連携とともに強化することが求められていると思われる。兵站学(logistics)とは「本当に必要とされているモノを、必要なときに、必要なヒトに必要なだけ、供給する。」ことであり、追跡可能性(traceability)は「原材料の調達から生産、そして消費または廃棄まで追跡可能な状態を保持する。」と訳される。医療用医薬品の調剤包装単位でのバーコード表示は、追跡可能性を目的としたものであろう。これには、医療用医薬品の安全・供給上の問題である「偽薬の流通」やコンビニ受診の結果と揶揄される「患者側の多量の残薬」などを改善する目的も含まれよう。

 医療用医薬品供給の最前線に位置する保険薬局・薬剤師は、地域医療連携を強化し、患者への適切な薬剤情報提供並びに薬物治療期間中の服薬状況の把握・管理と薬学的知見に基づく指導が求められている。換言すれば、物と人と生活を見る薬剤師が求められているのではないか。注意すべきは、モノである医療用医薬品の流れは、伝票や処方箋等が流通記録として残るが、薬学的知見に基づく指導等に代表されるヒトへの薬剤師職能の提供等は、薬剤師の記録が頼りである。適切な業務の証明には正しい記録(薬歴、調剤録、薬局業務日誌)が求められ、改正薬機法と薬剤師法(一部改正)に規定されたところである。薬局・薬剤師の業務改革が進められようとしているなか、個々の薬局にとっては特徴付けと地域住民へのアピール(地域の皆さんにどんな奉仕ができる薬局なのか)が望まれ、薬局の現状分析と目標設定が今後の戦略として重要になってこよう。

 調剤報酬改定議論では、重要業績評価指標(Key Performance Indicator : KPI)とPDCA(Plan-Do-Check-Act)cycleを活用して薬局・薬剤師業務の把握・評価すると述べられている。個々の薬局の経営戦略においても、独自にKPI項目を工夫し評価するとともに、PDCA cycleを活用して薬局のマネジメント及び薬剤師業務の継続的改善を図ることが望まれる。例えば、指標項目として顧客(患者数、処方箋数、患者分布図)の確保、業務システムの確立(構造・設備、安全調剤の手順書・記録システム)、従事者のスキル(研修受講、各種認定)、かかりつけ薬剤師と薬剤管理指導(登録患者数、薬剤管理指導加算数)などの評価と、進行過程の見える化(指標や数値の評価)を図ったPDCA cycleを有効活用することが目標到達につながると思われる。また、現状分析に用いられるフレームワークであるSWOT分析を活用する方法もある。SWOT分析は、外部環境と内部環境の縦2列に、強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会 (Opportunities)、脅威 (Threats) の4つのカテゴリーで要因分析し、事業環境変化に対応した経営資源の最適活用を図る経営戦略策定方法の一つである。 

 SWOT分析は、戦略決定と、実行した戦略を評価する場合の両方に活用できる利点がある。今回、保険薬局・薬剤師に対して「薬剤師業務のモノからヒトへの構造転換」を目指せという方向性が調剤報酬改定の中で示されたと判断できる。この次は、保険薬局・薬剤師が地域の人々のQOLの向上のために、果たすべき役割・機能を充実させていくことが望まれている。

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