新型コロナウイルス感染が国内に広がりつつある中、大阪大学の研究グループが「新型コロナウイルスプラスミドDNAワクチン」の作製に着手した。同ワクチンの作製を手掛けているのは、 森下竜一寄附講座教授(大阪大学大学院医学系研究科 臨床遺伝子治療学)と中神啓徳寄附講座教授(大阪大学大学院医学系研究科健康発達医学)のグループ。森下教授らは、従来より鳥インフルエンザウイルスのパンデミック用に構築された技術(DNAプラスミド法)をベースに、新型コロナウイルスDNAワクチン開発に乗り出した。ワクチン完成は2~3カ月後を目途としている。プラスミドDNAワクチンの製造施設は、既に国内のバイオベンチャーなどが有しており、新型コロナワクチン完成後には実用化に向けて提携するバイオベンチャーを模索し、オールジャパンでの実用化を目指す。
中国湖北省の武漢市で発生した新型コロナウイルスは、中国を中心に拡大し感染防御ができないまま海外に流失し、わが国でも広がりつつあるのが現状だ。その致死率は2%程度(中国以外は約0.2%)で、潜伏期間はおおよそ10日前後とみられている。風邪の症状や37.5℃以上の発熱、倦怠感、呼吸困難の症状を特徴としており、感染力は高いが約8割が軽症であるものの、治療方法が確定されていないため社会不安が高まっている。感染者には対症療法を講じながら、また感染の疑いがある場合は、迅速な感染防御策をもっての感染拡大阻止が極めて重要である。
こうした中、森下氏らが開発に着手した新型コロナDNAワクチンは、新型コロナウイルスの遺伝子をプラスミドに挿入して作製するもの。もともと鳥インフルエンザウイルスのパンデミック用に構築されたDNAプラスミド法が活用される。
DNAプラスミド法の特徴について森下氏は、「抗原特異的な抗体産生及びTリンパ球活性を惹起」、「様々な抗原に対し、容易に対応できる」、「良好な安全性を確認済」を挙げる。安全性の確認に関しては、「鳥インフルエンザ、エボラ、炭疽菌などの臨床試験が実施されており、良好な安全性が示されている」(森下氏)。
製造関連のメリットとしては、「製造期間が短い(6~8週間)」、「病原ウイルスを扱う必要がない」、「抗原蛋白質の遺伝子配列さえ分かれば製造可能」、「原薬(プラスミドDNA)生産には一般的な培養、精製施設で製造可」、「製剤の安定性に優れる」、「長期備蓄が可能」などがある。
DNAプラスミド法と従来の鶏卵法のワクチン製造法の比較では、製造期間は前者の6~8週間に対して、後者は6~8カ月要する。新型コロナウイルスなど、異なるウイルスにすぐに対応できるのもDNAプラスミド法の特徴だ。
森下氏は、「米国では、鳥インフルエンザウイルスに対する水際対策としてDNAワクチンを活用して発生した変異型の強毒ウイルスに世界最速で対応した」と説明する。その上で、「わが国でも、新型コロナウイルスプラスミドDNAワクチンによる迅速な対応策が重要になると考えている」と強調する。