塩野義製薬は28日、日本感染症学会より「抗インフルエンザ薬の使用について」の提言、日本小児科学会の「2019/2020シーズンのインフルエンザ治療指針」がまとめられ、両学会のホームページに公表されいることを報告した。
日本感染症学会の「抗インフルエンザ薬の使用について」の提言では、インフルエンザに対する基本的な考え方に加え、抗インフルエンザ薬それぞれの概要がまとめられており、塩野義製薬のゾフルーザに関してはその使用方針について議論された内容が記載されている。
その結果、同薬の使用に関して、(1)12~19歳および成人:臨床データが乏しい中で、現時点では、推奨/非推奨は決められない。
(2)12歳未満の小児:低感受性株の出現頻度が高いことを考慮し、慎重に投与を検討する。(3)免疫不全患者や重症患者:単独での積極的な投与は推奨しない-としている。
なお、同提言は、科学雑誌に公表済みの論文情報を中心に現時点で判明している情報を伝えることを目的としており、抗インフルエンザ薬の使用に関しては、個々の医師の処方を規定するものではなく、同提言を参考に医師の裁量で適切な治療薬を選択する旨が記載されている。
また、ゾフルーザの使用に関しては、現時点ではまだ十分なエビデンスに乏しく、今後の基礎および臨床のデータの蓄積と解析により、その使用方針を変更する可能性があるとされている。
一方、日本小児科学会:「2019/2020シーズンのインフルエンザ治療指針」は、例年流行期を迎える同時期に、新たに科学雑誌に公表された論文情報等をもとに更新されるもの。
同指針では、一般診療における治療や重症例への対応、インフルエンザワクチンの推奨について、同学会の新興・再興感染症対策小委員会・予防接種・感染症対策委員会の見解がまとめられている。
ゾフルーザに関しては、小児患者への使用について、(1)同薬の使用経験に関する報告が少ない事や薬剤耐性ウイルスの出現が認められることから、当委員会では12歳未満の小児に対する同薬の積極的な投与を推奨しない。(2)一方で現時点においては同薬に対する使用制限は設けないが、使用に当たっては耐性ウイルスの出現や伝播について注意深く観察する必要があると考える。(3)免疫不全患者では耐性ウイルスの排泄が遷延する可能性があり同薬を単剤で使用すべきではないと考える。また、重症例・肺炎例については他剤との併用療法も考慮されるが、当委員会では十分なデータを持たず、現時点では検討中であるーと記されている。
同指針におけるゾフルーザの使用方針策定にあたり現時点での懸念事項として、「小児における使用経験の報告が乏しい」、「治療中に本薬に対する低感受性株(本指針においては薬剤耐性ウイルスと表現されております)が出現する」ことが挙げられている。
これらは、日本感染症学会が同提言をまとめる際に着目した点に共通するものである。
ゾフルーザは、リスク要因を持たない健常のインフルエンザ患者に加え、合併症を併発するリスクが高い患者に対しても臨床試験で効果を示した初めての薬剤。
合併症を併発するリスクが高い患者を対象とした試験では、タミフルに対してB型インフルエンザ患者における罹病期間の短縮や、プラセボに対してインフルエンザ関連合併症の発現率を低減するなどの臨床効果も確認されている。
米国では、疾病予防管理センター(CDC: Centers for Disease Control and Prevention)のガイドラインにおいて、12歳以上の合併症のない発症後48時間以内の急性インフルエンザウイルス感染患者に対する治療薬として推奨されている。
合併症を併発するリスクが高い患者に対しても、先日、FDAより追加適応承認を取得した。
その一方で、本邦においては、ゾフルーザに対して感受性が低下したPA/I38アミノ酸変異株の検出が使用上の懸念として注目されており、両学会でも、同薬の使用におけるリスクとベネフィットについて議論されているが、現時点では、結論に至るだけの十分なエビデンスが不足している状況下にある。
塩野義製薬では、実施済みの臨床試験や2018/19シーズンのデータをもとに、PA/I38アミノ酸変異株の出現頻度や臨床症状への影響について、関連学会で発表し、一部は原著論文として公表してきた。リスク要因を有する患者試験やグローバル小児試験の結果をはじめ、その他各試験におけるPA/I38アミノ酸変異株に関わる追加解析結果などについても、すでに主要学会にて報告しているが、現在論文審査を必要とする専門誌に投稿中で、今回両学会より公表された提言および指針には引用されていない。 塩野義製薬では、「今後も速やかに主要雑誌に掲載されるべく尽力する」意向を示している。
また、流行するインフルエンザウイルスはシーズンにより異なり、抗インフルエンザウイルス薬に対する耐性ウイルスの検出頻度もシーズンにより異なるため、「今後も複数シーズンにわたって、PA/I38アミノ酸変異株に関する継続したデータの取得が必要」と考えている。
同社は、国内の各種サーベイランスへの協力や、Rocheグループと共同でグローバルサーベイランスの実施により、PA/I38アミノ酸変異株の特徴をモニタリングし、両学会の提言および指針の内容も踏まえて、それらの結果を医療機関や学会等に対して順次情報提供していく。