「2020年度、2021年度ともに比較的順調に推移した。毎年の薬価改定で売上収益は100億円強の減少を余儀なくされるが、それを吸収しながら成長してきた」医薬通信社の取材に応じた吉永克則田辺三菱製薬執行役員営業本部長は、本部長に就任した2020年4月1日以降の約2年間を振り返り、これまでの手ごたえや今後の展望、抱負を語った。
吉永氏は、2020年4月1日に薬営業本部長就任以来、コロナ禍の緊急事態宣言中で、十分な営業活動がやり難い状況下での船出となった。以後、新型コロナの感染状況は幾度か変遷を遂げたものの「MR活動を取り巻く環境は殆ど変わりない」。
こうした中、三菱ケミカルホールディングスの2025年までのロードマップにおける「成長に向けた基盤の構築」でも、重要施策のひとつとして「田辺三菱製薬の一層の価値向上」が掲げられており、ヘルスケア事業の重要性が改めて明示されている。
ここまで2年間の田辺三菱製薬の売上収益は、◆2020年度全体3778億円、国内医療用医薬品3047億円。◆2021年度第3四半期は全体2998億円(対前年同期比3.3%増)、国内医療用医薬品2413億円(同2.7%増)。◆2021年度通期予測は、全体3980億円(対前年比5.4%増)、国内医療用医薬品2976億円(同2.3%減)を見込んでいる。
この業績結果の要因を吉永氏は、「厳しい環境の中ではあったが、現場のMRが色々と工夫しながらしっかりと情報提供活動を継続した結果が表れた」と分析する。
好調な国内業績は、コロナ禍以前から整備していた同社独自の非接触型デジタルツール「ZEUS」によるところも大きい。「なかなか直接面談が難しい中で、ZEUSを使って多くのドクターとコンタクトを取ることができた」
2021年度第3四半期業績についても、「コロナ禍の中、薬価引き下げを吸収して2.7%増となり、良い経過を辿っている」と評価する。
これらの好業績は、昨年3月に潰瘍性大腸炎の適応を追加した「ステラーラ」(クローン病等)、「シンポニー」(関節リウマチ等)の2剤が牽引し、「カナグル」(2型糖尿病治療薬SGLT2阻害薬)などの糖尿病製品の伸長などが後押ししたものだ。
現在のMR数は約1300名で、「領域制を引きつつ、ジェネラルMRが全体をカバーして協力しながら様々な情報提供を行っている」
MRの適正人員については、「コロナの影響で決まるものではない。それぞれの重点領域において様々な製品上市が予定されており、それに合わせてMR数や組織が変わってくるというイメージを持っている」と話す。
さらなる成長のために営業本部として注力すべき事項として、「マザーマーケットである国内事業の維持・成長」を挙げ、そのための「人材育成の重要性」を強調する。
「コロナ禍の影響も含めて、近年、ディテールのあり方が変化してきている。専門的知識をより高める教育や、face to face以外の方法でドクターとやり取りする高いデジタルのリテラシー教育が必要不可欠となってきた。こういった点にも力を入れている」と訴えかける。
具体的な国内営業の売上収益維持と拡大に向けた取り組みでは、「糖尿病・腎」、「免疫炎症」の2つの領域は、MR以外に専門の担当者を全国に配置している。MRと専門領域担当者が協力しながら様々な情報提供を行っている」と説明する。
さらに、「糖尿病・腎」領域では、テネリア(DPP4阻害薬)、カナグル(SGLT2阻害薬)、カナリア(DPP4とSGLT2の合剤)の2型糖尿病治療薬3剤に加えて、クレメジン(球形吸着炭)や、一昨年発売したバフセオ(腎性貧血治療剤)など、糖尿病患者のペイシェント・ジャーニー(病態時期)に応じた様々な製品構成が大きな強みになっている。カナグルは、2022年度に「2型糖尿病に伴う慢性腎臓病」の適応追加を予定している。
また、糖尿病や腎疾患は、地域医療での重症化防止策に重点が置かれており、「充実した製品ラインアップに加えて、地域包括ケアの中でのプレゼンスもしっかりと上げていきたい」と意気込む。
同じく重点領域の「中枢神経」では、遅発性ジスキネジア治療薬「バルベナジン」(MT-5199、2021年4月申請)が22年度に上市を予定する。
バルベナジンは、抗精神病薬を長期間服用した時に惹起する不随意運動を治療する薬剤で、既存の治療薬は存在しない。「精神科領域でプレゼンスの高いヤンセンファーマと協業し、疾患啓発や情報提供活動をしっかりと展開してバルベナジンの価値の最大化を図る」
さらに、「中枢神経」領域においても「糖尿病・腎」領域のように「色々な薬剤を揃えて、ペイシェント・ジャーニーでその時期に合致した薬剤の提案ができる体制を構築したい」との考えを示す。
「中枢神経」領域では、2022年度中にALS治療薬ラジカヴァの経口懸濁剤「MT-1186」の承認を予定している。MT-1186は、米国で本年1月11日(米国現地)に申請受理されている。
「ワクチン」領域では、連結子会社のメディカゴ社が新型コロナウイルス感染症の予防をめざして開発している植物由来VLPワクチン(MT-2766)の申請を本年夏頃に予定している。
グラクソスミスクラインのパンデミックアジュバントを併用するMT-2766は、カナダで昨年4月よりローリングサブミッション(段階的承認申請)の審査が開始されており、その後P2/3相臨床試験の第3相パートでの良好な結果をもとに、2021年12月17日にカナダで承認申請し、本年2月24日に承認された。
COVIFENZ(コビフェンツ、MT-2766)は、18歳から64歳までの成人における新型コロナ感染症予防を適応としており、冷蔵(2~8℃)での保存・流通が可能である。
日本においても、P1/2相臨床試験を2021年10月から実施しており、カナダでの申請に用いられた2万4000人分のデータに日本の臨床試験結果を加えて、本年夏頃の承認申請を目指している。
今後の展望については、「我々が取り扱っている糖尿病・腎、免疫炎症、中枢神経、ワクチンの4つの重点領域は、比較的成長が期待できる分野である」と指摘する。
その上で、「こうした重点領域の製品価値をしっかりと最大化していくことで、マザーマーケットとしての責任を果たしたい」と抱負を述べる。
吉永氏は、三菱ケミカルホールディングスにおける田辺三菱製薬の立ち位置にも言及し、「昨年12月に発表された2025年度までの経営方針において、‟ワンカンパニー・ワンチーム”を標榜する中で、ヘルスケアは重要な事業として位置づけられている」と説明する。
さらに、「勿論、海外へのチャレンジは展開されるが、我々は国内事業担当としてその期待に応えたい」と訴えかけた。