新型コロナ感染で自宅待機の認知症、肺気腫、難聴の90才独居男性を誰が、どのように生活支援するのか? 新宿区 さこむら内科院長 迫村泰成

 夏の終わりにあれだけ猛威を振るい、爪痕を残したデルタ株が、秋の訪れとともに急速に身を潜めた。喜ぶべきことではあるが、行楽シーズンが始まり飲食の制限が緩和されると、都会の片隅でくすぶっているコロナウィルスが、冬にまた日本列島で再燃する可能性は常に考えておかなくてはならない。
 毎月行っている新宿区新型コロナ対策ネットワーク会議で以下の認知症事例検討を行った。
 8月下旬、新宿区では毎日100-500件の新規感染が発生し、中等症でも入院できない状況であった。その時、一通のメールがケアマネより入る。症例の相談だ。
 彼女が担当している認知症、肺気腫、難聴の90才男性が新型コロナ感染で自宅待機となる。3日前に介護者の娘が発熱、PCR検査を受け陽性、ホテル療養となり男性は独居状態となる。
 男性も濃厚接触者になるため、往診クリニックに来てもらいPCR検査を行ったところ陽性と判明。この時点で、ケアマネがすべて背負っている状態・・責任感ある人ほど悩んでしまう。
 そのケアマネは、介護士と連携し感染対策して玄関先で訪問。健康観察や状態確認。幸い2回のワクチン接種が済んでおり、全身状態は安定。難聴あり、電話での対応が困難。直接説明するとき、玄関先で耳元に接近し時間がかかるため、介護者への感染リスクが心配である。

【相談後の対応1】
・誰かが(本例の場合、現実的にはケアマネか介護士)毎日検温、SpO2測定確認。症状悪化あれば、やはり病院対応へ
・訪問看護導入を検討。
・PPE着用など対応可能な介護事業所を当たる。
 唾液や排泄物に触れるので、ゴーグル、PPE、手袋、咳が出ていればN95マスク(そうでなければサージカルマスク)
→実際はそこまでトレーニングされている介護事業所は見つからず。

 高齢者支援課に相談。無症状であり、発熱もないため、入院対象にはならないと回答。認知症で理解乏しく外出も止むなしとの返事。保健所からは本人に緊急時の電話番号を伝えるが、理解して貰えなかったので、その電話番号を本人に伝えて欲しいとの要請(誰が行うのか)。
 段ボール3箱(1週間分)のレトルト食品や飲料が送付されるが本人はなぜ送られたのか理解できず不安になっている。

【相談後の対応2】
・訪問介護士が、弁当を届けるときに玄関先で健康状態確認、SpO2測定まで行う。介護への報酬はなし、新宿区の介護リフレシュ制度利用で介入可能
(happy hypokia 低酸素でも苦しさが目立たないのがコロナ肺炎の特徴という知識を共有しパルスオキシメーター測定の重要性を確認)
・入院が決定するまで自宅待機に訪問看護が入る(保健所から依頼、医療保険・介護保険とは別建て、新宿区からの報酬あり)
 その後も幸い健康状態は安定しており、結局入院せず、10日間の自宅隔離期間をケアマネ、訪問看護、訪問介護が協力し支援にて乗り切った事例である。
 第5波は、主に入院医療への負荷と在宅医療へのひっ迫がクローズアップされ医療崩壊が叫ばれた。その陰で、本例のような認知症高齢者への介護崩壊も数多く生じていたに違いない。
 ワクチン接種がある程度行き渡り、以前のような重症化は減少すると予想される。第6波では、医療側の備えはもちろん重要であるが、本事例のような軽症独居認知症など生活支援が必要となるケースが地域では増加すると思われ、介護への備えをしっかり考えておく必要がある。

本事例を通じて、明らかになった課題

1)介護崩壊はいとも簡単に起きるため、有事対応を支援者が考えておく必要

2)介護事業者へ感染症対応を行う教育(PPEの着脱、訪問時のノウハウなど)

3)保健所の認知症介護に関わる理解不足、福祉部高齢支援課のコロナ感染症に対する理解の浅さ、すなわち役所の縦割りの改善、情報共有

4)介入できるリソースが限られるため、医療・介護の壁を越えてお互いに補完協力する(今回介護士がSpO2確認したような)

5)陽性者への訪問介護に対するインセンティブの必要(施設介護事業所には感染対策に対する報酬があるが、訪問系にはない)

 最後に、本例は90才と超高齢であるが、病院医師のみが主治医であった。ここに地域のかかりつけ医が2人目の主治医として入っていたら、もう少し早く訪問看護につながり、ケアマネが一身に背負った責任の重さをチームで分散できたかもしれない。
 第6波の対策として、介護を要する高齢者には地域のかかりつけ医を持っておくことも大切である。

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