基本的な原理の理解

 毎月送られてくる雑誌に、森下竜一教授(大阪大学大学院医学系研究科 臨床遺伝子治療学寄附講座)の監修された記事「新型コロナワクチン感染症ワクチン接種が進行している今、基本的な原理の理解を」が特集として掲載されていました。とてもわかりやすく、役に立ちました。掲載された内容を引用しながら私なりにまとめ直し、ご紹介いたします。

 コロナウィルスとはウイルス表面を覆っているエンベロープの上にスパイクが飛び出していて、輪切りにすると王冠に似ていることからコロナウイルスと名付けられています。今流行しているコロナウイルスは遺伝子情報がSARSに似ていることから、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2と名付けられ、このSARS-CoV-2による感染症のことをCOVID-19といいます。この感染症がパンデミックを引き起こした理由は、感染しても約8割は軽症または無症状であることと、発症日の前日のウイルス量が最も高いことによります。感染者が自覚なく他者に感染させているのです。

 感染からおよそ5日目あたりが最も発症しやすく、その後約1週間で軽症または回復するか、約2割が中等症に移行します。全体の約5%が重症に移行し、その約半数が死亡します。流行当初は肺炎による死亡が多いと考えられていましたが、今は血栓による死亡が多いこともわかりました。糖尿病、高血圧、腎臓病等基礎疾患を有する場合はリスクが高くなります。詳細なメカニズムは明らかではありませんが、ヒトへの感染経路はスパイクが宿主細胞に結合するところから始まり、この宿主細胞の受容体が血管内皮細胞に存在するために、血管内皮細胞内で炎症が進行している可能性が示唆されています。

 薬剤の投与は、発症早期には抗ウイルス薬、中等症・重症では抗炎症薬となります。2021年4月の時点で、日本国内で承認されている治療薬は抗ウイルス薬のレムデシビル、ステロイドのデキサメタゾン、リウマチ治療薬バリシチニブの3つです。海外では抗凝固薬が投与されることもあり、死亡率の低下に寄与しています。日本ではまだ適応外使用です。最終手段は対外式膜型人工肺です。このECMO使用者の生存率は50%です。

 ワクチンは全部で4種類で、2021年に日本で投与されるのは、核酸とウイルスベクターです。ワクチンの違いは端的にいうと「スパイクタンパクの体内での作らせ方の違い」です。
 ウイルスワクチンには、生ワクチンと不活化ワクチンがありますが、病原体の弱毒化が不十分な場合はリスクもあるので主に不活化ワクチンです。組み替えタンパク質ワクチンは、例えばスパイクタンパクだけを組み換え技術により増やし投与する方法ですが、製造に時間がかかるとされています。
 核酸ワクチンには、DNAワクチンとmRNAワクチンがあります。体内ではDNAからRNAが作られ、RNAからタンパク質が作られます。mRNAワクチンは、ウイルスのスパイクタンパク質の遺伝子をコードしたmRNAを投与することによって体内でスパイクタンパク質を生成させ、それに対する中和抗体をつくらせます。ファイザー社とモデルナ社のワクチンがmRNAワクチンです。
 ウイルスベクターワクチンは、アデノウイルスという風邪のウイルスにスパイクタンパク質の遺伝子情報を組み入れたものを投与する方法です。

 ワクチンは、現在のところ毎年接種が必要なのではとされています。日本人は体格が小さいため、通常は量を下げますが、新型コロナウイルスに関しては、充分な時間がなかったこともあり、海外と同じ容量を投与するため、副反応の発現頻度は若干高くなっています。
 ファイザー製新型コロナワクチン「コミナティ筋注」の国内第Ⅰ/Ⅱ相試験では、37.5℃以上の発熱が1回目投与時に14.3%、2回目に32.8%認められ、そのほか、疲労、頭痛、悪寒も発現しています。これらは一過性であり、それほど重篤なものではありません。

 ワクチン接種はもともと集団免疫をつくるためのものです。集団免疫というのは集団において、およそ7割が抗体を持つと感染が収束するという考え方です。現在生じている経済疲弊などを緩和するひとつのきっかけになりますので、ある程度副反応があることを理解した上で、接種していただく必要があります。新型コロナウイルス感染症について、ワクチンや副反応に対して、正確な情報を伝達し、リテラシーを向上させることが切に望まれます。

 この特集を読んで、ワクチンのことを心配されて質問される患者さんに、原理を知った上でお答えすることができるようになりました。

薬剤師 宮奥善恵

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