塩野義製薬は、2021年3月期第3四半期決算発表説明会で、新型コロナ感染予防ワクチン「S-268019」の開発が順調に進捗していることを報告した。
「S-268019」は、UMN社で開発したBEVS の技術を用いた遺伝子組換えタンパクワクチン、抗原タンパクとアジュバントを選定し、昨年12月16日からP1/2試験を開始している。
治験は、200例以上の日本人成人を対象としたもの。安全性・忍容性を確認するP1パート、さらに至適用量の検討を行うP2パートで、同ワクチン3週間間隔の2 回摂取の安全性、忍容性、免疫原性、これを摂取後1年間追跡評価する試験が開始されている。
現時点では、安全性に大きな懸念はなく、2021年内のグローバルP3の試験開始に向けて、引き続き当局と協議し、できれば前倒しを狙っていく。具体的なスケジュールとして、P1/2 試験のデータの速報を2月末より順次入手する予定にある。
一方、生産活動については、原薬はUNIGEN社、製造はアピ社と連携し、2021年3月に供給体制の構築を完了。さらに、本年末には3000万人分を供給できる増産体制の構築を目指している。
ワクチン以外の新型コロナウイルス感染症への取り組みでは、感染症の重症化抑制を目的に、アレルギー性鼻炎を適応症として以前開発していたプロスタグランジンD2DP1受容体アンタゴニスト「S-555739」について、BioAge社との業務提携がスタートした。
同契約締結により、BioAge社は同化合物のCOVID-19の重症化抑制に関する米国、欧州での独占的開発・販売権を獲得する。さらに、他の疾患への適応追加に対する独占的交渉権が付与される。塩野義製薬は、同契約締結に伴う一時金、今後の開発進展に応じたマイルストン、ならびに製品上市後の販売額に応じたロイヤリティーをBioAge社から受領する。
加齢による免疫機能の低下は、感染症に対する罹患率ならびに死亡率を高める大きなリスク因子となる。そのため免疫機能を亢進させることで、COVID-19を含む種々の感染症の重症化抑制に繋がる可能性が示唆されている。
BioAge社は、同社が実施してきた過去45年以上にわたる推定6000人分の健常者追跡調査データをもとに独自のAIオミクス解析を行い、加齢に伴う免疫機能低下を改善する創薬ターゲットとしてDP1受容体を同定している。
また、アイオワ大学で実施されたSARSコロナウイルス(SARS-CoV)を感染させた加齢マウスモデルに、既存のDP1受容体拮抗薬を投与した試験では、マウスの死亡率の改善とともに、肺内のウイルス量の有意な低下が報告されている。
これらを踏まえて、「S-555739」のドラッグリポジショニングによる高齢者の免疫亢進薬としての開発期待から、同契約締結に至った。
「S-555739」は、非臨床データでDP1受容体への高い親和性・選択性が確認されており、臨床試験では忍容性と安全性がすでに実証済みである。
コロナウイルス治療薬については、昨年10月の決算発表で、有効性、安全性のさらなる検証が必要となるため、年度内の臨床試験開始断念を発表している。
現在、次のパンデミックも見据えたSARS-CoV-2以外のコロナウイルスにも有効かつ、特に有効性・安全性ともに既存薬を上回る新薬の創製を、低分子以外の様々な創薬モダリティを含めて検討している。
一方、迅速診断キットは、3大学と共同で開発を進めているSATIC法について、初期型の製品の年内提供を目指していたが、その目標を見直し、新しい開発計画を現在策定している。
具体的には、SATIC法における反応試薬の一部改良が必要なため、各反応プロセス、あるいはスケールアップの検討を行って、より簡便かつ多検体の迅速診断を可能とする改良型キットの早期提供を目指している。