阪大発バイオベンチャー企業「ファンペップ」がマザーズ上場 三好稔美社長に聞く

三好氏

 大阪大学発のバイオベンチャー企業のファンペップは25日、東京証券取引所マザーズに上場した。公開価格650円を10%上回る715円で初値を付けて終値780円で引け、期待の大きさを伺わせた。
 同社は、2013年10月11日の創設以来、大阪大学大学院医学系研究科の研究成果である機能性ペプチドを用いた医薬品の研究開発推進を展開。本年4月には、新型コロナ感染症の制御に重要な予防ワクチン開発に向けて、大阪大学およびアンジェスと提携し、ファンペップの抗体誘導ペプチド等のペプチド技術を活用した次世代ワクチンの共同研究を推進している。
 さらに、6月には、開発中の機能性ペプチドSR-0379の臨床的位置づけがPMDA対面助言で明確になり、「皮膚潰瘍を有する患者」を対象としたP3試験開始を決定している。
 そこで、三好稔美社長とファンペップ創設者で同社科学技術顧問の森下竜一氏(大阪大学大学院医学系研究科 臨床遺伝子治療学寄附講座教授)に、上場の抱負と今後の展開を聞いた。

SR-0379のP3試験決定が上場を後押し

 ファンペップは、昨年12月20日にマザーズ市場での新規上場を予定していたが、市況状況が悪かったため上場申請を取り下げ、今回の上場に至った。
 上場までの道筋について三好氏は、「その後、上場の主幹事証券会社をSBI証券に変更し、8月には15億円の資金調達も実施して、会社の評価を上げてからの速やかな上場を考えた」と明かす。
 その間のトピックスは何と言っても、本年4月のアンジェスと大阪大学との「新型コロナDNAワクチン」共同研究への参画と、6月の機能性ペプチドSR-0379の皮膚潰瘍患者の早期回復を目的としたP3試験開始の決定である。
 前者では、ファンペップのアジュバント様作用を有する機能性ペプチドAJP001を用いた抗体誘導ペプチドと新型コロナDNAワクチンを組み合わせることで、抗体産生力が高くより有効性の高い次世代ワクチンの研究開発に取り組んでいる。
 ファンペップのペプチド技術を活用した抗体産生力が高く、より有効性の高い次世代ワクチン開発により、ワクチンの投与量・回数の減少、より強力な感染予防効果や重症化の抑制などの臨床的なメリットが期待されている。
 三好氏は、「抗体誘導ペプチドを活用すれば、副作用が生じにくいワクチンを開発できる可能性がある。現在、動物実験やヒト血液由来細胞を用いた基礎研究を進めていている」と話す。
 一方のSR-0379は、「皮膚潰瘍面積の縮小率」を主要評価項目にP2試験が実施されていた。だが、主要評価項目で有意差が認められず、皮膚潰瘍の改善度の評価指標となるDESIGN-Rスコアの副次評価項目の層別解析において「有意に重症度を改善した」。そこで、PMDAと相談の結果、臨床的意義が明確な主要評価項目として「植皮等の簡単な外科的処置までの期間」を決定し、P3試験を実施することが決定した。
 三好氏は、「20年くらい皮膚潰瘍の新薬が出ていない中、PMDAの了解を得たP3試験を開始できるのは非常に大きい」と振り返る。
 今後については、「2015年10月に塩野義製薬と全世界のライセンス契約を結んでいるSR-0379の開発が成功すれば恒常的な収益が入ってくる。大日本住友製薬と北米のオプション契約を結んでいるFPP003(乾癬)についても、早く研究を進捗させて開発を製薬企業に任せたい」と強調する三好氏。
 さらに、「上場により、資金調達手段とともに信用度も上がる。上場で得た資金を使って、当社のパイプラインの柱である抗体誘導ペプチドの各疾患を対象とした研究開発を進めて、製薬企業と提携して収益を上げていきたい」と意気込む。 

ファンペップ上場記念式典で五穀豊穣を祈って打鐘する森下氏

 一方、森下氏は、「無事東証マザーズに上場できてホッとするとともに、高い評価を頂いて大変感謝している」と述べ、「ペプチド創薬に関しては、次世代の医薬品手法として非常に注目が集まっている」と強調。
 その上で、「特に、阪大とアンジェスが共同開発している新型コロナDNA予防ワクチンに対しては、今、大きな期待が集まっており、今後、抗体誘導ペプチドという形でのファンヘップの高いプラットフォーム技術が活きてくる」と期待を寄せる。
 さらに、「ファンヘップの抗体誘導ペプチドは、新型コロナワクチンの開発だけではなく、多くの自己免疫疾患に対してコストが安く投与回数が少ない患者にとって非常にメリットの高い創薬シーズ・モダリティである」と強調し、「ペプチドの機能の可能性を追求して、人々に健康と安心をもたらしてほしい」と要望する。
 ファンヘップが実用化を進めている森下教授と中神教授らの機能性ペプチドの研究は、大阪大学が新規血管新生因子の探索研究で創製した抗菌ペプチドAG30を基盤に、各種機能性ペプチドを合成するというものだ。
 AG30の発見は、昨年9月に上市されたHGF遺伝子治療薬「コラテジェン」(田辺三菱製薬・アンジェス)の後継品となる血管新生遺伝子を探索するための大阪大学のプロジェクトを起源とする。
 AG30は、30個のアミノ酸で構成される抗菌ペプチドで、広範囲な抗菌活性、血管新生作用、線維芽細胞増殖作用を有する。研究の結果、創傷治療効果と抗菌活性を併せ持つ機能性ペプチドの「SR-0379(20残基)」、アジュバント機能を有する「AJP001(20残基)」を見出した。
 SR-0379が、本年6月、「皮膚潰瘍を有する患者」を対象としたP3試験開始を決定し、ファンペップの第一号製品となる見込みにある。
 皮膚潰瘍患者数は、日本で約100万人(褥瘡20万人、糖尿病性潰瘍80万人)、米国で230万人(褥瘡50万人、糖尿病性潰瘍180万人)に上り、治療薬の市場規模も大きい。
 

上場により抗体誘導ペプチドの各疾患対象研究をさらに推進

 免疫原性を高める機能性ペプチドのAJP001は、体内で抗体産生を誘導するのに非常に重要なアジュバントとしての作用を発揮し、さらに、抗体誘導ペプチドのキャリアとして応用される。
 抗体誘導ペプチドは、標的タンパク質に対する抗体を体内で産生させるペプチドで、抗体医薬に比べて製造コストが安い。その理由は、抗体誘導ペプチドは、抗体を「体内」で産生させるため、体外で製造した抗体を注入する抗体医薬とは異なり、バイオ製造設備を必要としないためだ。
 投与回数も、抗体誘導ペプチドは、獲得免疫システムを利用して標的タンパクを長期間阻害するため、投与回数を数カ月に一回に改善できるので、抗体医薬に比べて、利便性や服薬コンプライアンスが高いという利点もある。
 従って、高価な抗体医薬に比べて安価で利便性も高い抗体誘導ペプチドは、その代替品としての期待が大きい。AJP001をベースとした抗体誘導ペプチドは、ファンペップの重要なパイプラインの一つになっている。
 現在、抗体誘導ペプチドとして開発が最も進んでいるのがFPP003だ。炎症性疾患に関与する標的たんぱく質IL-17Aに対する抗体誘導ペプチドのFPP003は、尋常性乾癬や強直性脊椎炎などの治療薬として注目されている。
 炎症性疾患領域では、様々な標的タンパク質(TNF-α、IL-12/23、IL-17A及びIL-23)に対する抗体医薬が発売されており、市場規模も大きい。その中で、既存のヒト型抗ヒトIL-17Aモノクローナル抗体製剤はいずれも薬価が約5~10万円と高く、月1回投与を必要とする。
 一方、FPP003は、製造コストは抗体医薬の約1/10程度、投与回数も3カ月から半年に1回で、患者負担の軽減が期待される。
 FPP003は、昨年4月、豪州で乾癬を対象とするP1/2a試験が開始された。強直性脊椎炎は、日本では希少疾病として、AMED「創薬支援推進事業・希少疾病用医薬品指定前実用化支援事業」の支援を受けた前臨床試験が実施されている。
 FPP003は、大日本住友製薬との間で、北米での独占的開発・商業権に関するオプション契約を締結している(北米以外の地域は、優先交渉権を供与)。
 アレルギー反応における標的タンパク質IgEに対する抗体誘導ペプチドのFPP004も、昨年8月に前臨床試験がスタートした。対象疾患は、スギやヒノキの花粉による季節性アレルギー性鼻炎だ。
 IgEに対する抗体医薬は、2003年より「ゾレア」がアレルギー性疾患(気管支喘息および慢性蕁麻疹)を対象に世界各国で発売されている。昨年12月、国内で花粉症に対する効能追加が承認されたが、薬価が高いために経験豊富な耳鼻科で、かつ既存の治療方法で効果のない重症な患者のみの使用に制限されている。花粉症患者数は、国民の約43%と推測されており、多くの患者が存在するにも拘わらず使用できていないのが現状だ。
 FPP004の開発がうまく進めば、安価のため多くの患者への使用が可能となり、投与間隔も3カ月から半年に1回(ゾレアは毎月1回)と花粉症で悩む人々の福音となる。現在、FPP004は、花粉症を対象として提携活動中にある。

     
高いプラットフォーム技術で新規抗体誘導ペプチドを創生

 ファンペップでは、抗体誘導ペプチドの開発を、同じターゲットで解決手法が異なる「バイオオルタナティブ」の名称で進めており、高いプラットフォーム技術を誇る。同社のノウハウが蓄積されたプラットフォーム技術「STEP UP」(Search Technology of EPitope for Unique Peptide vaccine)の活用により、様々な標的タンパク質に対し、新規の抗体誘導ペプチドを次々と創製していく。
 抗体誘導ペプチドの「エピトープ」(抗体が認識する抗原の一部分)を選定する技術ノウハウや、キャリアに独自のAJP001を利用できるのが同社の大きな強みだ。そこにAI技術で有名な東証一部上場企業のフューチャーとの間で開発したAIを活用することで、さらなるプラットフォーム技術の向上を目指している。
 
 ファンペップの抗体誘導ペプチド研究の対象疾患としては、「精神神経疾患」、「疼痛」、「高血圧」、「アレルギー性疾患」、「乾癬(標的IL-23)」、「抗血栓」、「家族性大腸腺腫症」-などがある。
 その中で、大日本住友製薬とは「精神神経疾患の新規の抗体誘導ペプチド研究」、塩野義製薬とは「疼痛に関する共同研究」を推進している。
 IL-23に対する抗体誘導ペプチド研究では、昨年、経済産業省のNEDOの支援を得て、クローン病や潰瘍性大腸炎などの免疫性疾患の治療薬となるエピトープ選定のスクリーニングを進めている。
 最後に三好氏は、「アンメットメディカルニーズの医薬品開発が求められる中、抗体誘導ペプチドは、次世代の治療薬として非常に期待が大きいことをたくさんの方に知って頂きたい」と強調。その上で、「ファンペップは、社会貢献のできる優れた機能性ペプチドを世に送り出し、社会の役に立ちたい」と訴えかけた。

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