花王は18日、同社が提出した動物を用いずに化学物質の全身毒を評価した事例報告書2報が、OECD 国際プロジェクトに採択され、本年10月1日にOECD公式サイトで公開されたことを明らかにした。民間企業が単独で同プロジェクトに事例報告書を提出し採択されたのは今回が初めて。
同プロジェクトは、化学物質の安全性評価事例を蓄積して、新たな評価手法のガイダンスを発行することを目的としているもの。花王のこれらの報告書は、同プロジェクトにおける新たな動物実験代替法に関連するガイダンス発行に貢献することが期待される。
化学物質を安全に使用・管理するためには安全性の評価が欠かせない。近年では、安全性評価の試験法において、動物を用いない手法、すなわち動物実験代替法開発の必要性が世界的に高まっている。
花王は日用品、工業用化学品の事業を通じてさまざまな化学物質を扱っていることから、早くから化学物質の安全性評価のための動物実験代替法の研究を行なってきました。これまでに、花王が開発に関わった皮膚感作性、眼刺激性に関する動物実験代替法は、世界的に認められる公的試験法であるOECDテストガイドラインに収載されている。
一方、皮膚や眼などの局所に対する毒性と比較して、全身毒性は、毒性の発現に至るメカニズムが複雑なため、単一の動物実験代替法での評価は極めて難しいとされている。花王は2013年頃から、全身毒性に関しても、動物実験代替法の開発を進めてきた。
その後、2015年に花王が独自に開発した「眼刺激性試験代替法STE試験」がOECDテストガイドラインとして承認された。
今回、花王は、2つのモデル化学物質群(クロロベンゼン類、アルキルフェノール類)の動物実験を用いない全身毒性評価事例研究を行ない、OECD IATA Case Studies Projectに2報の事例報告書を提出した。
この事例報告書はOECDの国際会議(2019年11月19日、20日)で科学的妥当性について詳細な議論が行なわれた上で評価事例として採択され、本年10月1日にOECDの公式サイトで公開された。
この評価事例で花王は、毒性メカニズムに基づく統合的な毒性評価(IATA)を基盤としたリードアクロスを用いて化学物質を評価している。リードアクロスは、評価したい化学物質に化学構造が類似している化学物質の、既存の安全性情報から毒性を類推する手法で、新たな動物実験を回避できる利点がある。
そのためリードアクロスは化学物質の安全性評価における動物実験代替法として盛んに検討されているが、化学構造が類似していても毒性が類似しないケースがあるという課題があった。今回の評価事例では、化学構造の類似性と、細胞実験等による毒性応答の類似性とをあわせて判断することで、評価したい化学物質の毒性が推測できることを示した。これはリードアクロスの課題をカバーし、予測精度の向上につながる成果である。
今後も花王は、動物実験代替法の研究を通じて、国内外の行政・研究機関と連携しながら、消費者の安全・安心な暮らし、並びに産業界の発展に貢献していく。