
フェリング・ファーマは2日、東京都内で「国境を越えて見えた”仕事と不妊治療の両立”の共通課題日・英・ポーランドの患者団体が初の国際対話」をテーマにメディアセミナーを開催した。
同セミナーは、企業人事とともに不妊治療と仕事の両立支援の在り方を考えることを目的としたもの。国境を越えて患者団体が一堂に会し、5カ国の国際共同調査の結果をもとに議論するのは今回が初めて。
セミナーでは、企業人事とともに少子化対策や両立支援への提言に向けたディスカッションを展開。各国の患者団体を中心に、国際的なネットワーク形成の可能性も議論され、国境を越えて患者の声を集約し、「企業・自治体・政府への働きかけを強めていく」方向性が共有された。
基調講演では、浅田義正浅田レディースクリニック理事長が「不妊治療の実際と企業の両立支援への期待」をテーマに講演。不妊治療の基本と、働きながら治療を続ける上での課題について解説した。

浅田氏は、「不妊治療の目的は妊娠、さらにその先の出産を実現することであり、着床や妊娠判定はその途中の段階にすぎない」と強調。
また、「卵子は年齢とともに老化し、その数も減少する一方、卵巣に残る卵子の目安となる卵巣予備能には大きな個人差がある」と紹介した。
さらに、AMH(抗ミュラー管ホルモン)検査は、「卵巣予備能を考える際の一つの参考情報となり得る」とした上で、「検査の限界を理解し、必要に応じて医師に相談しながら、将来の妊娠・出産を含むライフプランを考える」ことの重要性を説明した。
加えて、不妊治療と仕事の両立を難しくする要因として、①通院頻度の高さ、②月経周期や身体の状態に応じて治療日程が決まるため、来院日を事前に確定しにくいー点を指摘した。
浅田レディースクリニックの診療フローの一例では、1周期あたりの通院回数はタイミング法で2~5回、人工授精で3~6回、体外受精の採卵では5回程度となる。
NPO法人フォレシアの調査では、治療ごとの離職率はタイミング法の17.8%に対し、体外受精・顕微授精では47.5%に上る。 こうした治療と仕事の両立に伴う負担を軽減するため浅田氏は、「当院では、自己注射やオンライン診療による通院回数の削減、年末年始を除く毎日の診療、受精卵の凍結による移植日の柔軟な調整など、患者が仕事を続けながら治療を受けやすくするための取り組みを行っている」と紹介。その上で、「医療機関側の工夫だけでは両立支援には限界がある」と明言して、「企業側も不妊治療の特性を理解し、治療を続けながら柔軟に働ける環境を整えることが重要である」と訴えかけた。
また、同セミナーでは、日本・英国・ポーランドの患者団体代表と、三菱UFJ銀行およびフェリング・ファーマの人事責任者がパネルディスカッションが展開された。
不妊治療を取り巻く制度や経済的負担は国によって大きく異なる。日本では有効性・安全性が確認された一般不妊治療や生殖補助医療が保険適用であり、自己負担は基本的に3割となっている。
だが、英国では公的支援に地域差があり、民間で治療を受ける場合には、約100万~240万円かかる場合もある。こうした違いがある一方で、パネルディスカッションでは、働きながら治療を続ける上での「職場への相談のしづらさ」や「周囲の理解不足」など、「当事者が抱える課題には国を越えた共通点がある」ことが示された。
その中で、職場における不妊治療への理解では、Becky Kearns英国Fertility Matters at Work共同創業者兼CEOが、「英国では86%が職場の誰かに治療を伝えている一方、英国・フランスの回答者の61%が雇用主に話すことを恐れていた」と紹介。
Karolina Klimowiczポーランドの患者団体Nasz Bocian理事も、「文化や宗教、教育不足などを背景に、当事者が職場で“見えない存在”になっている」と指摘した。
野曽原誉枝特定非営利活動法人Fine理事長は、「日本では43%が職場の誰にも治療を伝えていない」ことに言及し、「性や生殖に関わるテーマを職場でオープンにしにくい文化が残っている」と語った。

不妊治療における企業との連携では、上場庸江三菱UFJ銀行人事部部長兼ダイバーシティ推進室長が、「時間単位で取得できる年5日の不妊治療特別休暇や治療費補助」に加え、「上司とのコミュニケーション方法をまとめたQ&A集や、管理職向けの配慮事項・NG発言集」などを紹介。「制度を整備するだけでなく、従業員が制度を知り、安心して利用できる環境作りの重要性」を指摘した。
長江裕美フェリング・ファーマ 人事部長も、従業員の家族形成を支援するグローバル制度「Building Families at Ferring(BFF)」を紹介。同制度では、不妊治療や卵子凍結、養子縁組などに対する経済的支援や有給休暇制度を設けており、「制度を設けるだけでなく、必要とする従業員が安心して利用できる企業文化を育てることが重要である」と述べた。

閉会に当たりジョン・プルバーフェリング・ファーマ代表取締役社長CEOはセミナーを総括し、①職場で不妊治療について語れない「沈黙を破る」、②医師・人事・管理職・社会、そして国境を越えて連携する、③意識を具体的な行動につなげる、④従業員が安心して相談できる場やツールを提供するー重要性を強調した。
なお、同セミナーの議論の起点となった本年4月に公表された5カ国の国際共同調査結果の概要は、次の通り。
5カ国全体で39%が、不妊治療中に退職した、または退職を検討したと回答した(ポーランド47%、日本・英国38%)。
また、不妊治療が精神的健康に「とても影響がある」「かなり影響がある」と回答した人は、合わせて93.8%に上る。職場の誰かに治療を伝えたことがある人の割合は、英国が86%で最も高く、日本は57%で最も低い結果であった。
制度面では、不妊治療専用の社内規程やガイドラインが「ある」と回答した雇用主は、5カ国全体で37.4%、日本で38.1%であった。
一方、被雇用者のうち規程やガイドラインを「知っている」と回答した人は、5カ国全体で24.3%、日本で24.2%であった。制度の整備に加え、従業員への周知・認知も課題であることが伺える。

]図1 不妊治療中に退職した、または退職を考えたことのある人の割合
(国別・被雇用者)

]図2 不妊治療が自身の精神的健康に与える影響(被雇用者)

図3 会社の不妊治療に関する社内規程やガイドラインの認知度(被雇用者)

