アストラゼネカは11日、成人慢性リンパ性白血病(CLL)または小リンパ性リンパ腫(SLL)治療薬の「アカラブルチニブ」(ブルトン型チロシンキナーゼ[BTK]阻害剤)が、新型コロナウイルス感染症の19例の重症入院患者の大多数において炎症マーカーを低下させるとともに臨床転帰を改善したと発表した。Science Immunology に掲載された試験結果を公表したもの。
重度の低酸素血症および/または炎症を有する新型コロナウイルス感染症の入院患者19例は、専門家による評価済みの症例集積であり、同試験はアストラゼネカの科学者を含む米国の治験担当医師らの共同研究として、米国の国立衛生研究所国立がん研究所の医学博士Wyndham Wilson 氏および、医学博士Louis Staudt 氏により主導されている。
同公表文献では SARS-CcV-2ウイルスに起因する重度呼吸器疾患患者に対するアカラブルチニブの効果について解説している。その内容は、ウイルス誘発性の過剰免疫反応「高サイトカイン血症(サイトカインストーム)」がこれらの患者の呼吸器疾患の主な発症機序であるとの仮説を立てて、制御を失ったBTK依存性肺マクロファージシグナルがこのサイトカインストームに作用し、新型コロナウイルス性肺炎への関与を示唆するエビデンスが報告されている。
アストラゼネカのオンコロジー研究開発エグゼクティブバイスプレジデントである José Baselgaは、「新型コロナウイルス感染症の重症患者に対するアカラブルチニブ使用の検討を支持するサイエンスは強固である」と断言。さらに、「本症例集積の有望な予備データにより、CALAVIプログラムに代表される複数の国際P2試験の開始に至った」と明かし。「我々は可及的速やかにこれらの試験の患者登録を完了してデータを取得し、治療薬候補として患者にどのような貢献ができるのか、さらに理解を深めたい」とコメントしている。
なお、アカラブルチニブは、特定の血液悪性腫瘍の治療薬として現在米国で承認されている次世代選択的BTK阻害剤で、 BTKに共有結合することでその阻害作用を発揮する。B細胞においてBTKシグナルは、B 細胞の増殖、輸送、走化、および接着に必要な情報伝達系の活性化を引き起こす。
アカラブルチニブは成人慢性リンパ性白血病(CLL)または小リンパ性リンパ腫(SLL)の治療薬として米国、オーストラリア、アラブ首長国連邦およびインドにおいて承認されている。カナダでも CLLの治療薬として承認されている。
また、米国およびその他いくつかの国で、前治療歴のある成人マントル細胞リンパ腫(MCL)の治療薬としても承認されている。同適応症は、米国において全奏効率に基づき迅速承認制度のもとで承認されたもので、継続承認は検証的試験による臨床効果の検証およびその内容次第で決定される。本邦ではアカラブルチニブは未承認。また、同剤が SARS-CoV-2 関連疾患の治療薬として承認されている国はない。