新型コロナ感染防止での薬剤師の活躍と会長職を振り返って 藤垣哲彦大阪府薬会長に聞く

 大阪府薬剤師会の藤垣哲彦会長は、本年6月20日の定時総会をもって任期満了で退任する。2010年4月から5期10年間、大阪府薬会長を務めてきた藤垣氏の功績は十指に余る。そこで、藤垣氏に、新型コロナウイルス感染防止における薬剤師の活躍と、会長職10年間のトピックスについて語ってもらった。
 新型コロナウイルス感染拡大に伴い、多くのメディアが連日のように医療機関の活躍を報じてきた。だが、その大部分は医師・看護師で、残念ながら薬剤師については殆ど聞こえてこない。
 こうした中、藤垣氏は、「加藤勝信功労大臣や、吉村洋文大阪府知事は、結構薬剤師の名前を出してくださっている」と紹介し、「それは、薬剤師がきちんと職能を果たしているからだ」と断言する。
 さらに、実際の薬剤師の活躍として、①自粛業種ではない薬局での頑張り、②新型コロナウイルス感染者の宿泊療養施設への薬剤の供給③消毒薬の指導、④新型コロナウイルス関連の薬剤の説明ーなどを挙げる。
 新型コロナウイルス感染症拡大時においても、医療用医薬品や一般用医薬品、衛生用品の供給は不可欠で、地域の薬局は平常通り業務を余儀なくされている。藤垣氏は、「そこで働く薬剤師は、言わば戦場で戦っているようなもので、大変な苦労を強いられている。薬局では、通常の患者さんと対面して実際に人と人が接するので、感染を恐れる薬剤師も少なくない」と明かす。
 普通規模の薬局でも1日70~100人の人と接するため「肉体的疲労に加えて、結構精神的にダメージを追っている薬剤師が多い」
 こうした薬剤師に対応するため、大阪府薬では、「OKISS(大阪府薬剤師会かかりつけ薬局情報支援システム)の中で、精神科の専門家が開設するサイトをリンクし、何時でもメンタルケアができるようにしている」
 一方、大阪府は、4月より、新型コロナウイルス感染者宿泊療養施設の開設を他の都道府県に先駆けて実施している。「スーパーホテル大阪天然温泉」(大阪市西区)など、大阪市内にある3ホテルを大阪府が借り上げ、無症状や軽症の人の宿泊療養を進めてきた。
 あまり知られていないが、これらのホテルに、調剤した医薬品を運んでいるのも薬剤師だ。診療所として届け出のない宿泊施設内での処方箋発行や調剤が不可能であるのは、言うまでもない。現在、これら3ホテルへの医薬品供給は、大阪府薬の中央薬局の薬剤師が対応しているが、「5月が終了してスキームがはっきりする頃には、地域の薬局に引き継ぎたい」と話す。
 大阪府の吉村知事は、新型コロナウイルス感染症患者を専門に受け入れるキャパシティを「1151床まで拡大する」と断言しており、患者受け入れ体制も整いそうだ。
 消毒薬の指導も、薬剤師の役割として欠かせない。新型コロナウイルスの殺菌は、アルコールが不足しているため、次亜塩素ナトリウムや、次亜塩素酸水の使用が余儀なくされている。「これらの消毒薬は、2度拭きしなければならない。特に、大阪市内の小学校では時間差で児童が登校する合間の15分の休憩時間内での消毒が義務付けられており、消毒方法や希釈方法などの説明面で学校薬剤師の役割は大きい」と強調する。
 新型コロナウイルスに効能効果がある薬剤として、「レムデシビル」(ギリアド)の承認や、「アビガン」(富士フィルム)の効能・効果を証明する臨床試験、フオイパン(小野薬品)の効果を示す基礎論文などの話題が、テレビやネット、新聞上で賑わっている。
 藤垣氏は、「国内には、世界に名の通った薬剤師がたくさん居られるのに、メディアを通して、薬の専門家である薬剤師の薬の話しが聞けない。非常に残念なことである」と指摘し、「薬の説明で薬剤師が専門性を発揮すれば国民のためにもなるし、多くの薬剤師の士気も上がる」と言い切る。
 医療従事者用マスクの不足にも言及し、「大阪府薬が全ての会員薬局にマスクを1箱配るとすれば、4000軒でで計20万枚を要し、なかなか集め切れない。購入費用も1000万円程度かかる」との試算を示し、「薬剤師等が使うマスクについては、地域支部単位で購入してくれている」と報告。加えて、「各薬局には、大阪府や大阪市などそれぞれの行政区から医療機関向けに送られたマスクを配布している。本部会員にも、マスクを一人3枚ずつ送付した」と明かす。
 抗体検査キットについても「唾液で検査できる簡便なものも出てきたが、一般的にどのキットも精度上の問題が指摘されている」とした上で、「精度の問題さえクリアできれば、薬剤師も簡易検査を実施している薬局において、ガイドラインに沿った形で活躍できる」と訴求する。
 現在、ストップしている薬学生実務実習(第1期)は、「近畿地区は7月1日からスタートする方針が出された。それでも終わらない大学は、文科省と相談してe-ラーニングシステムなどを活用することになるだろう」と推測。
 さらに、「色々な考え方があると思うが、個人的には、新型コロナウイルス禍のイレギュラーな現況下で頑張っている薬剤師の姿を薬学生が見るのも貴重な経験になる」と力説する。
 その一方で、新型コロナウイルス禍で活躍する薬剤師に対しては、「月並みではあるが、よく頑張っている。これからも頑張ってほしい」とエールを送る。

大阪府薬会館両隣の土地取得が最も印象深い思い出に
        
 藤垣氏は、5期10年の会長職を回顧し、心に残る思い出として、「大阪府薬剤師会館両隣の土地取得」、「大阪での日薬学術大会開催」、「大阪e-お薬手帳システムの開発」、「大阪府薬剤師会認定かかり付け薬局制度」ーの4項目を挙げる。
 大阪府薬剤師会館両隣の土地取得は、「会長時代だけでなく、理事の時も含めて非常に印象深い」出来事であった。もともとの大阪府薬会館本館は175坪あった。そこに、土地買収で現在の西館の77坪、駐車場210坪が加わり、敷地面積は合計462坪に拡大された。
 「これは、歴代会長の尽力の賜で、未来の薬剤師に大きな資産を残すことができた。将来的に本館を建て替えるときにも土地を有効に使える」とほほ笑む。
 大阪での日薬学術大会開催(2013年9月22~23日)のトピックスは、何と言っても「学術大会史上初めて参加者1万2000人を目標とした」ことだ。参加者の実数は1万5000人を超え、開会式には田村憲久功労大臣(当時)が参加するなど、盛大な大会となった。
 大阪が生んだの建築の巨匠・安藤忠雄氏の「人生100年‐人を元気にする」の大会記念講演など、プログラムも豪華版であった。中でも「日本薬学会」、「日本社会薬学会」、「日本腎臓病薬物療法学会」、「日本医療薬学会」などの学会との「学会共催シンポジウム」は、藤垣大会実行委員長肝煎りの企画で、「開局会員には是非、薬剤師の未来を見据えて学会を見て欲しかった。参加者数だけでなく、この企画の意義は大きかった」と改めて強調する。
 「大阪e-お薬手帳システムの開発」は、「2011年3月11日の東北大震災で、お薬手帳の重要性がクローズアップされた。また、とっさの時に持って出るものとして注目されたのが財布と携帯電話で、携帯電話の中に薬の情報を入れようと考えた」と開発までの経緯を説明する。
 その後、大阪e-お薬手帳は、国の事業への参加で補助金約2億4000万円を獲得し、大阪府との協議会を通して開発された。「大阪府薬は今でも版権は持っているが、最初から全国に広げるつもりで開発に着手した」と振り返り、「今では全国的に広がり、診療報酬も付いた。調剤チェーン薬局独自で電子版お薬手帳を展開しているところもあるが、それも大阪e-お薬手帳を起点に波及していった」と自負する。
 「大阪府薬剤師会認定かかり付け薬局制度」は、国の基準薬局制度が発展的解消になったことを受けて、大阪府薬独自に制定したものだ。「何か目標があった方が良い」という考えから2015年4月よりスタートしたが、その後厚労省から「健康サポート薬局制度」が打ち出され、「今後、どこかでうまく連携を取る必要がある」と強調する。
 とはいえ、大阪府薬では、「大阪府薬剤師会認定かかり付け薬局」のメリットを大阪府民に知ってもらうため、、新聞紙上に広告を出したり、昨年は地下鉄御堂筋線の吊革によるPRを展開した。現在、大阪府薬剤師会認定かかり付け薬局は700軒強程度だが、1200軒を目指す。
 藤垣氏は、会長時代に積み残した課題として「財政再建」を挙げる。「4億円の収入を上げていた会営吹田薬局閉局による影響は大きい。閉局は、国立循環器病研究センターの移転に伴うものだが、調剤のみを行う会営薬局の役割は終えたと考え、同センター移転に追随しなかった」と説明する。
 後輩薬剤師への提言では、まず、「大阪の医薬分業は、平成10年の国立病院38モデル事業が起点となって推進されたため、まだ20年の歴史しかない。現在65%超まで来ているが、後は質の向上に努めてほしい」と要望する。
 近年、薬剤師業務は、「物から人へ」の役割が強く求められるようになったが、「薬そのものは非常に大事だが、そこに患者さん寄り添う気構えが必要不可欠である。昨年の厚労省からの0402通知も、我々の手足をもぎ取るのではなく、物から人へ行くためのものであると前向きに受け止めてほしい」と言い切る。
 大阪府薬の新執行部に対しても、「大阪の立ち位置は独特のものがある。大阪程の規模があれば、何か課題があるときに全国に向けての雛形を作れるので、これからも一歩先を見据えた施策を考えてほしい。歴代の執行部もそのようにやってきた」と訴えかける。
 藤垣氏の大阪府薬会長としてのスタートは、2010年4月30日に出された「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」の医政局通知が皮切りとなった以降、薬剤師には、“医療人としての資質”がより強く求められるようになったのは間違いない。
 最後に藤垣氏は、全ての薬剤師に向けて、「物から人へと薬剤師の役割が変化する中で、ビジョン、ミッション、パッションを持って、自分たちの使命を考えてほしい」の言葉を贈った。

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