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医薬品製造受託を主業務とする田村薬品工業は、医療現場での医薬品不足が問題となっている中、「YES,元気 未来にチャレンジする健康開発企業」をキャッチフレーズに高い品質の医薬品の安定供給に注力している。同社の2025年(1月~12月)通期業績予想は、初の売上高100億円突破が見込まれている。
田村大作社長は、「2025年~27年は、高品質を維持しながらどのように医薬品の製造数量を上げて安定供給の課題に対応して行くかが当社の大きな課題である」と断言する。総合受託製造メーカーとして大手製薬企業の医療用医薬品からOTC医薬品、健康食品までの製造を手掛ける同社の取組や今後の展望を聞いた。
医療現場での後発品不足は、2020年12月、後発医薬品企業が製造した抗真菌薬(爪水虫治療薬)への睡眠導入剤成分の混入に端を発する。その後、同じく後発医薬品企業の業務停止など後発品メーカーのGMP遵守違反が次々と判明。後発品の販売停止・回収等が頻繁に行われた結果、医療現場は、先発品不足も相まって、ここ3年間、医薬品供給がままならない深刻な状況に陥っている。
こうした中、田村薬品工業では、本店工場(奈良県御所市)、紀ノ光台工場(和歌山県橋本市)、五條工場(奈良県五條市)の3工場の特性を活かしながら「高品質を維持した医薬品の増産」にチャレンジしている。
安定供給のための人材確保に注力
医療用医薬品の生産量不足の主要因として田村氏は、①工場の生産要員不足、②原料の供給不足、③製品ラインのキャパシティ不足ーを指摘する。これらの3要因が折り重なって深刻な医薬品不足を生んでおり、「特に、生産要員不足が厳しい現状下にある」
その理由は、毎年の薬価改定と労働賃金引き上げ施策が相反しているためだ。「医薬品の生産に携わってきた人材が、給料の良い他業種に流出して行く、または業界に入って来ない」。 人材不足を補うために田村薬品工業では、「海外からの社員を日本人と同様の雇用形態で採用」しており、現在、全社員400名中約10名の外国人が生産現場に配属されている。
田村氏は、「安定供給のための人材確保とともに、高品質の医薬品を提供するため、社内教育によるスキルアップも不可欠である」と強調する。同社では、外国人も含めた全ての社員に対して、「社員一人一人の能力を上げ、人としての魅力、仕事力を磨いていく」ためのサポートに余念がない。
安定供給のため製品毎の採算チェックする財務能力を向上
製薬企業からの要請も、ここ2~3年で変化してきた。従来は、「コスト削減を重視した安価が主体であったが、昨今では、値段よりも安定供給が主たる要請になってきた」
製造受託の指標として、「品質レベルの維持」、「社員の勤続年数」、「財務能力」が問われる。品質レベルを維持するために田村薬品工業では、2025年末から品質管理システムの電子化を導入し、ヒューマンエラーのゼロを目指す。
社員の勤続年数からは、社員が定着して高いスキルで品質面を維持しているかが問われる。
財務能力では、「財務部門が生産現場の状況をしっかりと把握して、製品ごとに採算が取れているかチェックしている」かがポイントになる。医薬品の安定供給においては、「製品1錠当たりの原価をきちんと計算して、事業性を担保しての投資や従業員の給料アップができているのか等の財務能力」が重要視されるというわけだ。
田村氏は、「近年は人件費、原材料費、電気代の全てが上がっていくので毎年産現場の財務面チェックを確認している」と話す。
強固な財務基盤構築でさらなる飛躍を
田村薬品工業の売上高は2019年を底に、2020年からは後発品不足の影響や先発医薬品の受託拡大戦略により右肩上がりの成長を遂げ、2025年(1月~12月)は初めての100億円突破を見込んでいる。
利益面は、2022年7月に本格稼働したグローバルGMP対応の紀ノ光台工場への先行投資(120億円)の償却負担に加え、コロナ禍による販売不振で苦戦が続いたが、紀ノ光台工場の稼働率アップも相まって2025年のV字回復にめどがついた段階である。
田村氏は、「足元の経営課題として第一は強固な財務基盤の回復がある」と明言した上で、「既存の得意先と新規の受託ニーズをうまく組み合わせながら、さらなる成長を遂げていきたい」と力強く宣言する。その実現には、紀ノ光台工場、本店工場、五條工場の3工場の特長を活かした戦略が不可欠だ。
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グローバルGMP対応の紀ノ光台工場は、現在、90人以上が従事しており、売上げ規模においても主力工場となっている。①クロスコンタミネーションリスクを排除した工場、②迅速稼働、効率的生産を追求した自動化ライン、③委託先のニーズに柔軟に対応、④人、環境に配慮した工場の4つのコンセプトを基に設計されているのが特徴で、医薬品製造のグローバルGMP対応に長けている日揮が設計・施工した。
①については、全ての製造室にヒト用、モノ用の前室を配置し、差圧管理により微粉末を封じ込めしている。中間品が収缶された容器をスタッカークレーンが前室に搬入し、空気輸送等の粉体輸送システムを使用して工程室内での飛沫飛散を最小限にしている。
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②では、製造実行システムMESを上位のシステムとし、スタッカークレーンによる自動搬送に加えて、製剤機器(打錠・コーティング・外観検査)とロボットアームによる自動ハンドリングをシステム連携させ、小型密閉容器を用いて自動で供給と回収を行うことにより無人化を実現している。
③では、今後の新たな案件に対応するための将来スペースをクリーン廊下で仕切ることにより稼働中の製造を停止することなく、新設備の導入ができる動線を確保している。田村氏は、「既設工場棟に加え打錠剤6億錠の受託が可能な工場建設用地も確保している」と語る。
紀ノ光台工場の初期実装化したエリアは高稼働率となっており、包装エリアについては2シフト制での生産も実施している。また、2025年4月には増築エリアでの新ラインの稼働も予定している。4階、5階の将来エリアの構想も準備を始めている。
本店工場は、ドリンクラインが2つあり液剤のライン工場として運営している。800ラインと200ラインのうち、800ラインは1分間に800本製造でき、業界ではかなり大きな設備だ。医療用医薬品の包装工程の受託もスタートしており、さらなる事業拡大を図る。
五條工場は、医療用医薬品とOTC医薬品の固型製剤のうち比較的小ロットの製品について国内外から受託製造している。紀ノ光台工場は大規模ロットの固型製剤品目を中心に製造しており、工場間の差別化を図っている。
3工場の相乗効果について田村氏は、「品質向上と標準化を図るために3工場統一の文書管理、発行管理および品質イベント管理システムを導入し、底上げを図っている」と強調する。
従業員に関しては、「工場を跨ぐジョブ・ローテーションを積極的に行い、様々な技術を習得することによる資質向上や顧客ニーズに合わせた柔軟な人員配置を図る」
紀ノ光台工場での先発品受託拡大や先発品のOD錠開発を踏まえた受託も推進
同社では、工場の要員、設備をベースとした生産品目構成の最適化に着手し、2027年末には売上高として本店工場40億円、五條工場30億円及び紀ノ光台工場40億円の計110億円の製造キャパシティ(錠数換算では約8000万錠のプラスα生産拡大)を目指している。
受託ビジネスは、「医療用医薬品を主軸に「一般用医薬品、医薬部外品」の受託にも取り組んでいる。現状、医療用医薬品は包装受託も含めて3工場で対応している。
増設した包装ラインの稼働を本年4月稼働に予定している紀ノ光台工場については、「グローバルGMPに対応した同工場の特徴を活かし、積極的な先発品の受注拡大を図っていく」
新規開発品では、先発品、後発品に取り組み、順次製品化に向けて対応中だ。OTC医薬品関連では、アルミパウチ包装設備を導入し、新たな包装仕様の自社製品開発も行い、受託展開を図っている。
健康食品や清涼飲水においては、機能性表示食品の開発や海外輸出も視野に入れて健康食品GMPを2024年に取得した。
田村氏は、「健康開発企業として医療用医薬品から健康食品まで幅広い分野で製品開発に取り組んで行きたい」と力説し、「今後は、当社の製剤技術を活かして、先発品のOD錠開発を踏まえた受託にも尽力したい」と話す。
最後に、「社員の家族から『働いていて良かったね』と言って貰える会社を目指したい」と述べ、「性別や年齢に関係なく能力とやる気さえあれば、当社のキャッチフレーズのようにいつまでも元気で仕事ができる職場環境を構築していく」考えを強調。
その上で、「薬を必要としている患者さんの手元にできるだけ早く、安心・安全に安定してお届けできるようチームワークで取り組んでいきたい」と抱負を述べた。