岐阜薬科大学薬理学研究室・岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科の檜井栄一教授らの研究グループは、京都薬品工業などとの共同研究により、軟骨無形成症(Achondroplasia)の新規治療薬候補としてCDK8阻害剤「KY-065」を見い出した。
檜井氏らは、独自に開発したKY-065を用いることで、軟骨無形成症の軟骨機能が回復し、長管骨が伸長することを確認した。
KY-065は、経口投与可能で、軟骨無形成症の患者(特に新生児・乳幼児)への負担を軽減できる。また、既存薬ボソリチドとは異なる作用点を持っており、KY-065とボソリチドとの併用により相加相乗効果が期待できる。
同研究成果は、こうした軟骨無形成症に対する新たな知見・解決法を提供するとともに、難治性骨系統疾患の予防・治療法の確立への貢献が期待される。
同研究成果は、国際学術誌『Biochimica et Biophysica Acta – Molecular Basis of Disease』に掲載された。
軟骨無形成症は、およそ2万人に1人の割合で発生するといわれている希少性かつ難治性の骨系統疾患である。FGFR3遺伝子の変異による軟骨細胞の機能異常により、手や足の短縮を伴う低身長や特徴的な顔立ちを呈する。
成人身長は125~130 cmであり、日常生活で多くの制約を受けるとともに、様々な合併症が出てくる。
研究グループは、CDK8が軟骨無形成症の病態進展に寄与することを発見し、CDK8が軟骨無形成症治療における有望な創薬ターゲットとなることを明らかにした。
軟骨無形成症の治療薬としては、ヒトC型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)類縁体のボソリチド(連日皮下投与)が承認されているが、新生児や乳幼児を中心とする患者への安全かつ負担の少ない治療法の確立は喫緊の課題である。
同剤とは異なる作用点をもち、新生児・乳幼児を中心とする患者への負担が少ない治療薬候補の探索とその実用化が待ち望まれている。
研究グループはこれまで、リン酸化酵素CDK8が、がん幹細胞(Oncogene 2021)や、間葉系幹細胞(Stem Cell Reports 2022)の機能に重要な役割を果たしていることを明らかにしてきた。
今回の研究、「軟骨無形成症の軟骨細胞の機能異常にCDK8が関与しているのか?」を検討するとともに、研究グループが独自に開発した経口投与可能なCDK8阻害剤KY-065を用いて、「CDK8の機能を抑えると、軟骨無形成症の病態が改善できるか」を検証したもの。
研究グループは、まず、軟骨無形成症モデルマウス由来の軟骨細胞(ACH軟骨細胞)を用いて、遺伝子およびタンパク質発現解析を行った。その結果、ACH軟骨細胞では、CDK8の発現が遺伝子およびタンパク質レベルで増加していることが判明し、軟骨無形成症の病態進展にCDK8が関与する可能性が示唆された。
そこで、「軟骨細胞のCDK8がどのように軟骨無形成症の病態進展に寄与するか」を明らかにするため細胞実験を行った。ACH軟骨細胞は、野生型マウス由来の軟骨細胞と比較して、軟骨細胞分化の指標であるアルシアンブルー染色およびアルカリホスファターゼ染色の染色性が低下する。
一方、ACH軟骨細胞にCDK8阻害剤KY-065を作用させると、両染色の染色性が著明に増強することが判明した(図1A-C)。
さらに、KY-065を添加したACH軟骨細胞では、STATのSer727のリン酸化が著しく抑制されることが確認された。STAT1のTyr701のリン酸化やErk1/2のリン酸化には著明な変化は認められなかった。
すなわちKY-065は、CDK8の働きを抑え、STAT1シグナル経路を部分的に遮断することで、軟骨細胞の機能を回復させていることが示唆された。
最後に、細胞実験で得られた結果が、動物実験でも再現できるかを検証した。軟骨無形成症モデルマウスは、著明な長管骨の短縮を示すが、同マウスにKY-065を投与すると、長管骨の伸長が確認できた。
さらに、その長管骨を詳細に解析したところ、成長板軟骨層の形態が回復し、肥大化軟骨細胞層の肥大化も観察された(図2)。
これらの成果より、CDK8阻害剤KY-065は、STATシグナルを減弱させ、軟骨無形成症の軟骨の機能異常を回復させ、長管骨を伸長させることが明らかになった。すなわち、軟骨細胞のCDK8は軟骨無形成症の治療標的であり、CDK8阻害剤が同疾患の治療薬候補となる可能性が示された(図3)。
CDK8阻害剤KY-065は経口投与可能であり、軟骨無形成症の患者(特に新生児・乳幼児)への負担を軽減できる。また、既存薬ボソリチドとは異なる作用点を持っており、KY-065とボソリチドとの併用により相加相乗効果が期待できる。
同研究は、CDK8阻害剤が軟骨無形成症に対する新規治療薬の候補となる可能性を示した世界初の報告となる。同研究成果は、軟骨無形成症に限らず、軟骨細胞の機能異常や恒常性維持の破綻によって引き起こされる難治性骨系統疾患(タナトフォリック骨異形成症など)に対する革新的治療法を提供し、アンメット・メディカル・ニーズの解消にも貢献することが期待される。