明治と京都女子大学 家政学部食物栄養学科栄養学第2研究室の松尾道憲教授らの研究グループは、ヒト由来マクロファージ様細胞を用いた研究により、カマンベールチーズに含まれる脂肪酸が細胞内コレステロールの排出を促進することを確認したと発表した。
その作用メカニズムは、カマンベールチーズに含まれる脂肪酸がコレステロール輸送体であるABCトランスポータータンパク質を活性化して、細胞中のコレステロールの排出を促進するというもの。同研究成果は、本年5月14日に第77回日本栄養・食糧学会大会で発表された。
カマンベールチーズをはじめとしたカビ熟成チーズは、熟成時にさまざまな代謝産物を作ることが知られている。明治は、その代謝産物に着目して、カビ熟成チーズ特有の健康機能の研究を推進しており、これまでに、カマンベールチーズの摂取により血中BDNF濃度(脳由来神経栄養因子)が上昇することを明らかにした。
また、チーズの摂取による健康機能は、他にも多数報告されており、その一つとして心血管疾患との関連性が知られている。そこで、明治はチーズの心血管疾患への作用メカニズムの解明に向けて、コレステロールの輸送に着目し研究を実施した。コレステロールは、胆汁酸合成の材料や細胞構成成分となる生体の重要な成分である一方で、マクロファージをはじめとする末梢細胞に過剰に蓄積されると、プラークの形成につながり、心筋梗塞や脳血管性認知症の原因となる動脈硬化が進行するリスクが高まる。
今回の研究では、コレステロール輸送に関わるABCトランスポーター(ATP-binding cassette transporters; ATP結合カセット輸送体)タンパク質に着目して、カマンベールチーズの含有成分のABCトランスポーター活性化によるコレステロール排出に関する効果を調べた。
その中で、カマンベールチーズの抽出物に含まれるパルミトレイン酸およびヒドロキシパルミチン酸がABCトランスポーターを介した細胞内コレステロールの排出を促進することが確認された。
実験では、まず、カマンベールチーズに含まれる脂肪酸をマクロファージ様細胞に加えた結果、ABCトランスポータータンパク質を活性化して、細胞中のコレステロールの排出を促進することを確認した(図1)。
続いて、関与成分の特定を進めた結果、パルミトレイン酸やカビによる代謝産物であるヒドロキシパルミチン酸に活性があることを確認した。ヒドロキシパルミチン酸を作用させた細胞ではABCトランスポーター量が有意に増加しており(図2)、各脂肪酸の作用はそれぞれ異なるメカニズムで生じている可能性があることが示唆された。
数値が高いほどコレステロール排出活性が上昇
さらに、カマンベールチーズに含まれる脂肪酸が、免疫機能の制御に重要なマクロファージ様細胞の炎症状態を改善することも確認した(図3)。この結果から、パルミトレイン酸やヒドロキシパルミチン酸によるコレステロール排出促進活性は、炎症状態を引き起こしているマクロファージにも作用していることも確認された。
これらの研究成果により、カマンベールチーズに含まれる脂肪酸が血管の健康に寄与する可能性が示唆された。