目標は2030年代に1000億円達成

JCRファーマは、治療法が確立していない希少疾病に用いる医薬品の研究開発を推進し、グローバル展開を目指している。研究開発から国内での生産、販売まで一貫した体制で高品質な医薬品を創出する「研究開発力」と「モノづくり力」を強みとしており、独自の血液脳関門通過技術「J-Brain Cargo」の様々な疾患への応用が期待される。
本年4月1日付けで同社代表取締役社長に就任した薗田啓之氏は、「希少疾病にターゲットを絞って、我々が最も得意とするバイオ技術に磨きを掛け、グローバルで存在感のある研究・開発型企業として勝負していきたい」と抱負を述べる。さらに、「2030年代に売上高1000億円達成を達成する」と力強く宣言し、新社長としての使命や経営方針を熱く語った。
JCRファーマの開発パイプラインのメインターゲットであるライソゾーム病は、細胞一つ一つの中にあるライソゾーム内で機能する酵素の働きがなかったり、弱くなったりして分解されるべきものが細胞に溜まる疾患だ。
ライソゾームは、特定の酵素が生まれつき欠損、または働きが低下していると、老廃物が体内に蓄積してしまう。老廃物が溜まる部分によって、内臓障害、骨や筋肉の異常、知能障害など様々な症状を引き起こす。
ライソゾーム病の治療は、体外で作った酵素を体内に入れる薬物治療が行われる。だが、肝臓、肺、腎臓には薬物が届くものの、脳は血液脳関門が薬物をブロックするため治療における大きな障壁となっていた。この課題を解決したのがJCRファーマが独自開発した血液脳関門通過技術のJ-Brain Cargoだ。
同社では、海外市場を見据えたJ-Brain Cargo技術を適用したライソゾーム病治療薬を開発しており、JR-141(ムコ多糖症Ⅱ型(ハンター症候群)、Ph3)、JR-171(ムコ多糖症Ⅰ型(ハーラー症候群等)、Ph1/2)、JR-441(ムコ多糖症ⅢA型(サンフィリッポ症候群A型)、Ph1/2)、JR-446(ムコ多糖症ⅢB(サンフィリッポ症候群B型)、Ph1/2)など、17品目のパイプラインを擁する。
JR-141の成功で得た収益をまた次の新しい研究投資に
その内、JR-141は、自社単独でグローバル開発している。薗田氏は、「我々は、自分達で新しい技術を作って創薬し、提携を含めグローバルに展開していく会社を目指している」と明言。
その上で、「通常、製薬企業の研究開発費の対売上高比率は20%台であるが、当社はかなり高い(2025年3月期予想で40%弱、研究開発費は150億円)」と説明する。
JR-141のグローバル試験の費用が大きく、現在の収益構造になっている。「これ程大きな投資は会社始まって以来だ。研究開発費が多過ぎるとの指摘もある」と明かす薗田氏。国内の厳しい環境下で得た資金を海外の開発で先行投資する手法は確かに過酷だ。
とはいえ、「グローバルで承認を取得するにはこの程度の投資は不可欠である」と言い切る。さらに、「ここは乗り切るしかない」と力を込め、「JR-141の成功で得た収益をまた次の新しい研究に投資するというサイクルを構築することが私の使命と考えている」と訴えかける。
JR-141の開発状況をみて新たな中計作成も
JCRファーマでは、「新薬開発」、「技術導出」に加えて、再生医薬品の開発・製造受託(CDMO)を事業ポートフォリオの重点領域としてさらなる飛躍を目指している。薗田氏は、2023年5月に公表した「2023-27年度中期経営計画」に言及し、「現時点では見直しはない。JR-141の開発状況をみて、新たに中計を作成する可能性もある」と話す。
JR-141以外の他のライソゾーム病治療薬のパイプラインについても「本来は、自社でグローバル開発するのが理想だが、我々の売上高・利益水準では厳しいので他社との提携も必要だ」との考えを示す。
実際、JR-446はメディパルホールディングス社と提携して臨床試験入りしている。JR-441も今後、グローバル開発のためのパートナーを探す予定だ。
2023-27年度中期経営計画では具体的な売上目標は示されていないが、「2030年代には売上高1000億円を達成する」目標を掲げる。
2030年1000億円を達成するための具体的な成長ドライバーでは、①JR-141のグローバル試験が成功して売上に寄与、②国内販売するイタルファルマコからの導入品「ジビノスタット」(デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬)の売上伸長、③J-Brain CargoやJUST-AAV技術の積極的なライセンス展開を指摘する。
③については、「2025年度もかなり様々な提携を実現している。10年来の研究がここで花開いた。来年度、再来年度もいくつか決まっていくだろう」と予測する。これまで、アレクシオン社、アンジェリーニ社と「J-Brain Cargo」に関する提携を締結している。
一方、デナリ・セラピューティクス社など、他社の血液脳関門通過技術開発への対策にも余念が無い。「2016年~21年はトップランナーで、臨床応用ではかなり先を走っていた」と振り返り、「現在は、他社も同じ技術コンセプトで様々な医薬品を開発している。客観的に見て当社が飛び抜けている状況ではない」と分析する。
こうした中、「J-Brain Cargo技術により磨きを掛けていくか、一つ抜けた状態に持って行くかが勝負になる」と明言し、具体策として、①より多くの輸送物を脳に届ける、②J-Brain Cargo技術を脳以外にも広げていく、③同技術に用いることのできるモダリティを増やしていくーを挙げる。
②では、J-Brain Cargo技術の応用による、脳(アルツハイマー)、眼(神経変性疾患)、骨格筋(眼疾患)、軟骨(骨系統疾患)、筋疾患などの治療薬開発が注目される。これらは、「JCRファーマは希少疾病、希少疾病以外のコモンディシーズは他社とパートナーシップを組んで治療薬開発を進めていく」
また、③の他のモダリティの一つにJ-Brain Cargo技術を組み合わせたJUST-AAVプラットフォームを活用する遺伝子治療がある。
JUST-AAVは、肝臓への集積を抑制して安全性プロファイルを改善し、より高用量のベクター投与や治療域の拡大を可能にする技術として期待されている。
J-Brain Cargo技術による血液脳関門通過効率の向上と、JUST-AAVによる肝毒性リスクの低減という二つの重要課題を解決するJ-Brain Cargo/JUST-AAVは、CNS疾患に対するアデノ随伴ウイルス(AAV)遺伝子治療の実現性を高める手法として注目を集めている。
現在、同社では、CNS疾患以外にも筋疾患をターゲットにしたJUST-AAVを適用した希少疾病領域での遺伝子治療開発を推進している。また、JUST-AAVに関してはアレクシオン社やモダリス社と契約を締結している。
先進バイオ医薬研究所の新しい発想へのチャレンジに期待
神戸医療産業都市のクリエイティブラボ神戸(CLIK)内に新設された「先進バイオ医薬研究所」も見逃せない。本年4月1日より稼働した同研究所は、「新たなバイオ医薬品の研究開発および基盤技術の創出の促進」を目的としたもので、薗田社長直轄の組織である。
「次の10年、20年を見据えて、現在の原資を新しい技術に投資して、そこから新しい価値を見い出してまた投資するサイクルを回すには、先手を打って新しい研究に挑戦して行かねばない」と強調する薗田氏。
その牽引役となるのが同研究所で、「全く新しいコンセプトで技術開発をやっていく」ために神戸市西神地区にある既存の研究所と切り離して、ポートアイランドのバイオ企業集積地に新設された。薗田氏は、先進バイオ医薬研究所の研究員が有する「J-Brain Cargoとは全く異なる新しい発想へのチャレンジ」に大きな期待を寄せている。
