体温で自動的に展開する血管ステント開発 低侵襲で安全性の高い新血管治療への応用に期待 早稲田大学理工学術院

 早稲田大学理工学術院の梅津信二郎教授らの研究グループは22日、体温と同じ37℃で自動的に広がる血管ステントを新たに開発したと発表した。
 新ステントは、4Dプリント技術により体内に入ると自然に元の形に戻り、外部から加熱する装置を必要としない。血管の形に合わせた設計も可能で、低侵襲で安全性の高い治療につなる。動物実験でも体内での機能と安全性を確認しており、次世代の個別化医療への応用が期待される。研究成果は、15日に「Advanced Functional Materials」に掲載された。
 将来的には、同研究で確立した体温作動型の設計思想と4Dプリント技術が、血管ステントに限らず、他の医療用デバイスにも応用されることが期待される。体内環境を活用して機能する医療機器の開発が進むことで、患者により優しい治療の選択肢拡大が期待される。
 血管が狭くなる疾患の治療では、世界中で血管ステントが広く使われてきた。金属製や高分子製のステントは、血管を内側から広げ、血流を回復させる役割を果たす。従来のステントは、バルーンで広げたり、高温で形を戻したりする必要があり、患者への負担が課題であった。また、高温を使う方法では、周囲の組織を傷つけるおそれがあり、医師の操作も複雑になる。
 近年、形を記憶する材料や3D・4Dプリント技術が登場し、体内で形が変わる医療機器の研究が進んできた。だが、体温と同じ温度で安全に作動し、実際に体内で使えることを示した例は限られていた。
そこで、梅津氏らは、体温と同じ37℃で自動的に広がる血管ステントの実現を目指した。研究グループは、体内環境そのものを利用して作動する仕組みに着目し、4Dプリント技術を用いて、時間とともに形が変化する血管ステントを開発した。


図1:血管ステントの作動イメージの概要図

 図1(e)に、同研究で開発した血管ステントの作動イメージを示す。カテーテル内では細く折りたたまれた状態で血管内に挿入され、体内に到達すると、体温(37℃)によって自然に元の形に戻り、血管を内側から支える。この仕組みにより、外部から加熱する装置を用いる必要がなくなる。
 同研究の重要な点は、作動温度が体温付近になるよう精密に調整した材料設計である。材料の組成を工夫することで、高温を使わず、安全な温度条件下で確実に形が回復することを可能にした。図1(f)は、37℃の環境下で、時間の経過とともにステントが元の形に戻っていく様子を示したもので、短時間での確実な展開が確認できる。
 さらに、4Dプリント技術を用いることで、血管の太さや形状に応じた設計が可能となった。複雑な血管にもなじみやすく、過度な圧迫や位置ずれの抑制が期待される。実験では、体温条件下での確実な自動展開を確認した。また、動物を用いた試験においても、体内で安定して機能し、安全性に問題がないことを示した。
 これらの結果から、同研究で開発した血管ステントは、低侵襲で安全性の高い新しい血管治療につながる可能性を示している。
 同研究で開発した体温作動型の血管ステントは、治療手技の簡略化につながる可能性がある。外部から加熱する装置を必要としないため、医師の操作負担を軽減し、治療時間の短縮や医療現場の安全性向上に寄与すると考えられる。
 患者にとっては、低侵襲医療の考え方に沿った治療が期待される。過度な拡張操作の回避により、術後の痛みや合併症のリスクの抑制につながる可能性がある。
 また、4Dプリント技術を用いることで、血管の太さや形状に合わせた設計が可能となり、個別化医療の実現に向けた基盤技術となりる。これは、高齢化が進む社会において、多様な患者に対応できる医療技術として重要な意味を持つ。
 学術的には、体温という穏やかな条件で作動する材料設計と4Dプリント技術の組み合わせは、血管ステントにとどまらず、他の医療用デバイスへの応用も期待される。体内環境を利用して機能する医療機器の研究を進めるうえで、新たな方向性を示す成果といえる。
 同研究では、体温で自動的に広がる血管ステントの基盤技術を示したが、臨床応用に向けてはさらなる検討が必要である。現段階では、動物を用いた試験による安全性評価にとどまっており、長期間体内に留置した場合の挙動や、実際の血管環境における影響については、今後詳細な検証が求められる。
 また、血管の部位や病状によって求められるステントの特性は異なるため、さまざまな条件に対応できる設計の最適化が課題となる。耐久性や分解の進み方などについても、用途に応じた調整が必要である。
 今後、より実際の治療環境に近い条件での評価を進めるとともに、医療現場のニーズを取り入れた改良を重ねていく。これにより、安全性と有効性の両立を目指す。

◆研究者のコメント
 血管治療を、より安全で患者さんに優しいものにしたいという思いから研究を進めてきた。体温だけで自然に広がるステントは、治療の負担を減らし、医療現場の選択肢を広げる可能性がある。今後も実用化を見据え、現場に役立つ医療技術の開発を進めていきたい。

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