選択的DPP-4阻害剤/SGLT2阻害剤配合剤「カナリア配合OD錠」への期待 門林宗男 (前兵庫医療大学薬学部教授・元兵庫医科大学病院薬剤部長)

 選択的DPP-4阻害剤/SGLT2阻害剤配合剤「カナリア配合錠」は、わが国で初めてDPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬の2成分を含有する配合錠として承認され、2017年9月、2型糖尿病治療薬として上市された。
 カナリア配合錠に含有されている選択的DPP-4阻害剤「テネリア錠」とSGLT2阻害剤「カナグル錠」は、いずれも田辺三菱製薬が創製した日本オリジンの2型糖尿病治療薬だ。この2成分を配合したカナリア配合錠は、DPP-4阻害薬による血糖値に応じたインスリン分泌促進作用と、SGLT2阻害薬による尿糖排泄促進作用の2つの異なる作用機序により、1日1回、1錠で良好な血糖管理が期待できる。
 カナリア配合錠は発売開始以降、テネリア錠とカナグル錠の併用治療を受けている患者の利便性向上や、テネリア錠またはカナグル錠での単剤治療を受けているにもかかわらず、効果が不十分な患者への血糖管理に広く使用されてきた。その後も同社は、患者のさらなる利便性や服薬アドヒアランスの向上を目的に、口腔内崩壊錠(OD錠)の開発を推進し、テネリア錠は2021年6月18日より、カナグル錠は2024年5月22日よりOD錠を発売。カナリア配合錠についても、昨年2月20日、厚労省にOD錠の剤形追加申請を行い、本年2月17日に承認を取得し、9月2日に「カナリア配合OD錠」が新発売された。
 そこで、カナリア配合OD錠への期待や、これら3剤のOD錠が登場した意義を、カナリア配合錠発売後の有用性と安全性に関するエビデンス(CANALIAsurveillance)とともに検証したい。

配合剤かつOD錠の「カナリア配合OD錠」登場意義は大きい

 田辺三菱製薬は、「病と向き合うすべての人に、希望ある選択肢を。」のMISSIONの下、画期的な新薬開発に加えて、錠剤への製品名印字やOD錠の開発など同社の高い製剤技術を駆使した製品を市場に提供している。今回のカナリア配合OD錠も、選択的DPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬の2成分を含有する配合剤のOD錠として日本で初めて発売された。
 「少量の水で容易に崩壊する」、「口腔内の唾液によって速やかに溶ける」をコンセプトに開発された同剤は、水無しでも、水ありでも服用できて、これまで以上に継続的な治療が必要な2型糖尿病患者の利便性向上と服薬継続が期待できる。
 糖尿病患者は、高齢化やポリファーマシー、嚥下機能低下により、服薬アドヒアランスが低下傾向にあり、OD錠に期待するところが大きい。多忙で飲み忘れの多い患者や、旅先など飲用水が直ちに入手できない状況等での服薬にもOD錠はアドヒアランスの向上に寄与している。
 加えて、従来の配合剤に関する報告をみると、「一つの薬剤を服用して2剤に増やすパターンと、1錠から配合剤の1錠にするパターンの服薬アドヒアランスを比べると、後者の方が高い」というデータがある。他方、OD錠と錠剤の比較では、「OD錠の方が飲み易く、アドヒアランスが高い」
 そのため、配合剤かつOD錠には、より高い服薬アドヒアランスが期待され、患者に優しい剤型となるので、カナリア配合OD錠の登場意義は大きい。
 カナリアの添付文書には、「テネリアもしくはカナグルが服用されていなければ、カナリア配合錠は服用できない」と記載されている。 従って、「テネリアまたはカナグル」、「テネリアとカナグル」「他のDPP-4阻害薬とカナグル」、「他のSGLT2阻害薬とテネリア」からの切り替えでカナリアが処方できる。他のDPP-4阻害薬からカナリア、他のSGLT2阻害薬からカナリアへの切り替えは出来ない。このように、テネリアかカナグルのどちらかを服用していれば、カナリアへの切り替えが可能となる。
 これまで、テネリア、カナグルのOD錠を服用している患者がカナリア配合錠に切り替えた場合、カナリアにはOD錠が無く躊躇するケースもあった。テネリア、カナグルからカナリア配合錠への処方を検討する場合、カナリア配合OD錠の発売により、「OD錠からOD錠への切り替えが可能になった」と患者に紹介することで、テネリアOD錠、カナグルOD錠のメリットをそのままカナリア配合OD錠で継続できるようになった。現在、SGLT-2阻害剤/DPP4-阻害剤配合剤は、カナリア配合錠を加えて3剤上市されているが、OD錠の処方を望む患者にとっては、カナリア配合OD錠はより適した剤型と言えるだろう。

テネリア、カナグル、カナリアでは各課題をクリアしてOD錠化

 OD錠の製剤化においては、主成分であるテネリグリプチンおよびカナグリフロジンにそれぞれ特有の課題があった。テネリグリプチンのOD錠化においては、OD錠は口腔内で溶けるため、味が直接感じられることが課題となった。この問題を解決するために、味をマスキングする製剤技術を採用した。
 一方、カナグリフロジンのOD錠化においては、長時間の光曝露により変色してしまうという課題があった。この問題を解決するために、変色防止技術を用い、カナリアOD錠の製剤化が達成された。テネリグリプチンの味をマスキングする技術と、カナグリフロジンの変色を防ぐ技術を組み合わせることで、患者が安心して服用できるOD錠が実現した。
 カナリアは、二つの技術開発によりこれらの問題は解決できたものの、1錠当たりのテネリグリプチンとカナグリフロジンの有効成分含有量を正確に保つことが新たな課題となった。そこで、1錠あたりの含量が正確に保たれるように、混合条件の設定や錠剤成型時に有効成分が偏析しないよう工夫されている。
 加えて、カナグルOD錠と同じく変色防止のためにUVカットのPTP包装が採用された。このPTP包装には、地球温暖化防止に貢献するために植物などの再生可能資源を原料としたバイオマスプラスチックが使用されており、田辺三菱製薬の環境保全に取り組む企業姿勢を反映している。
 テネリア、カナグル、カナリア3剤のOD錠の味を、“ゆず味”に統一していることも見逃せない。当初よりテネリアOD錠またはカナグルOD錠からの切り替えが多くなると想定して、カナリア配合OD錠の味も変わらないように配慮している。
 また、3剤のOD錠は、ともに約30秒程度で口腔内で溶けて服薬できる設計になっている。OD錠の錠剤硬度は、保険薬局等で一包化に用いられる自動分包機にも対応できるように設定されている。こうした工夫がなされたカナリア配合OD錠は、テネリア、カナグルOD錠化による製剤技術の蓄積により、企画からわずか3年で上市された。
 田辺三菱製薬ではこれまで、新薬創製に加えて上市後もOD錠の開発や錠剤への製品名印字など、患者や医療従事者の利便性を向上する工夫を企業理念のもと行ってきた。

 テネリア、カナグル、カナリアの2型糖尿病治療薬への製品名印字は、識別性が高まることで、シックデイ時などで休薬しなければいけない際の取り間違え防止に寄与している。
 加えて、カナグルとカナリアは同時に処方されないものの、大きさが殆ど同じで名前も似ているため、患者が誤って服用するなどの取り違えがないように、カナリアの“リ”の文字を大きくして、カナグルと見分けが付きやすい印字になっている。
 カナリアの印字工夫の基礎には、田辺三菱製薬と山陽小野田市立山口東京理科大学が共同で、山口県薬剤師会に登録している保険薬局勤務薬剤師を対象に実施した「類似した薬剤を見分けやすい印字方法」についてのアンケート調査結果がある。同アンケート調査において「異なる文字が大きいほど識別しやすい」という回答が多く得られ、一文字を大きく強調したデザインが、識別性、視認性を高めることが判った。

CANALIA surveillance
DPP-4阻害剤/SGLT2阻害剤配合剤の有用性と安全性証明

 カナリア発売後の有用性と安全性に関するエビデンスとしてはCANALIAsurveillanceがある。同試験は、カナリア配合錠の使用実態下における長期使用例での安全性および有効性について検討したものだ。
 カナリア発売直後の2017年12月~2018年6月の期間に、同剤を初めて処方された日本人2型糖尿病患者821例を対象に、カナリア配合錠を電子添文情報に従って1日1回経口投与し、登録患者を最長12ヵ月間にわたり追跡した。
 評価項目は、調査期間を通して報告された副作用および投与開始時、開始1ヵ月後、3ヵ月後、6ヵ月後、12ヵ月後および中止時のHbA1c値、体重、血圧、臨床検査値、eGFRなど。
 安全性解析対象症例数821例、有効性解析対象症例数:808例で、安全性解析対象症例から、有効性アウトカムの評価が実施されなかった症例および2型糖尿病治療以外の目的で投与が実施された症例は除外している。
 その結果、テネリアからカナリア配合錠への切り替えによって、HbA1c値は開始12ヵ月後にベースラインから0.74%低下した。
 カナグルからカナリア配合錠への切り替えによって、HbA1c値は開始12ヵ月後にベースラインから0.52%低下した。
 テネリアおよびカナグル併用からカナリア配合錠への切り替えによって、HbA1c値は開始12ヵ月後にベースラインから0.50%低下した。カナグルおよびテネリアからカナリアへの切り替えにおいて有用性が確認された。
 一方、安全性については、65歳未満および高齢者(65~75歳未満、75歳以上)では、副作用発現例数は65歳未満では19例(4.19%)、65~75歳未満では9例(3.61%)、75歳以上では8例(6.72%)であった。
 腎疾患有無別では、合併症・腎疾患の無い人では副作用発現割合は2.97%、合併症・腎疾患の有る人では9.60%、不明の人では2.63%であった。
 肝機能障害有無別では、合併症・肝機能障害の無い人では副作用発現割合は4.67%、合併症・肝機能障害の有る人では4.15%、不明の人は0.00%であった。

服薬指導はカナグルと同じ留意点 適度な水分補給が重要

 カナリア配合OD錠の服薬指導では、カナグルと同様の副作用が留意点となる。SGLT2の作用メカニズムから尿量や排尿回数が増えるケースがあるため、「脱水に注意し、適度な水分を補給」を促す必要がある。
 「OD錠なので水無しで飲むけど大丈夫か」という患者さんの声も聞く。この場合、「仮に服用時に水無しで飲んでも、1日の中で必要な水分をこまめに摂取してください」と説明するのが好ましい。
 また、過剰な糖が尿と一緒に排出されるため、尿路の感染症や性器感染症に留意しなければならない。治療中に発熱、下痢、嘔吐、食欲不振のため食事が取れなくなるシックデイにも注意を要する。

タイトルとURLをコピーしました