「子どもを育てるインフラに」#8000の知られざる可能性と健康医療相談のこれから 健康医療相談品質向上協会第1回意見交換会開催

 健康医療相談品質向上協会(AHMC)はこの程、ティーペック本社で「第1回意見交換会」を開催した。#8000事業を担う小児救急医療サポートネットワークの福井聖子氏をはじめ、協会代表理事でありティーペック代表取締役社長の鼠家和彦氏を含む理事3名が出席。健康医療相談の価値と役割、そして業界の課題についての活発な議論を展開した。
 意見交換会の冒頭では、遠隔健康医療相談の普及、品質向上、さらには健全な発展を目指し、昨年3月に設立された一般社団法人健康医療相談品質向上協会の3名の理事が、協会の設立経緯とこれまでの1年間を振り返った。討論内容レポートは次の通り。

左より協会代表理事 鼠家 和彦氏(ティーペック株式会社 代表取締役社長)、
特定非営利活動法人「小児救急医療サポートネットワーク」理事長 福井聖子氏
、協会副代表理事 今野 由梨氏(ダイヤル・サービス株式会社 代表取締役社長)、協会副代表理事 東島俊一氏

鼠家代表理事
 私がヘルスケア業界に入ったのは、健康医療相談の品質管理の責任者という形であった。当社のメディカルコンタクトセンター内でスタッフが相談対応をしているのを目にする中、健康医療相談が社会的に重要な役割を果たしていると強く感じていた。
 だが、「#8000」などの公的なサービスの一般入札で価格競争が生じる現状に「世の中に正しくその必要性や価値が評価されていないのではないか」と課題意識を抱いていた。
 業界が大きくなる一方で、健康相談の品質に対するレピュテーションリスクも懸念されるため、業界で品質に関するガイドラインの作成が非常に重要と考え、ダイヤル・サービス今野社長と 法研東島社長に「協会を設立」を提案した。
 設立して約1年が経ち、現在では会員が5社となった。「#8000」の民間委託分の約7割が当協会で占めていると考えているので、業界の品質向上を語ることができる段階になったかと思う。

今野副代表理事
 私がダイヤル・サービスという会社を作って、赤ちゃん、子ども、お母さんの命に寄り添う仕事を始めて55年になる。長い間、健康医療相談に関わってきて、時代が変わって国は豊かになったけれど、どこか子育て世代は疲れきっているように感じている。これからの子ども達のためになる仕組みづくりに力を尽くしたいと思い、この協会に参加した。
 今日は「もう1年経ったのか」という気持ちである。志を同じくするお二人とこれからも共に歩んでいけることを嬉しく思う。

東島副代表理事
 当社も電話相談サービスを提供する中で、双方向の対話が持つ力を日々実感している。また「#8000」では、トリアージによる医療資源の有効活用、公的医療保険の負担軽減につながる適正受診への橋渡しなど、本当に社会的な使命が大きいと考えている。
 だが、業界全体を見渡すと、相談品質のばらつきが見られて、鼠家代表理事がおっしゃる課題を感じていた。こうして協会の立ち上げに携わり、健康医療相談の品質向上と業界発展に取り組むことができるのは非常に意味があることだと思っている。

ー福井先生が日頃感じている、小児医療の課題についてお聞かせください。

福井
 健康医療相談を通して感じる一番の課題は、0歳児の母親への支援が非常に手薄であることだ。今の若い世代は核家族で育ち、赤ちゃんのお世話や看病の経験がない方がほとんどである。そのため、赤ちゃんや子どもの体調不良に直面した際にどうしていいか分からなくなる状況に陥る。
 一方、小児医療の現場では、予防接種や治療の進歩により子どもの入院患者が減少しているのは良いことだが、働き方改革や経営面の理由から小児病棟のベッド数が減少している。だが、一次救急、二次救急の場は確保しなければならないため、医師の数が少ない地域ではすでに小児医療の需給バランスに問題が生じている。
 厚生労働省が軽症患者の受診抑制を目的としていた「#8000」も、小児医療の現状や少子化による親への支援状況を考えると、将来的には「子どもをきちんと育てるための制度・インフラ」として整備していく必要があると考えている。

ー#8000のような電話相談は受診の適正化や不安の解消に役割を果たしていると思われるが、福井先生はこうした電話相談の「現場支援」の意義や影響をどう捉えているか?

福井
 「#8000」は各都道府県で事情が異なるため、その役割に懐疑的な意見もある。だが、大阪府の「#8000」では、トリアージよりも、保護者の話をじっくり聞き、子どもをきちんと観察してもらうことで、適切な受診に繋がるという考えに基づき相談を受けている。現場の先生方、特に小児救急の先生方からは「#8000があって本当に助かっている」という声をいただいている。
 入院するような子どもが大幅に減っている今、子どもたちのウェルビーイングを目指し、保護者をサポートする意義が大きくなっていると感じている。

ー医療職が相談に関わるとき、福井先生が重視しているスキルや姿勢があれば教えて頂きたい。

福井
 やはり「聴く姿勢」ですね。「#8000」は相談技術と判定基準の2つが柱であるが、救急の先生方は判定基準やトリアージにばかり意識が向き、相談技術にはあまり目を向けない傾向がある。医師よりも看護師の方が、相談技術や傾聴への意識は高いが、救急の看護師は電話相談が苦手な人もいる。相談技術については言語化して伝えることで、考え方の転換を促すことができると考えている。

 福井氏からの意見を受け、次の3つのテーマで意見交換が行われた。意見交換テーマ内容の一部を紹介する。

◆意見交換テーマ1:相談品質の向上を目指して、現在協会で取り組んでいる「各社で実施する初期研修プログラム」とそこから発展した「認定資格制度」の構築について

◆意見交換テーマ2:業界の課題が山積する中、協会としてどのような活動を進めていくのか

◆意見交換テーマ3:医療者目線からみた民間主導の協会に対する期待について

ー「健康医療相談の品質向上」という目的を掲げ、協会が立ち上がり、このように多くの企業が集まっておりますが、医療者の立場からこのような民間主導の取り組みに対して福井先生はどのような期待を持っているか?

福井
 医療現場は縦割りで、同じ小児科の中でも予防接種担当の先生と救急の先生とのコミュニケーションが不足していると感じることがある。縦割りとは関係なく、幅広い相談を受けている「#8000」であれば、今の医療体制に欠けている部分や問題点に気づける可能性があると感じている。そうした問題提起は、協会に期待するところである。

鼠家
 協会として、監督官庁などに対して提言できる立場にある。業界を代表して発信できることも、協会設立の大きな意義だと考えている。

今野
 私も、これまで先生方からご相談を受けたこともあるが、民間だからこそ役に立てることもあると思う。

東島
 官庁だけでなく、協会として医師団体等とも良好な関係を築き、健康医療相談業界の認知度を高め、連携していくことも目指したいと思っている。

福井
 何かしら壁があるかもしれないが、うまく協会とタイアップや役割分担をしていきたいと感じた。それから、協会の「初期研修プログラム」と「認定資格制度」は、研修が仕事に直結するという点で素晴らしいと思う。小児看護に携わる看護師が減ってきているので、別の形で学びの場を作っていく必要がある。

鼠家
 看護師や医療者の方々に、「健康医療相談」という働き方があることを、まだまだ知ってもらえていない。ライフイベントに左右されることなく働ける仕事として、上手に活用してもらえたらと考えている。

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