MSDは24日、経口低酸素誘導因子2アルファ(HIF-2α)阻害剤「ウェリレグ」について、国内製造販売承認を取得したと発表した。適応症は、フォン・ヒッペル・リンドウ病(VHL)関連腫瘍および、がん化学療法後に増悪した根治切除不能又は転移性の腎細胞がん(RCC)。
ウェリレグは、経口投与可能な新しい作用機序の低分子HIF-2α阻害剤である。がん細胞においてVHL蛋白質の機能が喪失している状態において、ベルズチファンは、HIF-2αとHIF-1βのヘテロ二量体形成を選択的に阻害する。
その結果、血管新生・増殖および腫瘍代謝に関連する低酸素下で誘導される遺伝子の転写を阻害して抗腫瘍効果を示す。
ウェリレグのVHL病関連腫瘍に対する効能・効果は、主に、即時手術を必要としないVHL病関連腎細胞がん患者を対象とした海外P2試験(LITESPARK-004)および前治療歴を有する進行RCC患者を対象とした国際共同P3試験(LITESPARK-005)のデータに基づくもの。
VHL病は、VHL遺伝子の変異によってHIF-2αが過剰発現し、腫瘍が発生する難治性の希少疾患で、日本の推定患者数は600~1000人に上る。発生する主な腫瘍は、中枢神経系(小脳、延髄、脊髄)血管芽腫、網膜血管腫、RCC、腎嚢胞、褐色細胞腫・パラガングリオーマ(PPGL)、膵神経内分泌腫瘍、膵嚢胞、精巣上体嚢胞腺腫、子宮広間膜嚢胞腺腫、内リンパ嚢腫瘍で、いずれも若年で発症し、複数の部位に同時に発生する(多発性)、生涯にわたって発症を繰り返す(再発性)という特徴がある。腫瘍の発生部位によって、多血症、高血圧、視力障害、運動障害、膀胱直腸障害、腎不全、不妊症などの合併症が現れる場合がある。
治療方法には腫瘍の摘出手術や放射線治療などがあるが、手術の侵襲に伴う障害が発生する場合や頻回の手術が必要になる症例があり、患者のQOLへの影響は大きく、新たな治療法が望まれていた。
ウェリレグは、VHL病に対する全身療法として初めての薬剤であり、2024年2月にVHL病関連腫瘍について厚労省より開発中に希少疾病用医薬品の指定を受けて優先審査の対象とされ、このたびの承認に至った。
一方、RCCは、腎臓がんのうち最も多くみられる種類のがんで、腎臓がんの約9割を占めている。2019年には約2万1000人が新たに腎臓がん(腎盂がん除く)と診断され、男性は女性の約2倍の頻度で発症する。
RCCは、初期では自覚症状がほとんどないため、小さいうちに発見できるのは健康診断や他の病気が疑われたために行う検査などで偶然発見されるものが殆どだ。がんが進行した場合、血尿や背中の痛み、腹部のしこりなどの症状が現れる。
手術でがんを切除することが難しい場合は、薬物療法を行うこともあり、淡明細胞型のRCCでは主に免疫チェックポイント阻害剤(PD-1またはPD-L1阻害剤、CTLA-4阻害剤)や分子標的薬(VEGFR-TKI)を用いる。
だが、それらによる治療後に進行した患者に対し、臨床試験で有効性、安全性が検証された治療方法が無かったため、新たな治療選択肢が求められていた。
ウェリレグは、HIF-2αを阻害することによって、PD-1またはPD-L1阻害剤とVEGFR-TKIによる治療後に進行したRCCにおいても抗腫瘍効果を示す初めての薬剤となる。