夏風邪と冬風邪の違いと夏風邪対策のポイント 久住英二氏(立川パークスクリニック)に聞く

 夏日も観測され、そろそろエアコンを頻繁に稼働させる暑い季節がやってくる。気温の高い夏季は、熱中症や夏バテなど様々な健康リスクに気を配る必要があるが、冷房による過度な冷やしすぎや、暑さゆえにふとんを掛けずに眠ってしまうなど、油断してしまってひきがちな夏風邪にも気を付けたいものだ。そこで、久住英二氏(立川パークスクリニック)に、夏風邪と冬風邪の違いと夏風邪対策のポイントを聞いた。

 大正製薬社は本年5月に全国の20代以上の男女1000人を対象に、「夏風邪の予防で意識していること」を調査した。その結果、回答の多い順に、「睡眠を十分にとる」(421人)、「水分摂取を怠らない」(348人)、「冷房を効きすぎないようにする」(333人)、「食事を抜かない」(276人)、「かけ布団をきちんと掛ける、寒くないものにする」(241人)がトップ5であった。その他の回答として、「鼻うがいをする」、「ストッキングを穿く」、「乳酸菌飲料を飲む」などがあった。

 また、「夏風邪予防でとるようにしている食品や栄養はありますか?」という設問に、「ある」と回答したのは1000人中73人(7.3%)。具体的には、「野菜を食べる」(20人)、に次いで「果物を食べる」(11人)、「ビタミンを摂る」(10人)、「たんぱく質を摂る」(7人)が目立った回答であった。
 具体的な食品名としては「しょうが」(10人)、「にんにく」(4名)、「レモン(レモン水含む)」(3名)、「すいか」(2名)、「トマト」(2名)などが挙がった。
 夏の風邪は、冬の風邪に比べて腹痛や下痢といった症状も起こしやすく、また、蒸し暑いけれども寒気がするなどの症状も出ることがある。

夏風邪と冬風邪―同じ“風邪”でもまったく違う

 「風邪をひいた」とひとことで言っても、その症状や原因ウイルス、感染経路は季節によって大きく異なりる。夏風邪と冬風邪では、体の反応や対処の仕方がまったく違うため、同じように扱ってはいけない。
 冬風邪は主に、インフルエンザウイルスやライノウイルスなどが原因で、咳、喉の痛み、鼻水、発熱といった典型的な呼吸器症状が多く見られる。空気が乾燥する冬場には、咳やくしゃみに伴う飛沫感染が主で、飛沫で汚染された部位を触ることでの接触感染も介して、これらのウイルスが拡がりやすくなる。
 一方で夏風邪は、アデノウイルスやエンテロウイルス、コクサッキーウイルスなど、高温多湿の環境でも生存できる種類のウイルスが中心となり、喉の痛みに加え、腹痛や下痢、発熱なども見られるのが特徴である。これらのウイルスは糞便や唾液に排泄され、ドアノブやつり革など、人が触るところに付着している。汚染された手指を介してウイルスを食べ物と一緒に体内に取り込む経口感染が主な感染経路である。飲食前に石けんで手洗いする習慣が重要になる。

夏風邪が「だるい」と感じやすい理由

 冬の風邪と違い、夏風邪は「短いけれど強烈にしんどい」と感じる人が多いのではないか。その背景には「夏特有の生活環境」が大きく関係している。夏は高温多湿で体力を消耗し、屋外と冷房の効いた室内との温度差も重なって自律神経が疲弊する。
 これに加えて、熱帯夜での睡眠不足や睡眠の質の低下、発汗による塩分喪失を伴う慢性的な脱水傾向、食欲不振なども重なり、体が“抵抗力を失いやすい”状態になっている。しかも、夏風邪を起こすウイルスは39℃の高熱を出したり、もともと症状の強いウイルスなので、ダブルパンチで倦怠感やだるさを強く感じたりすることになる。

風邪予防のカギとなる栄養

 夏風邪はウイルスそのものだけでなく、体の疲労、自律神経バランスや免疫力の低下によって引き起こされる側面が大きいため、予防には「栄養と生活リズムの見直し」によって肉体疲労を回復し、自律神経を整えることが欠かせない。夏場は、発汗や冷房による冷え、食欲不振、代謝の悪化などによって必要な栄養素の摂取も吸収効率も低下しがちだ。
 この時期に意識して摂りたい栄養素の一つがタウリンである。魚介類に多く含まれるアミノ酸の一種で、細胞の浸透圧調整や自律神経の安定、抗酸化作用など多岐にわたる役割を担っている。とくに夏の疲労感や自律神経の乱れには、タウリンが役立つと考えられており、イカやタコ、ホタテなどの食品から日常的に摂ることが推奨される。
 ビタミンCも欠かせない栄養素だ。抗酸化作用があり、白血球の機能を高めて免疫防御力をサポートする。ゴールドキウィやアセロラ、ブロッコリー、パプリカなどの野菜・果物に豊富に含まれている。
 さらに、亜鉛も免疫細胞の活性化に関与する重要なミネラルで、牡蠣や牛肉、ナッツなどが主な供給源となる。
 エネルギー代謝に不可欠なビタミンB群も、疲労回復や粘膜の健康維持に寄与します。豚肉、納豆、玄米、大豆製品などの食品に多く含まれている。抗菌ペプチド(体内で細菌やウイルスなどの微生物を攻撃する物質)の産生を促し、免疫応答のバランスを整えたりする働きがわかっているビタミンDは、日光浴でも作れますが、食品からも摂るようにしよう。
 免疫の大部分が集中する腸内環境を整える乳酸菌や発酵食品も、夏風邪の対策として理にかなっている。ヨーグルトや味噌、キムチなどの食品は、腸内フローラのバランスを改善し、全身の免疫機能を底上げする効果が期待される。冷たい飲み物ばかり摂取せず、胃腸にやさしい温かい汁物を意識的に取り入れることも重要である。

夏風邪におすすめの栄養素一覧

 このように、複数の栄養素が互いに補い合いながら、体の防御機能を支えている。特定の成分だけに頼るのではなく、バランスよく取り入れていくことが、風邪に負けない体づくりの基本といえるだろう。

生活習慣から整える、「夏に負けない体づくり」

 冷房は外気温との差が5度以内になるよう調整し、冷えすぎに注意しよう。たとえば、気温35度の日であれば、設定温度は28~29度にといったように設定するのが好ましい。人間の自律神経は、急激な温度変化に対して非常に敏感である。
 屋外の猛暑から冷房の効いた室内に急に入ると、温度差が大きすぎて体が適応しきれず、自律神経が乱れやすくなる。その結果、頭痛、倦怠感、胃腸の不調、睡眠の質の低下といったいわゆる「冷房疲れ」や「夏バテ」の症状を引き起こす。
 また、室温が低すぎると、ウイルスや細菌に対する防御反応が鈍くなり、免疫力の低下を招く可能性もある。特に、冷風が直接当たることで、喉や鼻の粘膜が乾燥し、感染症にかかりやすくなるケースもある。夏風邪対策という観点でも、冷房は「涼しすぎない」ことが肝心だ。
 また、夏はシャワーで済ませがちだが、入浴することがお勧めである。41℃を超えない温度の湯船に浸かることはリラックスし、疲労により交感神経の働きが優位になってしまった自律神経のバランスを回復させる。副交感神経の働きが高まると睡眠の質が向上し、翌日への疲労の持ち越しが軽減する。
 また、手洗い・うがいといった基本的な衛生習慣に加えて、口腔ケアを丁寧に行うことも重要だ。口の中はウイルスの侵入口になりやすく、歯垢や歯周病菌が免疫機能を乱すリスクも指摘されている。口内環境の清潔を保つことが、夏風邪だけでなく全身の健康維持にもつながる。
 夏風邪は、単なる「季節違いの風邪」ではなく、冬とはまったく異なるメカニズムと対策が必要な感染症である。だからこそ、予防には適切な知識と戦略が求められる。
 日々の食事に、タウリンをはじめとする栄養素を取り入れ、生活習慣を見直すことは、体の内側から免疫を支え、「夏に強い自分」をつくる第一歩だ。この夏を、健康的に乗り切るためのヒントとして、ぜひ取り入れて頂きたい。

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