ロート製薬は10日、日本を含む世界5カ国(日本、中国、シンガポール、アメリカ、ドイツ)の小学生とその親を対象に実施し、世界のこどもの目の実態と親の意識・ケア実態に関するアンケート調査結果を発表した。
た。
同調査結果は、6月10日の「こどもの目の日」にちなんで、ロート製薬「こどもの目の白書2025 GLOBAL編」として公開されたもの。この国際調査は、現在開催中の2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)を契機に世界への関心が高まる中、各国のこどもの目の健康や生活習慣の実態を明らかにすることを目的に行われた。
同調査結果から①こどもの視力低下は世界的課題、②日本の小学生、裸眼視力1.0未満は最少、③小学生のこどもの目に対する日本のケア率は5国中最下位ーの3点が明らかになった。
こどもの目のケアをしていると回答した親はわずか26.0%で圧倒的最下位であった。また、各国が実際に行っているケアの違いや、デジタルデバイスの接触や屋外活動といった生活習慣の違いも判明した。
2010年に約20億人だった近視人口が、2050年には世界人口の約半分の50憶人になると予測されており〝近視パンデミック″とも呼ばれ世界的な健康問題となっている。
調査概要、サマリー、詳細は、次の通り。
【調査概要】
◆調査対象国 :日本、中国、シンガポール、アメリカ、ドイツ
◆調査対象者 :小学生のこどもを持つ親 各国100名(合計500名)
◆調査方法 :インターネット調査
・「裸眼視力が1.0未満の小学生の生活への影響」については、小学生本人の回答を親が代理回答
・上記以外は親が回答
◆調査機関 :自社調査
◆調査期間 :2025年5月19日~27日
【調査サマリー】
◆PART1:世界のこどもの裸眼視力
・裸眼視力1.0未満の小学生、調査5カ国で最多はシンガポール(71.9%)、最少は日本(39.1%)
・中国では眼精疲労やドライアイといった目の不調が多い
・裸眼視力1.0未満のこどものメガネやコンタクトの装用率は、中国は高く、日本とドイツは低い
・メガネやコンタクトの装用理由は「近視」が最多、特に中国は9割超
◆PART2:視力低下による生活への影響と親子間ギャップ
・「黒板が見えにくい」「目が疲れる」「読書がしにくい」など、視力低下による影響をこども自身は実感
・日本と中国では親子の認識にギャップが小さく、ほか3カ国ではギャップが大きい
◆PART3:世界のこどもの目のケア
・ほか4カ国のケア率は9割前後の一方で日本はわずか26.0%と最下位
・中国は幅広く充実したケアを実施、シンガポールは視力矯正に加えて生活環境への配慮も重視
・アメリカでは矯正や検査といった眼科的サポートを重視、ドイツは視力矯正よりも予防的ケアに注力
◆PART4:世界のこどもの生活習慣の違い
・デジタルデバイスの接触時間はアメリカが最長で中国が最短
・屋外活動の時間はドイツが最長で日本が最短
◆PART5:眼科医・松村先生の解説
・各国のこどもの目に対する対策
・生活習慣と目の健康は密接、日常生活での工夫が将来の目を守る
◆6月10日は「こどもの目の日」!ロート製薬「こどもの目の白書2025 GLOBAL編」公開
【世界5カ国調査】こどもの視力低下は世界的課題
日本の小学生の裸眼視力1.0未満は最少、一方でケア率は最下位
各国で異なるこどもの目のケアと生活習慣の実態が明らかに
【調査の詳細】
◆PART1:世界のこどもの裸眼視力
日本、中国、シンガポール、アメリカ、ドイツの小学生のこどもを持つ親に調査したところ、裸眼視力1.0未満の小学生の割合が高かったのはシンガポールで71.9%、次いでドイツが62.9%、アメリカが54.7%、中国が46.5%、日本は39.1%で、調査した5カ国中では、日本が最も良好な視力を保っているという結果となった。
中でもシンガポールの数値は日本の約1.8倍ほどにのぼっており、アジアの中でも視力低下の傾向が特に深刻であることがうかがえる。また、欧州のドイツや北米のアメリカでも半数以上が裸眼視力1.0未満で、こどもの視力低下は全世界的に広がっている問題であることが明らかになった。

小学生のこどもの目について、「視力低下」や「眼精疲労」、「ドライアイ」といった問題があるか尋ねたところ、「ある」と回答した割合は中国が最も高く78.0%、次いでシンガポールが65.0%、アメリカが61.0%、ドイツが53.0%と続いた。
一方で、日本は41.0%にとどまり、5カ国中最も低くなっている。日本は視力低下の割合も低く、かつ目の不調も比較的少ない(または認識されていない)ということがわかった。

小学生におけるメガネやコンタクトの装用率を国別に見ると、最も高かったのはシンガポールで60.0%、次いでアメリカ57.0%、中国55.0%と続く。対して、ドイツは40.0%、日本は21.0%とやや低い結果となった。
この装用率が、実際に視力が低いこども(裸眼視力1.0未満)にどれほど行き届いているかを比べると、各国の矯正意識の違いがより明確に浮かび上がる。
中国は視力1.0未満の小学生のうち82.6%が矯正しており、視力低下に対する積極的な対応がうかがえる。シンガポール(70.3%)、アメリカ(68.1%)も同様に高い矯正率を示している。
一方で、ドイツは52.3%にとどまり、視力1.0未満でありながら矯正されていない小学生が半数近くいる状況である。日本も58.8%と5カ国中下から2番目で、視力1.0未満の割合は最も少ない(39.1%)ものの、必要な矯正が十分に行き届いていない可能性が浮かび上がった。

小学生がメガネやコンタクトを装用している理由については、シンガポール、アメリカ、中国、ドイツの4カ国すべてで「近視」が最多であった。中でも中国は92.7%と突出しており、近視による矯正ニーズが極めて高いことがわかる。
一方で、アメリカでは「遠視」と「近視」がともに40.4%と同率1位で並んでおり、シンガポール(45.0%)、ドイツ(30.0%)でも遠視の割合が高く、これらの国では近視だけでなく遠視への対応も重要な課題となっていることがうかがえる。

◆PART2:視力低下による生活への影響と親子間ギャップ
視力が1.0未満の小学生本人に対して、視力低下による生活への影響を尋ねたところ、「黒板が見えにくい」「目が疲れる」「読書がしにくい」などが上位に挙がり、各国共通で“見えにくさ”が学習や日常生活に影響していることがわかった。中でも中国は、7割以上のこどもが「授業中に黒板が見えにくい」と回答しており、視力低下による生活への影響が深刻といえる。
一方、ドイツでは「日常生活に影響はない」と回答した割合が29.5%と比較的高く、他国と比べて視力低下による影響の自覚が少ない傾向が見られた。

裸眼視力が1.0未満の小学生に生活への影響を尋ねた結果と、それを親が把握していたかどうかを比較すると、国によって親子間のギャップに差が見られた。
アメリカ、シンガポール、ドイツでは、視力低下によ
る影響のうち親が「把握していなかったものがある」と答えた割合が9割前後にのぼり、多くの親がこどもの困りごとに気づけていなかったことがわかる。
一方、日本や中国ではその割合が低く、親がこどもの視力による生活の不便を比較的よく把握している傾向が見られた。視力の不調に対する家庭内でのコミュニケーションや意識の違いが、国ごとのギャップに影響している可能性がある。

◆PART3:世界のこどもの目のケア

小学生のこどもの目に対するケア率については、日本とそれ以外の国で大きな差が見られた。中国では98.0%、アメリカ94.0%、シンガポール88.0%、ドイツ85.0%と、いずれも9割前後の親が目のケアをしていると回答しており、こどもの目の健康に対する意識の高さがうかがえる。
一方、日本のケア率はわずか26.0%にとどまり、5カ国中最下位で、 4位のドイツと比べても3分の1以下の水準だ。日本は裸眼視力1.0未満の割合こそ他国より低め(39.1%)だが、文部科学省の調査では1979年度の17.91%だった裸眼視力1.0未満の小学生は、2024年度には36.84%へと2倍以上に増加しており、適切なケアを行わないと、今後さらに視力低下が進行するおそれがある。

小学生の目に対するケアの内容を5カ国で比較すると、各国で対策の方針に違いが見られた。中国は「屋外活動の促進」「視力検査」「デジタルデバイスの接触時間管理」だけでなく「睡眠」や「食事」など、ほぼすべての項目で高い実施率を示しており、幅広く充実したケアが行われていることがうかがえる。
シンガポールは裸眼視力1.0未満の割合が最も高いこともあり「メガネやコンタクトの使用」が最多で、続いて「デジタルデバイスの接触時間管理」や「適切な照明」など生活環境への配慮が目立った。
アメリカは「メガネやコンタクトの使用」や「定期的な視力検査」が上位に挙がり、矯正や検査など、眼科的なケアに重きを置く傾向が見られる。ドイツは「視力検査」や「デジタルデバイスの接触時間管理」「適切な照明」などが「メガネやコンタクトの使用」よりも多く、視力矯正よりも予防的な取り組みに力を入れている様子が見て取れる。 日本は、サンプル数が少ないため参考値ではあるが、多くの項目で他国と比べて実施率が低い傾向にあり、日常生活におけるケアの取り組みが進んでいない状況がうかがえる。





◆PART4:世界のこどもの生活習慣の違い
デジタルデバイスの接触時間や屋外活動時間と視力には一定の関連があると言われているため、今回の調査では各国の実態を比較した。アメリカやシンガポールでは、こどものデジタルデバイス接触時間が長く、それぞれ96.9分、93.3分となっている。一方、中国は56.8分と5カ国中で最も短い結果となった。
屋外活動時間については、ドイツが最長の115.3分、日本が最短の72.8分という結果であった。日本は、デジタルデバイスとの接触時間が長く、外遊びの時間が短い傾向があることが明らかになった。

◆PART5:眼科医・松村沙衣子氏(東邦大学医療センター大森病院 講師)の解説

今回の国際調査から、日本の小学生は5カ国中で最も裸眼視力が良好である一方、日常的な目のケアを行っている家庭の割合は26.0%と著しく低いことが明らかになった。この背景には、「見えているから問題ない」という安心感や、学校健診結果に対する眼科受診率の低さ、また近視や視力低下への関心の低さがあると考えられる。だが、裸眼視力1.0未満の小学生は文部科学省の報告でも年々増加しており、今後、対策が遅れれば近視の低年齢化と進行リスクがさらに高まるおそれがある。
各国の対策を見ると、中国は食事や睡眠、屋外活動に至るまで包括的なケアを実施している。これは2022年に中国が学童近視総合予防管理計画を掲げ、近視予防に関する教育の強化を行っている結果が影響していると考えられ、特にスマートフォンの使用の削減、睡眠時間や運動時間の増加、学校視力健診などに力を入れている。
シンガポールも同様に生活環境の整備に重点が置かれ、視力矯正やデジタルデバイスの接触時間管理が実施されている。アメリカは眼科ケアを重視し、ドイツは予防的アプローチを取るなど、いずれも子どもの視力を守る取り組みが定着している。
これに対し日本では、適切なケアや矯正が不十分な例も見受けられ、今後の予防対策が急務である。日常生活の中で取り組めるケアとしては、①1日2時間を目指した屋外活動、②30分近業ごとの休憩 、③正しい姿勢と視距離の確保(30cm以上)、④500ルクス以上の明るさの照明、⑤スマートフォンなどの使用時間の制限(小学校低学年は1.5時間以内、高学年は2時間以下)、⑥睡眠の質の向上ーなどが挙げられる。
近視の予防と進行抑制はご家庭の意識と日常の工夫が鍵になる。また、現在は近視の進みを遅くできる治療もある。学校健診での指摘があった際は、必ず眼科受診をしよう。本調査が、子どもの視力を守る第一歩となることを期待している。