サノフィは4日、三重大学および三重病院との連携のもと、三重県におけるRSウイルス感染症治療薬「ニルセビマブ」導入による疫学的インパクトや同剤の受容性・安全性を評価する大規模疫学研究「SYMPHONIE」(フランス語で交響曲)を開始したと発表した。
RSウイルス感染症は、1歳までに 70%近く、2歳までにほぼすべての小児が感染し、初回感染では40%で下気道感染を起こすとされている。千葉県で 2021年から 2023年に行われた前向きコホート研究では、人口ベースでみた1歳未満のRSウイルス感染症による入院率は0.5-2%程度で、非常に高い疾病負荷が存在する。また、健康な正期産児が RSウイルス感染症の入院例の90%程度を占めており、健康な正期産児におけるRSウイルスによる下気道感染の予防は長年のアンメットニーズとなっている。
こうした中、一回の投与でRSウイルス感染流行期を通じた効果を発揮する長期間作用型のモノクローナル抗体製剤であるニルセビマブが開発され、2024年3月に国内で承認された。複数の臨床試験では、健康な正期産児を含めたすべての新生児・乳児を対象として、下気道感染やこれに伴う入院を一貫して約 80%程度低下させ、安全性についても検討された。
欧米諸国等においては、2023/2024 シーズンから全ての新生児・乳児に対して導入され、臨床試験を裏付ける 80-90%程度の入院の減少が複数の観察研究で報告されている。だが、国内では、主に早産児・基礎疾患のある児を含むより重症化リスクの高い児が保険償還対象となっているが、その他の児康な正期産児については、適応は取得されているものの、保険償還の対象外だ。そのため、その他の健康な正期産児に広く投与(接種)する環境整備が早急に望まれる。
実際、厚生科学審議会 予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会ワクチン評価に関する小委員会で、RSウイルスワクチン等の定期接種化に関する議論が開始され、ニルセビマブも議論に含まれている。
小児科学会からも厚生労働省に対して「すべての新生児・乳児に対しても抗 RSウイルスヒトモノクローナル抗体製剤を広く提供するための体制整備に関する要望書」が提出されており、ニルセビマブを全ての新生児・乳児に使用することでさらなる疾病負荷低減への寄与が期待される。
今回開始する研究である「SYMPHONIE」では、ニルセビマブを全ての新生児・乳児に使用することの有用性を全国に先駆けて検討するために、三重県におけるニルセビマブ導入による疫学的インパクトやニルセビマブの受容性・安全性を検討する。
SYMPHONIE は2つのパートに分かれており、SYMPHONIE-1(jRCT 登録 No.:jRCT1040240081)では、三重県におけるニルセビマブ投与(接種)前後の疾病負荷(外来・入院)に関するデータを収集・記述することで、ニルセビマブ導入による疫学的インパクトを検討する。
このデータについては、オンラインのダッシュボードで real-time に近い形で毎週更新される(ダッシュボードのURL: symphonie.jp)。SYMPHONIE-2(jRCT登録No.:jRCT1041240189)では、三重県在住の生後初回のRSウイルス感染流行期を迎える新生児、乳児に対してニルセビマブを投与(接種)し、国内で、健常児を含む保険償還対象とならない新生児・乳児におけるニルセビマブ投与(接種)の受容性や安全性を検討することを目的とする。
SYMPHONIE-1は三重病院 名誉院長の谷口 清州氏、SYMPHONIE-2は三重大学 大学院医学系研究科 公衆衛生・産業医学分野 教授の神谷元氏がそれぞれ主導し、SYMPHONIEの実務は三重大学の光嶋 紳吾氏が担当。100 近くの小児科・産婦人科の医療機関の医師と連携して実施される。SYMPHONIEは、国内でのワクチンやその他の予防接種の定期接種前の疫学研究としては過去に類を見ない規模のものであり、公衆衛生上、疾病予防や人々の健康増進に寄与することを目指す。
◆SYMPHONIE-1研究代表者の谷口清州氏(三重病院名誉院長)のコメント
小児感染症では、過去数十年で様々なワクチンが開発され、疾病負荷の軽減に貢献してきた。RSウイルス感染症は、小児、特に乳幼児期において重症化するリスクが高いものの、これまで予防方法も効果的な治療方法もなかった。昨今ついにRSウイルス感染症に対する予防手段が出てきた中で、三重県の多くの医療機関の協力のもとで構築出来たサーベイランス体制により、この予防効果を示すこを期待している。」
◆新城雄士サノフィメディカルマネジャー・同研究社内担当者(医師)のコメント
今回、感染症やワクチンの研究が盛んに行われてきた歴史ある三重県の数多くの医療機関や大学と連携し、公衆衛生に資する大規模な疫学研究を開始できることに感謝している。
ニルセビマブはすべての新生児・乳児を RS ウイルス感染症の脅威から守るというコンセプトで開発されており、SYMPHONIE で得られた知見をもとに、欧米で先行して用いられ、すでに疫学的インパクトもみられているように、日本においても広くすべての新生児・乳児に投与(接種)することで、我が国の公衆衛生に貢献したい。