3期ぶり最終黒字化転換も「しっかりとコストマネージメントしつつ、さらなる売上伸長」目指す 住友ファーマ木村社長

木村氏

 住友ファーマは4日、大阪市内で社長会見・記者懇談会を開催し、木村社長が基幹3製品の売上拡⼤およびコストマネジメントの効果発現による「3期ぶりに最終黒字化転換」見通しに言及。「ゴールではなく、あくまでも最初の通過点である」と改めて強調し、「財務状況が悪化している中でしっかりとコストマネージメントしつつ、さらなる売上伸長を続けたい」と言い切った。
 2月1日に事業を開始した住友化学との再生・細胞医薬事業合弁会社「ラクセラ」については、「住友ファーマの研究開発費は半分(500億円)に削ったが、再生医療は投資を増やさなければならないステップに来ている」と説明。
 その上で、「株式保有率に応じた投資負担により、同事業の研究開発・設備投資の2/3を住友化学が負担するため、スピードを緩めず事業推進できる」とメリットを強調した。現在、ラクセラの第一号製品となる他家iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞(パーキンソン病)は、京都大学による医師主導治験のデータを基に、2025年度承認申請の準備を行っている。木村氏は、「国内で先駆け承認制度を取得しているので、できるだけ早く申請して2025年度内の承認を取得できるように頑張りたい」と語った。
 住友ファーマは、24年度は資産売却(200億円)してコア営業利益10億円を達成し最終赤字160億円、25年度に資産売却無しで最終利益の黒字転換を目指していたが、1年前倒しで黒字化を達成する見込にある。木村氏は、「我々の再建はまだまだ途に就いたばかり」と述べ、「増収トレンドをしっかり定着させるのが第一の目標である。大きな財務再建は、少し時間をかけて取り組んでいく」と主張した。
 同社の有利子負債残高は3750億円(借入金2550億円、社債1200億円)。借入金は、ブリッジローン(2550億円の内1450億円)の返済期限を2025年3月末に再延長済みで、今後必要なリファイナンスについても金融機関及び住友化学と継続協議している。木村氏は、3日に発表された住友化学の社長人事について「創薬、再生医療にご理解頂いている水戸信彰氏が次期社長に就任されることは、非常に心強く前向きにとらえている」と断言。さらに、「岩田圭一現社長も住友ファーマの再建が想定以上に進んでいるので、そのあり方については少し時間を掛けて考えて良いと言われている。我々としては、少なくとも目に見える将来の中で住友グループの一員としてやっていくと考えている」と話した。
 こうした中、2025年度は、米国ではアプティオム(抗てんかん薬)が5月にLOE(単独期間の満了)を迎える。国内ではエクアに続きエクメット(2型糖尿病治療薬)の独占期間が終了する。木村氏は、「これらのマイナス要因に打ち勝って、主要製品の伸長を図っていく」と再度強調した。
 一方、1月20日にヤンセンファーマと締結した「ゼプリオン」「ゼプリオンTRI」(注射剤の統合失調症治療薬)の国内コプロモーションを大きなトピックスとして指摘。
 その上で、「統合失調症は、住友ファーマが創製したラツーダ(非定型抗精神病薬)およびロナセンテープ(抗精神病剤)による豊富なマーケティング実績がある」と明言し、「統合失調症の注射剤(LAI)という選択肢を獲得し、情報提供の幅を広げることで、精神科領域での当社のプレゼンス向上を図りたい」と訴えかけた。非定型LAIの国内市場規模は年間約360億。
 国内営業人員は早期退職者募集によりほぼ半数(約450人)となったが、「昨年12月より従来の疾患領域制から統合失調症と糖尿病領域を2つ併せて担当するエリア制を導入し、効率的な営業展開をしている」(山崎浩二営業本部長)。

池田氏

 会見では、池田篤史ラクセラ代表取締役社長がラクセラの強みとして、①オープンイノベーションを通じたネットワーク、②iPS細胞の実用化でフロントランナー、③製造ケイパビリティーを挙げた。
 ①は、「住友化学グループ内の連携」、「アカデミア・ベンチャーとの連携、機械メーカー」、「物流企業等との異業種連携」、②は、「多能性幹細胞からの分化誘導技術」、「日米で培った当局対応実績」、「自前の商用利用可能なiPS細胞株を保有」、「ゲノム編集したiPS細胞株も樹立済み」―をその根拠としてリストアップ。
 ③では、「S-RACMOとの緊密な連携体制」、「細胞製造、製法開発の技術・ノウハウ」、「製造インフラ・人材」、「CDMOへの事業展開」を指摘し、「住友ファーマの再生・細胞医薬事業基盤を承継しつつ、住友化学グループのシナジーを最大限に活用したい」と力説した。
 ラクセラの開発品目には、ドパミン神経前駆細胞CT1-DAP001/DSP-1083(パーキンソン病、日米P1/2)、網膜色素上皮細胞HLCR011(網膜色素上皮裂孔、日本P1/2)、網膜シートDSP-3077(立体組織、網膜色素変性、日本臨床研究、米国P/12)、神経前駆細胞(脊髄損傷、日米臨床研究)、ネフロン前駆細胞(立体臓器、腎不全、日米プレクリニカル段階)がある。ネフロン前駆細胞のみ日本自家iPS細胞由来、米国他家iPS細胞由来で、その他品目はいずれも他家iPS細胞由来である。
 住友化学グループの再生・細胞医薬事業中長期ビジョンは、再生・細胞医薬の「フロントランナー」として、再生医療でしか実現できない新たな価値を提供し、「2030年代後半には、日米最大で約3500億円の売上収益を目指す」(池田氏)。木村氏は、3500億円の内訳について、「日本の薬価制度が非常に厳しいので、その大きな部分は米国で考えている」と説明した。

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