エーザイは17日、島津製作所・大分大学・臼杵市医師会と2022年11月より共同で実施する大分県臼杵市を実証立地としたコホート研究において、血液バイオマーカーを用いて、アルツハイマー病の重要な病理として知られる脳内アミロイドβ蓄積の予測能を評価したと発表した。この内容を報告する論文は、10月10日、専門誌「Alzheimer’s & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions」に掲載された。
同共同研究は、血液バイオマーカーを活用し、アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)および軽度認知症の診断ワークフローを日本で初めて構築する試みであり、フェーズ1研究とフェーズ2研究で構成されている。フェーズ1研究では、2015年から2019年に臼杵市で行われた臼杵コホート研究で取得され、凍結保存されていた血漿検体を用いて、地域コホートにおける血液バイオマーカー検査の脳内アミロイドβ蓄積予測能を評価した。
フェーズ2研究では、かかりつけ医から認知症の関連学会専門医に至る医療連携体制において、新規に募集した研究参加者(100例)での血液バイオマーカー検査の有用性を検証し、検査結果開示を行った上で開示者や結果の違いによる参加者への心理的な影響の評価を行う。
今回の論文は主にフェーズ1研究の結果をまとめたもの。同試験では、アミロイドPET検査結果と島津製作所の測定した血液バイオマーカーとを、脳内アミロイドβ蓄積予測能を評価するArea Under the Curve (AUC)を指標として比較した。
その結果、血液バイオマーカーのAUCは0.94と高い値を示し、地域コホートにおいても脳内アミロイドβ蓄積を高い確度で予測できる性能が確認された。さらに、7年間の観察期間における被験者データの解析結果から、ベースライン時の血液バイオマーカー結果を用いて臨床症状進行を予測できる可能性、つまりアルツハイマー病によるMCIからアルツハイマー型認知症への進行を予測できる可能性が示された。
血液バイオマーカーは低侵襲の検査であるため、アミロイドPETや脳脊髄液検査の代替マーカーとなれば、当事者の負担を軽減することができ、さらに、将来的な認知症発症の予測にも役立つ可能性がある。
今後は、既にデータ取得が完了したフェーズ2研究についても解析を進め、研究全体の成果を報告する予定である。
4者は本共同研究を通じて、かかりつけ医から認知症の関連学会専門医に至る診断ワークフローにおいて、アルツハイマー病の早期診断に寄与するエコシステムを構築することで、当事者や家族が安心して生活できる社会の実現を目指していく。