9月29日にiCONM/CHANGE市民公開講座 「ナノ医療はなぜ‟ナノ”なのか?」オンライン開催

 iCONMとCHANGEは、9月29日午後2時よりiCONM/CHANGE 市民公開講座「ナノ医療はなぜ‟ナノ”なのか?~生体内に築かれたメッシュサイズを考慮~」をオンライン開催する。参加料は無料。
 iCONMの名称にも使われている「ナノ医療」であるが、世界的にみても「ミリ医療」とか「ピコ医療」という言葉はあまり聞くことがない。では、なぜ「ナノ」なのか。
 生体には様々なバリアがあり、そこを通ることができる物質を制限している。例えば、血液をろ過する役割を担う腎臓には、10nm 程度の大きさのメッシュをもつフィルターがある。
 つまり、10nm以下の粒⼦は尿中に排泄されやすく、薬剤を体内に長く留めるためには、10nm以上の大きさのものを設計することが好ましいとされている。
 ナノ医療は、こういったナノレベルでのサイズ効果を考慮した薬剤設計を⾏うもので、より無駄がなく副作⽤の少ない薬剤を創出することを目的としている。同セミナーでは、片岡一則センター長が生体における様々な「ナノサイズ効果」について紹介する。宮田完二郎氏(東京大学大学院⼯学系研究科マテリアル⼯学専攻 教授)は、生体内のバリアのメッシュサイズを測定する「ナノ物差し」、さらには、難治性がんを覆うシールドを透過させる試みについて講演する。
 また、青木伊知男氏(量子科学技術研究開発機構量子医科学上席研究員)は、体内で行われるナノ医療を、MRI を使って「見る」技術と、より小さな腫瘍を検出する試みについて、わかりやすく解説する。
 iCONM/CHANGE市民公開講座の開催概要および、各演者の講演要旨は、次の通り。

【iCONM/CHANGE市民公開講座の開催概要】

◆日時︓ 2024 年 9 ⽉ 29 日(日) 午後 2 時〜4 時(午後1時 45 分開場)

◆場所︓ ZOOMウェビナーによるオンライン開催

◆参加費︓ 無料
◆事前登録︓https://us06web.zoom.us/webinar/register/WN_rG8MeHeoSX6RrlDYNFBR2Q

◆申込締切︓2024 年 9月 26日(木) 正午

◆講演1︓ ナノ医療におけるサイズ効果
片岡岡 ⼀則氏(ナノ医療イノベーションセンター センター長・東京大学名誉教授)

◆講演2︓ 「ナノ物差し」を用いた生体の隙間測定と的確な薬物送達
宮田完二郎氏(東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻 教授)

◆講演3︓ ナノ技術と MRI がもたらす医療の未来
青木伊知男氏(量子科学技術研究開発機構 量子医科学上席研究員) 

【講演要旨】

片岡氏

◆講演1 片岡一則氏:ナノ医療 nanomedicine は、世界中で広く使⽤されている科学⽤語であるものの、ミリ医療とかピコ医療という言葉はほとんど聞くことがない。これは、10 億分の 1 を意味する「ナノ」というサイズが生命を司るうえで何か重要な意味をもつものであることを示唆する。
 例えば、血液を浄化する腎臓は、約10nm(10万分の1mm)を境として、欠中の不要物を尿中に排出する。一般的に使われている医薬品の多くは数nmの低分子化合物であるため投与後に排泄されやすい。
 そのため、損失量を予め考慮した用量設定がなされており、腎機能が低下して排出能力が衰えた人では薬物血中濃度が⾼くなるなど注意が必要となる。
 また、がん組織に形成され血管では、正常組織の⾎管よりもはるかに大きい約100nmを境とした物質透過性があり、この違いを利用したがん選択的薬剤送達も可能になると考えられている(EPR 効果)。
 iCONMでは、10-70nm程度の大きさを持つ「スマートナノマシン」と称する高分子ミセルに薬を内包し、体内の狙った組織に届ける研究を行っている。本市民公開講座では、このような「ナノ」と生命の関係に着目し、必要最低限の⽤量で安全性と経済性の高い薬剤の開発に繋がる「サイズ効果」について概説する。

宮田氏

◆講演2 宮田完二郎氏:抗がん剤の効き目を高め、副作用をなくすことはできないだろうか。遺伝性の難病を治療することはできないだろうか。このような医療技術の課題あるいは社会的要請に応えるのが「ナノ医療」あるいは「ナノ医薬」の研究開発である。
 今回の公開講座の主題でもある「ナノ」について、なぜナノスケールなのだろうか。自然に目を向けてみると、天然の遺伝子の運び屋であるウイルスのサイズがちょうどナノスケールである。
 例えば、新型コロナウイルスの直径はおおよそ100ナノメートル(nm)である。このことから、遺伝物質を包含し、細胞に導入するために適したサイズはナノスケールであることが予想される。実際に、人工的に作られた遺伝子の運び屋である新型コロナウイルスワクチン(メッセンジャーRNA内包脂質ナノ粒子)の直径も、新型コロナウイルスと同程度である。
 一方で、がんに薬を届けるために最も適したサイズはどれくらいであろうか。ウイルスと同じくらいの 100nmが良いのだろうか。それとも異なるのであろうか。
 我々は、上記疑問に答えを出すべく、「ナノ物差し」に関する研究を実施中である。ナノ物差しとは、複数の生体適合性高分子から構成される巨大分子であり、生体適合性高分子の分子量(分子の長さ)を変えることで、5~50nmの範囲でサイズ調整することが可能である。
 従って、この高分子ナノ物差しを用いて、例えば腫瘍組織への集積性を比較検討することで、その腫瘍組織へ薬を運ぶために最も適したサイズを明らかにすることができる。
 本講座では、特に脳腫瘍と炎症性筋組織に薬を届けるために最適なサイズに関する知⾒を紹介するとともに、実際に薬を運ぶためのナノ医薬についても紹介したい。

青木氏

◆講演3 青木伊知男氏:高齢化が進む我が国において、がん、心疾患、脳血管障害は常に死因の上位を占め、また認知症の増大は、医療だけでなく介護に関わる関係者を含めて、社会的な負担となる。
 これらの病気に共通するのは、発症して深刻な状態となった後での治療には限界があり、できるだけ早期に、可能であれば予兆とも言える発症前の状態で発見することで、その身体的・社会的損失の大きな軽減が可能である。
 すなわち、従来の診断技術は「具合が悪くなり、病気になった後に、いかに病名を特定するか」が目的であったのに対して、これからは「病気になるリスクを予見し、発症前または超早期に病気を見つけ出すか」という目標に向けて進みつつある。
 診断技術には、血液検査などの体外診断と、体内の画像を撮影する体内診断とがあり、体外診断では最近、微量な物質を分析する技術が発展し、がんや認知症など多くの病気において血液診断が可能になりつつある。
 だが、その感度にはまだ限界があり、病気がある程度進行し、疾患のマーカーとなる物質が一定の濃度で血液中に放出されなければ検出が難しいのが現状だ。
 本講座では、放射線を使わず、磁気とFM電波で体内を精密に検査できるMRI 技術を中⼼に、ナノ技術と組み合わせた先端的な研究開発を紹介する。
 本邦には約7000台の MRI 装置があり、脳・脊髄、⼼血管、筋肉、腫瘍や炎症など多岐に渡る疾患診断に利用されている。脳研究としては、脳機能画像法(fMRI)と呼ばれる脳血管での流れや酸素代謝の変化を捉える⼿法が発展し、そこから「感覚や⼼の変化」を読み取ろうとする試みが行われている。
 また、超早期のがんや認知症の予兆を捉える研究も進展している。がん診断と治療に関しては、がんの内部に「薬が効かない部位」が潜んでいるかどうかを⾒つけ出すことが重要で、それは治療の成否に大きく影響する。
 こうした先端的な研究開発の鍵となる技術が、我が国が高い水準を誇る「ナノ技術」である。本講座では、発症前または超早期に病気を⾒つけ、病気の特徴を「⾒る」ために必要な、「ナノ・センサーMRI 造影剤」について紹介し、未来の医療を展望する。

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