インクレチン関連薬によるグルカゴン応答性インスリン分泌低下発見 関西電力医学研究所

インクレチン関連薬投与時のグルカゴン負荷試験によるインスリン分泌能過小評価を懸念

 関西電力医学研究所 糖尿病研究センターの山崎裕自上級特別研究員らの研究グループは6日、2型糖尿病治療におけるインクレチン関連薬であるGLP-1受容体作動薬・DPP-4阻害薬の使用が、1mgグルカゴン静脈負荷試験によるグルカゴン応答性インスリン分泌を低下させることを世界で初めて発見したことを明らかにした。
 同研究によってインクレチン関連薬を使用している群におけるグルカゴン負荷試験では、インスリン分泌能の過小評価が懸念され、結果の解釈には十分注意が必要であることが示された。
 グルカゴン負荷試験はインスリン分泌能の評価法の一つとして、糖尿病診療において広く使用されている。山崎氏らは、これまでに2型糖尿病のヒトにおいてGLP-1受容体作動薬を開始する際、グルカゴン負荷試験によるインスリン分泌評価が有用であることを報告していた(Usui R, et al. J Diabetes Complications. 2015)。
 グルカゴン負荷試験の機序として、膵β細胞においてグルカゴン受容体が発現しており、直接刺激でインスリン分泌促進シグナルの増幅経路が活性化されると考えられていた。だが、近年、グルカゴンはグルカゴン受容体のみならずGLP-1受容体をも介してインスリン分泌を示すことが基礎的研究で報告されており注目されている。
 今日の臨床においては、同じインクレチン関連薬の1種であるDPP-4阻害薬が広く使われており、さらにGLP-1受容体作動薬の使用も増え2型糖尿病の7割近くの患者に使用されている。
 こうした状況を踏まえれば、インクレチン関連薬を使用している状態におけるグルカゴン負荷試験は、膵β細胞機能を正しく評価できているのか否かを明らかにする必要に迫られていた。同研究では、同研究所でこれまで蓄積した多数例の解析によって、インクレチン関連薬を使用している群においては、グルカゴン負荷試験によるインスリン分泌が使用していない患者群で予想されるよりも明らかに低いことが示された。
 この結果から、グルカゴン負荷試験によるインスリン分泌促進は、グルカゴンがGLP-1受容体を介したシグナルを刺激している可能性がヒトでも確認された。 つまりDPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬の使用によりGLP-1受容体そのものあるいはその下流におけるシグナルがグルカゴン刺激に対して抑制的な状態があると推察された。
 詳細な作用メカニズムについては今後さらに検討が必要であるが、同研究によってインクレチン関連薬を使用している群におけるグルカゴン負荷試験では、インスリン分泌能の過小評価が懸念され、結果の解釈には十分注意が必要であることが示された。これらの研究成果は、本年8月28日に米国糖尿病学会の機関誌「Diabetes」で発表された。
 糖尿病は、インスリン分泌の不足とインスリン抵抗性によって引き起こされる慢性疾患であり、その病態の評価には精緻なインスリン分泌能の評価が不可欠である。特に、東アジアにおける2型糖尿病は肥満によるインスリン抵抗性よりも、β細胞機能の低下によるインスリン分泌低下が病因として特徴づけられ、インスリン分泌能の評価が治療方針の決定において重要である。
 1mgグルカゴン静脈負荷試験は、残存する膵β細胞のインスリン分泌能を評価するための標準的な検査方法として古くから広く使用されている。そのメカニズムとしては、グルカゴンによりβ細胞のグルカゴン受容体を介して直接インスリン分泌を引き起こすものと考えられていた。
 だが、近年はグルカゴン刺激によるインスリン分泌は、グルカゴン受容体のみならずインクレチンの1種であるGLP-1の受容体も介して引き起こされていることが主に基礎的研究で報告されており、グルカゴン応答性インスリン分泌機構の新たな理解が進んできた。
 一方で、糖尿病状態のヒトにおいて、同様にグルカゴン応答性インスリン分泌がGLP-1受容体を介しているか否かは明らかではなかった。
 2型糖尿病の治療目的の薬剤として、GLP-1受容体を介した血糖降下作用を示すインクレチン関連薬(GLP-1受容体作動薬・DPP-4阻害薬)は広く臨床上で使用されている。これらの薬剤は、GLP-1受容体を介したインスリン分泌促進メカニズムを有することから、薬剤使用時にグルカゴン負荷試験を行った場合、GLP-1受容体を介する作用が重複している、あるいはインクレチン関連薬による持続的な刺激状態が存在するため、グルカゴン応答性インスリン分泌が低下する可能性が想定された。
 そこで山崎氏らは、インクレチン関連薬使用時のグルカゴン負荷試験結果への影響について、インクレチン関連薬非使用時と比較して低下するか否かを検討するため、①GLP-1受容体作動薬使用前後のグルカゴン負荷試験結果の変化、②DPP-4阻害薬使用者と非使用者におけるグルカゴン負荷試験結果の違いについての後方視的な解析を行った。
 今回の検討では、GLP-1受容体作動薬使用前と比べ、使用後に有意にグルカゴン応答性インスリン分泌が低下することが示された(図1)。

図1 GLP-1受容体作動薬使用前後のグルカゴン応答性インスリン分泌:GLP-1受容体作動薬使用前に比較して使用後にグルカゴン負荷試験時のΔCペプチド(CPR)(*4)が有意に低下しました (1.40 [0.98, 2.38] ng/ml→0.89 [0.33, 1.31] ng/ml. P<0.01; Wilcoxon signed-rank test)

 また、DPP-4阻害薬使用者と非使用者について、それぞれ傾向スコアマッチング法で対象者背景を揃えた上で各種インスリン分泌試験の解析を行ったところ、食事負荷試験や24時間蓄尿Cペプチド測定などのインスリン分泌能測定法では2群間に有意差がないにも関わらず、グルカゴン負荷試験時のグルカゴン応答性インスリン分泌がDPP-4阻害薬使用者で有意に低下することが示され(図2)。

図2 DPP-4阻害薬使用の有無による各インスリン分泌能測定検査結果
食事負荷試験や24時間蓄尿CPR検査ではDPP-4阻害薬使用有無による検査結果に違いは認めませんでしたが、グルカゴン負荷試験時にはDPP-4阻害薬使用者は、非使用者と比較して有意にΔCPRが低下しました(DPP-4阻害薬使用者; 1.58 [0.91, 2.21] ng/ml, DPP-4阻害薬非使用者; 1.88 [1.15, 2.75] ng/ml. P<0.05; Mann–Whitney U test)

 同研究成果から、インクレチン関連薬使用時にグルカゴン負荷試験によるインスリン分泌能の過小評価が懸念されることが示された。さらに、そのメカニズムとして、グルカゴン及びインクレチン関連薬によるGLP-1受容体への影響が想定された。糖尿病においてもグルカゴン応答性インスリン分泌にGLP-1受容体が関与することを示唆する初のリアルワールドエビデンスと考えられた。
 今回の検討は、単施設で後ろ向きにインクレチン関連薬とグルカゴン負荷試験検査値の関連について示したものであり、今後は基礎的な研究を通じて、グルカゴンによる膵島におけるインスリン分泌機構の解明を進めていく。
 また、実臨床におけるグルカゴン負荷時のインスリン分泌評価について、中長期的な実臨床における意義について再検討を行う。

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