田辺三菱製薬の日本医薬事業本部長 倉垣康隆氏は医薬通信社の取材に応じ、同社における国内事業の位置づけと役割について言及した。田辺三菱製薬の国内営業部門は、これまで営業本部と営業推進統括本部に分かれていたものが本年4月1日に統合され、日本医薬事業本部となり、営業推進統括本部長の倉垣氏が同事業本部長に就任している。
国内医薬品市場は、毎年の薬価改定の影響や、ブロックバスターの特許切れなどの影響を受け、減収分を新薬でカバー仕切れず、厳しい状況にあるため、どの製薬企業も海外に目を向けているのが現状だ。
倉垣氏は、「今後の当社の成長戦略を考えると海外、特に米国シフトということになる」と明言する。とはいえ、日系の競合他社の国内売上比率が4割程度の中、田辺三菱製薬のそれは7割と極めて高い。
こうした背景から倉垣氏は国内事業を「田辺三菱製薬の成長と持続可能な発展を支える基盤事業」として位置づけ、「売上収益を増加させ、米国展開や新薬開発・パイプライン獲得のための投資余力を確保したい」と力強く語った。
マンジャロ、ゴービック、ユプリズナに注力
毎年の薬価改定の影響を受け、国内医薬品市場の成長は横ばいの中、田辺三菱製薬の重点領域市場は成長しており、「2024年度の国内医療用医薬品売上収益3260億円(2023年度実績3102億円)」の目標を掲げている。「薬価改定の影響による減収分を吸収してプラスにするのは容易ではないが、しっかりと達成していきたい」と断言する倉垣氏は、「そのために重点領域の中の重点品の収益をきちんと上げて行くことが重要となる」と指摘する。
田辺三菱製薬は、①糖尿病・腎領域、②免疫炎症領域、③アレルギー領域、④ワクチン領域、⑤中枢神経領域を重点領域としている。これらの重点領域における重点品の中でも特に、今年度は、新製品の「マンジャロ(GIP/GLP-1受容体作動薬、2型糖尿病治療薬)」、「ゴービック(5種混合ワクチン)」、ユプリズナ(視神経脊髄炎スペクトラム[NMOSD]障害治療薬)」に注力して、国内事業の目標売上収益の達成を目指す。
MRリソースを柔軟に配分
具体的には、オムニチャネル・プロモーションとデータドリブン・マーケティングの実践によるデジタルを活用したタイムリーな情報提供や、専門知識およびアウトプットスキルの強化による領域プレゼンス向上に余念がない。国内のMR体制は、糖尿病・腎領域を中心としたジェネラルMR、免疫炎症MR、精神科担当MR、小児科担当MRでの領域性体制としているが、「糖尿病・腎領域」、「免疫炎症領域」には専門性の高いエリアマネージャー制を導入しており、MRとの連携を進めることで、専門性の高い情報提供を実現し評価を得ている。
最適なプロモーション体制を構築するため、新発売や適応追加といった製品イベントに合わせて、領域区分の間でMR数のアロケーションを行い、必要な時に必要な情報をタイムリーに届ける体制を構築している。
倉垣氏は、「リアルとデジタルをうまく融合させながら様々なデータを活用して、効率的にオムニチャネル・プロモーションを展開している」と強調する。MRの適正配置についても、「その時々によってより注力したい部分に柔軟にリソースをつぎ込んでいきたい」と話す。
加えて、同事業本部が展開する地域医療に向き合うトータルヘルスケアパートナーとしての取り組みも見逃せない。自治体との連携協定締結を通じて「生活習慣病重症化予防事業」や、「慢性腎臓病対策事業」をサポートすることで、地域の皆さんの健康づくりに貢献するための活動を積極的に展開している。
「糖尿病・腎領域」
豊富なラインナップを活かし患者一人ひとりに最適な治療を提案
重点領域の「糖尿病・腎領域」では、2型糖尿病治療剤のテネリア(DPP-4阻害剤、2012年上市)、カナグル(SGLT2阻害剤、2014年上市)、カナリア(テネリアとカナグルの合剤、2017年上市)の自社製品に加えて、新製品のマンジャロが昨年4月18日に上市され、豊富なラインアップを誇る。
中でも、マンジャロは、世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬で、既存の治療薬とは異なる新しいクラスの薬剤としてグローバルに関心が高い。食事・運動療法を実施し、経口剤による治療を行うもHbA1cが治療目標に到達できない患者への新たな選択肢として注目されている。
本年6月4日には、限定出荷が解除され、「待ち望んで頂いていた医療関係者や、患者さんに一刻も早くマンジャロを届けるために活動している」と説明する。
美容を目的とした減量の適用外使用にも言及し、「こうした使用は、思わぬ健康被害が発現する恐れがあるため、適正使用の推進を重大な責務と捉えている」と強調。
その上で、「当社は日本糖尿病学会の見解に賛同し、適応外使用に関して注意喚起を行うとともに、安全性情報の伝達・収集を徹底していく」と訴えかける。
糖尿病・腎領域の営業戦略では、マンジャロを中心にテネリア、カナグル、カナリアの幅広い製品ラインナップが大きな強みとなっている。
カナグルについては、「SGLT2阻害剤の自社創薬製品として、世界に先駆けて情報発信してきた」と自負する。カナグルは、発売10周年を迎えて、本年5月22日にOD錠が発売された。OD錠の発売により「これまでカナグルを使用していなかった医療機関でも採用が増えている」
カナグルOD錠は、2021年6月に発売されたテネリアOD錠とともに、継続的な治療が必要な2型糖尿病のある人の服用負担軽減による治療満足度向上に貢献している。テネリア、カナグルに続き、「カナリア」についても、2024年2月にOD錠の剤形追加申請を行っている。
2型糖尿病のある人は、病態や合併症、生活環境などによりその人に適した治療選択肢や治療目標が異なる。倉垣氏は、「幅広い製品ラインナップを活かして、患者さん一人ひとりに最適な治療提案を行うことで‟糖尿病のない人と変わらない寿命とQOL”の実現に貢献したい」と訴求する。
「免疫炎症領域」
ステラーラ、シンポニー、レミケード等による患者の病態やライフスタイルに合わせた治療を提供
ステラーラ(クローン病等)、シンポニー(関節リウマチ等)を有する「免疫炎症領域」は、「作用機序・製品特性の異なるステラーラ、シンポニー、レミケード等の製品ラインナップを活かした患者の病態やライフスタイルに合わせた治療提案」が同社の強みとなっており、「個別の症例へ最適な治療方法を届け続けることで、免疫炎症領域におけるトップランナーとしてのプレゼンスを堅持していく」
ユプリズナについては、NMOSDの国内患者数は約6500人と推定されている。同剤は、投与間隔が半年に1回という利便性が評価され、再発予防期のNMOSD患者に新たな治療選択肢として提供してきたが、「MRとエリアマネージャーが医療機関に治療提案していくことでさらなる伸長が期待できる」
「中枢神経領域」では、昨年4月17日、「ラジカット内用懸濁液」(ALS治療薬)が上市された。注射剤のため投与を見合わせていた患者に対して経口剤という新たな投与方法を提供することで、より多くの患者にラジカットを届けることができている。その結果、「現在、ALS患者さん約1万名に対して約4000~5000名にラジカット内用懸濁液を提供しており、ALS患者さんのQOL改善に貢献している」と話す。
ジスバルは、本邦初の遅発性ジスキネジア治療剤であり、遅発性ジスキネジア症状で困っている患者への新たな選択肢として治療提案を行っている。
「ワクチン領域」
プレゼンスの高さでモデルナとのプロモーション契約
「ワクチン領域」では、本年3月15日に5種混合ワクチン「ゴービック水性懸濁注シリンジ」が発売された。ファイザーとのコプロモーションにより、早期に市場にゴービックを浸透させることで、定期接種ワクチンの総接種回数の削減、乳幼児および保護者の負担軽減に貢献していく。
また、7月9日には、新型コロナワクチン「スパイクバックス」および開発中のmRNA呼吸器ワクチンに関して、日本における共同プロモーション契約をモデルナと締結した。
倉垣氏は、「これまで築いてきたワクチン領域におけるプレゼンスが本提携に結び付いたものと考えている」と評価し、「当社の重点領域である糖尿病・腎、免疫炎症の疾患は、新型コロナや呼吸器疾患に感染すると重症化し易いため、診断~治療~リスクマネジメントを通じたトータルサポートによって対応していく」考えを強調した。
さらに、「予防医療の重要性に対する認識の高まりによりワクチン領域に注目が集まる中、モデルナのワクチンについても日本の人々に広くお届けし、公衆衛生の向上に貢献したい」と訴求した。
期待の新製品としては、新たな領域への参入となるファーストインクラスの抗CD19抗体薬物複合体「MT-2111」(抗がん剤)や、今後、適応追加を予定している「チルゼパチド」、「イネビリズマブ」の成長を挙げた。
イネビリズマブは、NMOSDに続く効能として、重症筋無力症およびIgG4関連疾患について、P3試験を実施しており、「今後もアンメット・メディカル・ニーズに応えて患者さんのQOL向上に貢献していく」
日本医薬事業本部の従業員一人ひとりが質の向上を追求し、使命を果たす
田辺三菱製薬は、「病と向き合うすべての人に、希望ある選択肢を。」をMISSIONとしている。その実現のために、「日本医薬事業本部では本年4月から日本医薬事業本部に所属する全てのメンバーが持ち続けたい価値観としてOur Axis『希望を届ける、届けきる。私たちの手で』を策定した」と明かす。「Our Axisには私たちが大切にしてきた行動や価値を表しており、私たちの判断や行動の“軸”としていきたいと考えている」。
“届けきる” とは、希望を届けることが本当にできているかを常に考えること。また、薬を届けた後の治療効果や安全性情報の収集や対処方法の伝達などにより、届けた後も患者の希望であり続けるための活動を示している。
倉垣氏は、「従業員一人ひとりがOur Axisを軸に質の向上を追求することで、患者さんへの貢献、より良い医療への貢献につながり、自ずと我々が求める成果も達成できる。」とした上で、「そして、風通しの良い組織運営を行うことで、従業員一人ひとりの意見や想いを共有し、施策や活動に反映することで、さらに日本医薬事業本部の存在感を社内外に示していきたい。」と抱負を述べた。