野菜を「噛む」ことが血糖値変動のメカニズムに影響 早稲田大学

咀嚼が食後のインスリン分泌促進を確認

 早稲田大学スポーツ科学学術院の宮下政司教授、キユーピーらの研究グループは、野菜(キャベツ)を「噛む」ことが血糖値変動のメカニズムに影響を与えることを発見した。
 野菜を「咀嚼して食べるとき」と「咀嚼せずに食べるとき」の食後における代謝への影響を調べたところ、噛むことで食後の血糖値を下げるホルモンであるインスリンがしっかりと分泌され、その作用機序の一つとしてインスリンの分泌を促す作用を持つホルモンであるインクレチンが食後の初期段階で刺激されることが判った。同研究成果は、Springer Nature発行の『Scientific Reports』に「Effect of vegetable consumption with chewing on postprandial glucose metabolism in healthy young men: a randomised controlled study」として3月30日にオンラインで公開された。
 加齢に伴いインスリンの分泌が低下するため、野菜を「噛んで食べること」でインスリンの分泌が刺激される可能性が示唆された若年者を対象とした同研究の結果は大変意義深いと言える。
 また、国が推進する食育推進基本計画では、「食育の推進に当たっての目標」の一つに、「ゆっくりよく噛んで食べる国民を増やす」ことが掲げられ、国民が生涯を通じ心身の健康を支える食育の推進の視点として「噛む」ことを推奨している。
 だが、最近は、固い食べ物は敬遠され、やわらかい食品が好まれる傾向にあり、意識して「噛む」ことが求められているため、普段の生活の中の実践が期待される。
 こうした中、同研究では、野菜(キャベツ)を「咀嚼して食べるとき」と「咀嚼せずに食べるとき」の「咀嚼」に着目し、その代謝への影響を検討したかったため、用いたその他の食品として咀嚼せずに摂取できるゼリー飲料を用いた。
 食後のインスリン及びインクレチン分泌が促進されたにも関わらず、食後血糖値は条件間で差が認められなかったのは、試験食が一般的な食事とは異なるゼリー飲料であったことが理由のひとつとして考えられる。インスリンの分泌には、食事をして血糖値が上がることによって出るインスリンとインクレチンによって出るインスリンがある。
 同研究において、野菜(キャベツ)を「咀嚼して食べる」ことが、どちらに作用、あるいは両方に作用したか不明ですが、魚や肉に含まれる脂肪酸がインクレチン分泌を促すことが知られているので、今後、野菜と一般的な食事とを組み合わせ、「ゆっくりとよく噛んで食べる」ことで、同研究と同様に食後にインスリンやインクレチンの分泌が促進し、食後の血糖値の上昇を抑えられるかを幅広い年代や性別で調査する必要がある。

◆研究者のコメント
 野菜を「噛んで食べること」に着目し食後の糖代謝を検討した研究は珍しく、特にこれまでインスリンの分泌を促進するインクレチンの作用は不明であった。なぜ、「咀嚼」がインスリンの分泌を促すかに着目し、キユーピーとの共同研究により、この疑問を調べることができた。
 野菜を「噛んで食べること」で増えたインクレチンは、食欲にも関わるホルモンであるため、今後、日常生活の中で「ゆっくりとよく噛んで食べる」ことを実践することで、食事の摂取量や体重にも影響があるか否かについても調査していきたい。

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