日本ベーリンガーインゲルハイムは1日、「間質性肺疾患」テーマとした第 60 回(2023 年度)ベルツ賞受賞論文を発表した。同日ドイツ大使公邸で行われた贈呈式では、ヤンシュテファン・シェルド日本ベーリンガーインゲルハイム代表取締役会長兼社長から、1等賞の西岡安彦徳島大学教授らに1000万円、2等賞の平井豊博京都大学教授らに500万円の賞金および賞状とメダルが贈呈された。
同賞は、日本とドイツ両国の歴史的な医学領域での交流関係を回顧し、またその交流関係を更に深めていく目的で、ベーリンガーインゲルハイムが1964年に創設した伝統ある医学賞である。
毎年、時宜に応じたテーマで論文を募り、優れた論文に対し授与している。記念すべき第60回を迎えた今年は、「間質性肺疾患」をテーマとして論文を募集し、12篇の論文が寄せられた。常任委員5名と専門委員4名からなる選考委員会による厳正な審査の結果、次の受賞者が決定した。
◆1等賞 「肺線維症に対する抗線維化薬開発:がんと線維化肺の接点を捉えたトランスレーショナルリサーチ」
徳島大学大学院医歯薬学研究部 呼吸器・膠原病内科学分野 教授 西岡安彦氏
【評価ポイント】
・ 臨床と基礎の両面において非常に大きな成果をあげており、この双方向からの独創的アプローチによる新たな肺線維症治療薬の開発が期待される。
・ 病態にかかわると考えられる新たな線維細胞集団(fibrocyte cluster)を見いだし、この線維細胞を標的と
する新たな治療戦略を追求している
・ 線維化にかかわる因子としての血小板由来増殖因子(platelet-derived growth factor, PDGF)に注目し、ドラッグリポジショニングを行うとともに、新規化合物の発見にも成功し、臨床試験を推進している。
*ドラッグリポジショニング:ある疾患に有効な既存薬を転用し、別の疾患に有効な治療薬として開発すること。
◆2等賞 「間質性肺疾患の病態解明を目指した臨床・基礎研究」
京都大学大学院医学研究科呼吸器内科学 教授 平井豊博氏。
京都大学大学院医学研究科呼吸不全先進医療講座特定准教授 半田知宏氏
京都大学 iPS 細胞研究所 臨床応用研究部門教授 後藤慎平氏
【評価ポイント】
・ 基礎と臨床双方向からの間質性肺疾患の病態解明を目指し、人工知能、数理モデル、iPS細胞、オルガノイドなど先端的手法を駆使し研究を推進している
・ 臨床的には胸部CT画像定量化技術を開発するとともに、予後予測に有用な血清・気管支肺胞洗浄液のバイオマーカーを同定した
・ 基礎的には世界に先駆けてiPS 細胞から肺胞上皮を分化誘導し、長期培養する技術を開発、希少疾患を
含む間質性肺炎の病態解明と創薬研究を展開している。
◆フローリアン・ガントナーベーリンガーインゲルハイム ディジーズマップ シニアアドバイザーのコメント
約 10 年前に治療に導入された抗線維化剤は、いずれも特発性肺線維症患者さんの肺機能の低下を抑えているが、肺機能を安定化させる、あるいは改善することができる治療法はまだない。
今年のベルツ賞受賞者は、間質性肺疾患の理解に大きく貢献し、臨床で切望されている画期的治療薬開発への道を切り開いた。
◆ヤンシュテファン・シェルド日本ベーリンガーインゲルハイム代表取締役会長兼社長のコメント
間質性肺疾患は、アンメットメディカルニーズの高い疾患であり、臨床現場から画期的な新薬が望まれている。当賞が少しでも受賞された先生方のご支援となり、この分野における研究がさらに進展し、一日も早く革新的な治療法が患者さんのもとに届くことを願っている。