「2050年のミライ医療と2025大阪・関西万博」テーマに森下竜一阪大教授が講演 神農祭市民公開講座

2025年大阪・関西万博は順調な進捗で予定通り開催

 大阪・少彦名神社の神農祭本宮の23日に開催された神農祭市民公開講座では、大阪大学大学院医学系研究科寄附講座教授で2025年日本国際博覧会大阪ヘルスケアパビリオン総合プロデューサーの森下竜一氏が「2050年のミライ医療と2025大阪・関西万博」をテーマに講演。インフルエンザの流行などアフターコロナの現況、将来的な医療の話を盛り込みながら、2050年の大阪を具現化した大阪パビリオンへと誘うレクチャーを展開した。
 森下氏は、万博の進捗状況にも言及し、「全てのパビリオンは、基本的に鉄骨住宅みたいなもので十分に間に合う。外装と展示の中身も心配ない。来年になれば、‟間に合わない”という話題は収まる」と断言した。
 新型コロナウイルスの現況は、オミクロン株からの変異タイプが中心になってきており、従来のデルタ株に比べて重症化が少ない。国民の7割程度がコロナに対する何らかの抗体を有しているため重症化は懸念されなくなってきている。
 多くの新型コロナ治療薬も登場したが、医療現場では日本で創薬され、昨年緊急承認された「ゾコーバ」(塩野義製薬)を中心とした処方が行われている。ゾコーバは、「内服で1日1錠5日間」と使い易く、ウイルス量の減少が著しい。また、従来の治療薬剤と比べて適用範囲が広いことがクリニックでの繁用に繋がっている。ゾコーバの登場が、多くの人がコロナに対する抗体を持つことに繋がっていると言えよう。
 一方、ワクチンは、ファイザーの「コミナティ」、モデルナの「スパイクバックス」mRNAワクチンが中心となっている。国内での開発品では、第一三共のmRNAワクチン「ダイチロナ筋注」のみ承認を取得しているが、従来株対応のため変異株には適応しない。
 変異株対応ワクチンが出てくれば使用される可能性はあるものの、ワクチン接種の公費保証は今年限りなので従来のmRNAワクチンで終了と成り兼ねない。現状、塩野義の新型コロナ組み換えタンパクワクチン「コブゴーズ筋注」の臨床試験が進められている。
 今後は、コロナの後遺症が問題になって来る。コロナの後遺症は、罹患者の5人~8人に1人程度発症しており、高齢者や女性、重症だった人に多い。
 現在、コロナの後遺症として明確にされていない症状もあり、治療薬の開発も進んでいない。コロナ後遺症が回復しない状況が続けば、いずれ治療薬が必要になって来るだろう。
 一方、今年の感染症における大きな変化は、インフルエンザの大流行である。その理由として、「インフルエンザがしばらく流行していなかったので、抗体を持った人が減少している」、「コロナ感染症対策に慣れが生じて、手洗いなどおろそかになってきている」などの指摘があるが、前者の要因によるところが大きいと考えられる。
 今年は、従来なかった夏場のインフルエンザ流行もみられた。インフルエンザの流行が通年化しつつあるのも、新型コロナ感染症の影響であると推測される。
 インフルエンザ治療薬は、タミフル、リレンザ、イナビル、ゾフルーザがあるが、現在はタミフルからゾフルーザへと使用の中心が変化している。ゾフルーザのインフルエンザウイルスの残存率は、他の薬剤に比べて非常に低いため、効果が早く、会社や学校への早期復帰を可能としているからだ。インフルエンザの流行に関しては、塩野義製薬の創薬力が極まっており、道修町の技術力が、感染症に役立っている。
 アフターコロナへと移行する中、インフルエンザは流行しているものの社会活動は元に戻ってきた。それでは、今後日本の社会制度はどうなっていくのか。

 人口ピラミッドの推移をみれば、1950年は若い年齢層が多く、裾野が広がる富士山型であった。その後、団塊の世代の年齢の推移とともにつぼ型へと変化し、2000年にはつぼ型からの移行期を迎えて人口減少に向かい、2050年には世界に類を見ない逆富士山型を形成するようになる。
 その一方で、老後期間は伸長していく。1920年は60歳定年の下、夫は61歳で亡くなりその老後期間はわずか1年であった(妻の老後期間は5年)。国民皆保険制度ができた1961年の老後期間は夫12年、妻16年で、2017年には65歳定年制で老後期間は夫16年、妻24年と伸長した。生産者人口の減少により‟入り”が減って、‟出費”が増加していく構造を余儀なくされている。
 その間、消費税は、1989年の3%を皮切りに、その後、5%、8%、10%と増加したが、単純に今のままの社会保障制度を続けると25%まで上昇するものと予測される。
 国民皆保険制度ができて60年が経過している。その当時と現在は同じではなく、生物学的年齢が変化しており、元気で普通に働ける期間が伸びている。さらに、現在では、健康寿命が新しい指標として注目されている。

75歳以上を「支える側」とすれば、景色が変わる

 そこで、これまで65~74歳を前期高齢者、75~89歳を後期高齢者、90歳以上を超高齢者としていたものを、75歳以上を「高齢者」とする高齢者定義の変更が提言された。
 18~64歳で65歳以上を支える場合、2017年が2.1人に1人、2040年1.5人に1人、2065年1.3人に1人であったものが、18~74歳で75歳以上を支える場合、2017年5.1人に1人、2040人3.3人に1人、2065年2.4人に1人と、75歳以上を「支えられる側」とすれば景色が大きく変わる。この構想を実現するには、たとえ齢を重ねても、もっともっと元気でいることが重要となる。
 改善可能な主要な日常項目8項目には、①日常的な果物の摂取習慣(7日以上/週)、②日常的な鮮魚・魚介の摂取習慣(7日以上/週)、③日常的な乳製品の摂取習慣(5日以上/週)、④習慣的な運動または歩行(1時間以上の運動/週、または30分以上の歩行/日)、⑤適正体重の維持(BMI:21.0~25.0kg/㎡)、⑥適量飲酒(日本酒換算で1日2合以下)、⑦非喫煙および禁煙、⑧適正な睡眠時間(5.5~7.4時間/日)ーが挙げられる。

大阪パビリオンと生命の球イメージ図

 こうした中、2025年大阪・関西万博が開かれる。大阪パビリオンのテーマは、「Reborn」で、健康、医療が大きなトピックとなっている。大阪パビリオンでは、「Reborn」のテーマのもと、「健康」という観点からの未来社会の新たな価値の創造への取り組みが展開される。
 また、「知る・感じる」、「体験できる」、「みんなで参加できる」という視点から、展示やイベントを通じて3つのサブテーマとなっている「Saving Lives(いのちを救う)」、「Emopowering Lives(いのちに力を与える)」、「Connecting Libes(いのちを繋ぐ)」にアプローチする。
 加えて大阪パビリオンは、「People’s Living Lab(未来社会の実験場)でもある。大阪パビリオンには、300万人を超える世界中の来場者の健康データが蓄積される。それらのデータを元に、「日本人が元気になるには何をすれば良いのか」の施策の探求も可能となる。大阪・関西万博の開催期間は2025年4月13日~10月13日の184日間で、約2820万人の来場者を想定している。入場料8000円。開催まで、いよいよ500日を切った。
 大阪パビリオンは、全体を「ミライの都市生活」と設定し、来館者を未来都市に生きる生活者としてコンテンツや体験が設計されている。展示ストーリーは、「Healthcare City Life(ミライの都市生活)」を具現化したもので、町中を自動走行するモビリティや、レストラン、ショップ、病院、劇場など、生活の中にある様々な場所で自分について知る機会があり、同時に食、運動、ココロといったパーソナライズケアが存在している。
 そんな毎日の生活の中で「自分」や「健康」を大切にし、「REBORN」を感じながらイキイキと明日に向けた一歩を踏み出せる内容となっている。
 来場者は、普段の生活をしていても自動的に健康状態が把握できる2050年の生活様式を体験できる。メインエントランスから入場すると「アンチエイジング・ライド」が円を描きながら稼働している空間を見上げる。ブリーフィングスペースがありライドに搭乗するための基礎データ登録を行い来場者個々のアバターが作成される。
 「アンチエイジング・ライド」での診断サマリーを元に、パーソナライズされたヘルスケア・フードドリンクを提供する「ミライのフードスタンド」、「ミライの医療」、テクノロジーとオーガニックが組み合わされた「街中のスキャンニングマシン、「ミライのヘルスケア」、「大阪の未来技術・産業」、「ミライの大阪モン」、「ミライのエンタメシアター」などフューチャリスティック体験を提供する。
 パビリオン出口では、25年後の姿に変換された来場者個々のアバターが出現し、2050年の自分と出会える趣向も興味深い。
 また、「ミライの医療」で紹介される再生医療や遺伝子治療も見逃せない。現在、住友ファーマでは、加齢黄斑変性等の眼疾患を対象としたiPS細胞由来網膜色素上皮細胞(RPE細胞)の実用化を進めている。
 大阪大学では、HGF、RSPO3遺伝子導入ADSCの機能向上により画期的な脳梗塞治療を目指す研究も進められており、その研究成果も注目されている
 2050年のミライ都市では、普段の自宅での生活と街を歩いているだけで診断が行われ、健康管理が可能になる。さらに、遠隔で医師の指導を受け、適切な在宅疾病管理で重症化予防、安心できる救急対応が構築されている。大阪・関西万博会場においても生体情報、位置情報により‟突然死ゼロ”を目指している。
 1970年の大阪万博の太陽の塔には‟生命の木”が設置されていたが、今回の万博では、未来型の野菜の水耕栽培と魚の養殖を同時に実施する「生命(いのち)の球」を大阪パビリオン前に設置する。
 温度域、塩分濃度など環境の異なる水槽を球全体に複数設置し、多様な環境下での魚類、野菜の組み合わせが展示される。
 最後に、気になる万博の進捗状況について森下氏は、「会場へ行けば、大阪パビリオンの外観がほぼ出来上がっている。その横に高さ12m(外観は20m)内径約615mの世界最大級の木造建築物となる極めて大きなリング(大屋根)を建設中であるが、これが完成すれば『間に合わない』という人はいなくなるだろう」と強調した。
 その上で、「他のパビリオンも大阪パビリオンと同様にリングと同じ12mの高さ制限があり、プレハブでいうと2階か3階建てまでである。しかも、万博の建物は撤去しなければならないので重いものは作れない。杭打ちもそんなにしない」と説明
 さらに、「基本的にパビリオンは鉄骨住宅みたいなものなので建物は十分に間に合う。外装と展示の中身も心配ない。来年になれば、‟間に合わない”という話題は収まって、パビリオンの来場予約などに焦点が移るだろう」と言い切った。

大阪・関西万博会場模式図

 なお、この神農祭市民公開講座は無観客で実施しており、全容は、後日、医薬通信社の協力によりYouTube配信する。

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