塩野義製薬は19日、新型コロナ経口治療薬「ゾコーバ」の新たに得られた臨床データとして、P2/3試験(SCORPIO-SR Study)Phase 3 partにおいて、治療1年後の息切れ、集中力と思考力の低下、物忘れなどCOVID-19罹患後症状(後遺症、Long COVID)発現リスクの低下傾向が確認されたと発表した。同試験より、重症化リスク因子を有する患者への治療選択肢としての可能性が示唆された
この試験結果は、17~20日の3日間、スペイン バレンシアで開催中の第9回 ESWI Influenza Conferenceで発表される。同学会のLate-breakingセッションでポスター発表される2つの新規データの概要は次の通り。
SCORPIO-SR Study Phase 3 partの新規データは、塩野義製薬が日本を中心にアジアで実施したP2/3相臨床試験(SCORPIO-SR Study)のPhase 3 partにおいて、発症120時間以内にエンシトレルビル1日1回5日間経口投与後1年間(3ヵ月(Day 85)、6ヵ月(Day 169)、1年(Day 337))のCOVID-19罹患後症状に対する患者の自己評価を探索的に評価した新たな結果である。
同試験では、「COVID-19罹患前の健康状態に戻っていない」と報告した患者の中で、評価項目として設定した27の症状のうち、少なくとも1つの軽度以上の症状がある場合をLong COVIDと定義した。
これまでの3ヵ月(Day85)、6ヵ月(Day169)時点の結果同様、エンシトレルビル 125 mg群 および 250 mg群において、治療1年後のLong COVIDの発現リスクが低下傾向を示した(プラセボ比でそれぞれ25%および26%の相対リスク低下傾向)。
特に、息切れ、集中力と思考力の低下、物忘れにおいては、治療1年後で統計的に有意な低下を示した。また、サブグループ解析の結果、27症状のいずれかを有する患者のうち、BMIが25kg/㎡以上の患者および治療開始時に症状スコアが中央値以上の患者では、より顕著なLong COVIDの発現リスクの低下傾向が確認された。
重症化リスク因子を有する患者への治療選択肢として可能性示唆
同発表は、重症化リスク因子(併存疾患、高齢者など)を有する入院患者に対する、レムデシビルからゾコーバへの切り替えによる治療効果について評価した結果となる。
同臨床研究では、りんくう総合医療センターが実施主体となり、3日間以上レムデシビルによる治療を受けた後、十分な抗ウイルス効果が確認されなかったCOVID-19入院患者21名に対して、ゾコーバ1日1回5日間経口投与後のウイルス学的転帰、臨床転帰、有害事象の発生を評価した。
評価対象患者の平均年齢は78.0歳で、76.2%がワクチン接種済みで大部分の患者のCOVID-19重症度は軽症または中等症であった。
また、多くの患者が併存疾患を有していた(悪性腫瘍:33.3%、腎疾患または腎不全:19.0%、全身性コルチコステロイドの使用:23.8%)。
ゾコーバ治療終了の翌日までに14名(66.7%)の患者がウイルスクリアランスを達成(鼻腔内抗原量 <89.73 pg/mL)した。そのうち2名はゾコーバ投与開始以降、14 日目までにウイルスのリバウンドが確認されたが、臨床症状の発現は伴わなかった。
また、ゾコーバ治療終了の翌日までに全ての被験者の臨床的改善が確認された。なお、28日目までに集中治療室(ICU)への入院、重症化および死亡した患者はなく、ゾコーバに起因する有害事象は観察されなかった。
◆倭正也りんくう総合医療センター総合内科・感染症内科部長兼感染症センター長のコメント
重症化リスク因子を有する患者に対する治療薬は限られており、COVID-19の重症化を抑制する治療薬として、さらなる選択肢が求められる。本研究で得られた結果より、ゾコーバがそのメディカルニーズを満たす可能性が示唆された。