武田薬品は13日、9月9日から12日までシンガポールで開催された世界肺癌学会(WCLC2023)の年次総会において、非小細胞肺がんの患者の肺がん関連遺伝子検査(コンパニオン診断)に関する認識や実施状況を調査した研究結果を発表したことを明らかにした。
これまでに、がん患者さんを対象とした遺伝子検査に関する意識調査はあったものの、肺がん患者さんを対象とした遺伝子検査の実情に関する研究は限定的であった。そこで同研究では、肺がんにおける最適な個別化医療の達成のために重要な因子を同定し、個別化医療の現状を明らかにすることを目的に実施された。
現在、日本では、医学研究・臨床試験における「患者・市民参画(Patient and Public Involvement: PPI)」に関する取り組みが推進されている。これを受け、同研究では、肺がん患者の視点を研究内容に取り入れることを目指し、国内の複数の肺がん患者団体と協働し、さらには肺がん患者団体、肺がん診療医師、ゲノム情報解析企業および同社から成るマルチステークホルダーを構成員とするプロトコル委員会を設置し、研究実施計画書および調査票の作成、調査結果の解釈を行った。
調査対象は、18歳以上の非小細胞肺がんの患者で、薬物治療を現在受けている、または過去に受けたことがあり、調査画面で同意が得られた患者を対象とした。調査に際しては、NPO 法人肺がん患者の会ワンステップを通じて回答を募集し、すべての設問に回答した 222 名のうち適格性基準に合致した 214 名を解析対象とした。今回の研究結果を通じて明らかになった主なポイントは次の通り。
遺伝子検査に関する情報源について、「医師」と回答した患者さんが最も多く、次いで「インターネット」「公的機関ウェブサイト」等が利用されていた
患者はできるだけ多くの遺伝子を検査することを希望している傾向がみられた。一方、実際には、検体量・治療開始までの期間・保険償還などの問題から、患者さんの要望との間にギャップが生じる可能性があり、患者と医師との適切なコミュニケーションが重要と考えられた
患者の半数近くが医師に治療方針の決定を委ねているという過去報告もある中、同研究結果では、遺伝子検査の実施方針決定に関して「医師から十分な説明を受け、医師と話し合ったうえで、医師と合意して進めたい」と回答した患者の割合が高かった
武田薬品では、あらゆる意思決定において、患者に寄り添い、人々と信頼関係を築き、社会的評価を向上させ、従業員は存在意義(パーパス)の実現に向かって事業の発展に取り組み、すべてのステークホルダーや社会に持続的な価値を提供している。この方針に基づき、武田薬品の日本オンコロジー事業部では、着目する5つのがん医療課題を「Takeda Japan Oncology Policy」として掲げている。同研究はその課題の一つ、「がんゲノム医療の提供体制の構築」の実現に向けたものである。
さらに、日本オンコロジー事業部では、患者団体・医療関係団体・企業間のパートナーシップを通じて、がんゲノム医療の現状と課題を約 1 年間にわたり議論した結果をディスカッション・ペーパー「がんゲノム医療の明日に向けて」として発行。今後も引き続き、ステークホルダー間の連携を図るとともに、日本における患者を中心とした適切ながん医療の実現を目指し、支援していく。
◆今回の世界肺癌学会で本研究結果を発表した NPO法人肺がん患者の会ワンステップ代表 長谷川一男氏のコメント
本研究に参加いただいた多くの肺がん患者さんにお礼を申し上げる。この研究結果を足がかりとし、引き続きがん患者さんを取り巻く様々なステークホルダーが力を結束することで、全ての肺がん患者さんが治療機会を逸失することなく最適な個別化医療へのアクセスが可能となる環境の構築が実現することを心から望んでいる。