Heartseedは5日、iPS細胞由来の間葉系幹細胞を開発するバイオテック企業のライセンシーと、Heartseed独自の純化精製プラットフォームであるメタボリックセレクション技術に関する特許について、非独占的なライセンス契約を締結したと発表した。
iPS細胞から目的の細胞を作製し、それを投与する再生医療の臨床応用が進む中で、腫瘍形成の原因となりえる未分化iPS細胞をできるだけ除去することが求められている。
今回契約に至った技術は、未分化iPS 細胞に選択的に高発現する脂肪酸合成酵素を阻害することで未分化iPS細胞を除去するもの(対象特許:特許第 6811489 号及び対応外国特許)。
ライセンシーは、自社でiPS細胞から再生医療に有用と考えられる間葉系幹細胞などの細胞を作製する技術等を有し、同技術の利用によって効率的に未分化 iPS細胞を除去し、再生医療の開発の推進を図る。
同契約により、Heartseed はライセンシーに、当該特許の非独占的実施権を許諾し、その対価として、一時金、およびライセンシーの売上高に対するロイヤルティを受領する。なお、ライセンシーの企業名、経済条件等は、非開示としている。
Heartseedは、iPS細胞から高純度な心筋細胞を作製し、心筋球と呼ぶ微小組織を形成して、患者の心筋内に移植する心筋再生医療の早期事業化を目指している。Heartseedは、設立母体の慶應義塾大学医学部内科学教室(循環器)と共同で、心筋細胞の作製時に残存する未分化iPS細胞や非心筋細胞を効率的に除去するために、細胞のタイプごとのエネルギー代謝の違いに着目し、培養液の成分の工夫によって目的外の細胞が死滅し、目的の細胞のみを得られる「メタボリックセレクション」を開発してきた。
メタボリックセレクションには、心筋細胞だけを効率的に選択できることで広く知られている乳酸法、グルタミン法に加え、脂肪酸合成阻害法があり、慶應義塾大学医学部内科学教室(循環器)専任講師の遠山周吾氏らにより、いずれも影響力の高い学術誌に発表されている。
同契約の対象となった脂肪酸合成阻害法は、極めて単純な工程によって、臨床応用を視野に入れた未分化iPS細胞の除去を可能にする技術である。
iPS細胞では、分化した心筋細胞と比べて脂肪酸合成酵素の発現が約10倍高い。そのため、化合物等により脂肪酸合成酵素を阻害すると、iPS 細胞では生存に必要な脂肪酸の合成が阻害され細胞が死滅する(図)
一方で、分化した心筋細胞では脂肪酸合成酵素の阻害による影響は限定的であり細胞死は認められない。さらに、脂肪酸合成阻害法は、心筋細胞に限らず、神経や肝臓の細胞などでも未分化 iPS 細胞の除去に利用できる可能性が示されている。
Heartseedは、今回のライセンス実施許諾契約の締結を皮切りに、心筋再生医療以外の領域で同社のメタボリックセレクションに関する特許を使用する、もしくは使用を希望される企業に対して、ライセンスを進め、iPS細胞を用いた細胞治療の実用化に貢献していく。
◆福田恵一Heartseed代表取締役社長のコメント
今回、我々独自の純化精製技術に関するライセンス契約が締結できたことを大変喜ばしく思う。iPS細胞を由来とする細胞治療の実用化のハードルの一つは未分化な細胞の残存による安全性への懸念である。
当該技術は、様々な分化誘導後の細胞にも応用可能なもので、従来のメタボリックセレクションと同様に細胞製造の工業化も指向したものだ。我々は、今後も当該技術を必要とする方々には広く本件特許のライセンスを行い、再生医療全体の産業応用へ貢献する所存である。